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第五十二話【想いのローブ】

 ガタガタと揺られる馬車の中、僕は遠くの景色を眺めていた。

 

 エントリア王国を出発してから半日ほどが経過した。

 既にエントリア王国の領地外にいるが目指すフレンシア大陸まではまだまだある。

 

 フレンシア大陸までの道のりはこんな感じだ。

 まずエントリア王国から出発しアイズ大陸内を南下。

 すると横に進むとウェンツェ王国があるのだがそうなると遠回りをすることになる。

 なのでウェンツェ王国には寄らず野営でもしながら進むそうだ。


 二日目ではさらに南下しアイズ大陸とフレンシア大陸を唯一の陸の道を通る。

 そこは山間道とも呼ばれ二つの大きな山に挟まれている。


 フレンシア大陸には二日目までに着く予定だ。

 このまま何もなければの話だが。


 ただ問題はついてからだ。

 フレンシア大陸にいる可能性があるだけでいるかはわからない。

 さらにはフレンシア大陸のどこにいるかもわからない。


 あの硬貨をさらに調べた結果、使用している国が三つ存在した。

 国が絞れているとはいえ三つもある。

 恐らく途方もない時間がかかることだろう。

 それでも見つけ出さなきゃいけないんだ。


 ちなみに今回、フレンシア大陸に行くことは既に父さん達に手紙を出している。

 でも届くのは数日後だろう。

 もちろんリリーシャの家族にも手紙を書いた。

 自分のせいで助けられなかったこと、約束を守れなかったこと、その謝罪を綴った。

 近いうちにしっかり面と向かって謝罪をしに行こう。


「クレイ、大丈夫?」

「今のところは大丈夫ですよ」


 反対側に座っていたシュレーナさんがこちら側にやってきて馬車の壁にもたれかかった。


「シュレーナさんは大丈夫ですか?」

「今はクレイがいるから大丈夫」

「そ、そうですか……」


 シュレーナさんは凄い。

 お母さんが亡くなって辛い状況のはずなのに今はそれを乗り切って、さらに同部屋であり友達であるリリーシャがいなくなった今もこうして暗い表情ひとつ見せない。

 思えばあのルハイル大森林の時もそうだった。

 泣いていたけどそれでも瞳はいつも諦めていなかった。

 僕にはそんな丈夫な心はない。


「クレイは大丈夫?」

「え、あ、はい。大丈夫ですよ」

「私はクレイがいるから大丈夫。クレイはなんで大丈夫?」


 おっと、これはまさかそういう事なのか。

 シュレーナさんがいるから大丈夫と言ってほしいのか。

 というか言った方がいいのか。

 みんなが居るのに。


 僕の顔を覗き込んで訴えかけてくるシュレーナさん。

 やめてくれ、僕にはそんな度胸はないんだよ、シュレーナさん。


「クレイ?」

「はい?」

「…………」


 やっぱり言わないと先には進まないらしい。

 男クレイ、ここは一つやるしかない。


「……シュレーナさんがいるから大丈夫ですよ」

「……やった」


 一瞬不満そうな顔をしていたがすぐに嬉しそうな表情をしていた。

 というか顔が異常に熱い。

 絶対に今、赤い。

 最悪だ。


「クレイ」

「どうしました?」

「絶対にリリーシャ、見つけよ」

「……そうですね。絶対に見つけましょう」


 その後も僕らは馬車に乗り、長い長い道をひたすら進んでいった。


***


 辺りはすっかり真っ暗になった。

 ローブを着ていても少し肌寒い。


 馬車は近くに木が数本、比較的ひらけた場所で止まった。


「今日はここらで夜営をするぞ」


 ログマネスがそう言ってきた。

 僕らは馬車からひとまず降りた。

 後ろからついてきていたぜルディック兵士長達も降りてきた。


「やっぱ夜の外は冷えるな」

「だよな。小枝でも集めて生活魔法で火を灯すか」

「物を集めてくるなら必ず二人以上で行けよ。一人で行ったら何かあってもどうすることも出来ないからな」


 ログマネスが忠告をしてきた。

 各々作業をしながら軽く返事をした。


「クレイ、枝集めよ」

「いいですよ」


 僕とシュレーナさんは木の周りに使えそうな枝がないか探しに向かった。

 暗いので一応杖を使って明かりを灯した。


「あんまりなさそうですね」

「もう少し奥に進んでみる?」

「一応そうしてみますか」


 馬車近くの木周辺にはそれらしい枝はなかった。

 ということで木々が並ぶさらに奥へ進んでいった。


「雑草ばかりで枝、ないですね。花とかも咲いてませんし」

「もしかしたら地が枯れてるのかも」

「特定の何かに栄養が偏ってるんですかね」

「多分そんな感じ」


 歩きだして数十秒、どこからかポチャンという水に何かが落ちた様な音がした。


「今の……なんですかね?」

「……わからない。魔物?」


 まさかこんなところにまで魔物が。

 でも居てもおかしくはないんだけど。


「シュレーナさん、あまり先に行ったら危ないですよ。魔物だったら尚更危険ですし」

「大丈夫。クレイは私が守る」

「それでも危ないので――」


 その瞬間、シュレーナさんはバチャンっという激しい水の音と共に姿を消した。

 

「シュレーナさん!!!?」

「……下」


 杖の火の明かりを地面に向けると胸辺りまで水に浸かったシュレーナさんが居た。

 まさかこんなところに湖、いやちょっとした池みたいなものがあるなんて。


「シュレーナさん、大丈夫ですか! 今助けます!!」


 僕はシュレーナさんに手を差し伸べた。

 その手をシュレーナさんが強く握った。


 思いっきり池の中からシュレーナさんを引っ張り出した。

 助けられたのはいいもののシュレーナさんは完全にびしょびしょだ。

 夜にそんな状態だと絶対に風邪を引いてしまう。

 どうしたものか。


「クレイ?」


 それにあれだ……そう、ちょっと良くない。

 濡れた姿のシュレーナさんはあまりにも刺激的過ぎる。


「…………」


 シュレーナさんの顔が赤い。

 やはりこのままだと風邪を引く。


「……他も見る?」

「な、何を言ってるんですか!!」


 シュレーナさんのまさかの発言に思わず動揺してしまった。

 それと同時に見たいと言えば見れたのにという後悔が押し寄せた。

 そんな事を思ってしまった自分に怒りたい。


「とりあえず他の人に見られるのは何と言うか嫌なのででこれを着てください。あっ、一応そっちのローブは脱いだ方がいいかもしれないですね」


 びしょびしょになってしまったローブを脱がせ僕の着ていたローブを着せた。


「あ、ありがと」


 シュレーナさんは自分のローブを掴んでこっちを見てそう言ってきた。

 

 その後シュレーナさんは杖で何かをしだした。

 と思ったら風を巻き起こした。


「ど、どうしたんですか!!」

「乾かした」

「え、?」


 するとそれまで濡れていたシュレーナさんのシャツやスカート、長い黒ソックス、そして僕の手に持っていたシュレーナさんのローブが一瞬で乾いていた。


 それが出来るならローブを着せた意味がなくなってしまった。


「あ、じゃあこっちは返しておきますね」

「それだとクレイが風引いちゃう。着て?」

「いや、でも。良いんですか?」

「うん。クレイならいいよ」

「あ、ありがとうございます」


 僕はゆっくりゆっくり恐る恐るシュレーナさんのローブに腕を通した。


「暖かい?」

「もちろんです」


 これがシュレーナさんの体温……いや、女子のローブは厚いから暖かいのか。

 シュレーナさんのローブはいい匂いとほんのちょっぴり違う暖かさを感じた。

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