第五十一話【杖と剣が世界を変えるまで】
ここは……。
起き上がるとそこは寮の部屋だった。
リリーシャが連れ去られたあとここまで運ばれてきたのか。
にしても身体中が痛い。
じんじんとした痛みがある。
とりあえずみんながいるかもしれないところに行こう。
どこにいるかさっぱりわからないけど。
ベッドから足を下ろすとカチャンと金属が倒れる音がした。
何かと思い足元を見た。
そこには鞘にしまわれていない剣があった。
見覚えのある剣――リリーシャのだ。
その剣を握った。
リリーシャ……。
一体どこにいるんだ。
無事なのか。
何もされてはいないか。
頭に浮かぶのはいつも最悪な結末。
もしリリーシャが死んでいたら、僕はどうすればいい。
ラルスさんに見せる顔がない。
みんなとこれから過ごしていく自身もない。
それにオルス村にも帰れない。
守ると言った一人の女性を守れない男にギーヌさんは失望し嫌う。
父さんだって母さんだってきっと見捨てるはずだ。
リリーシャ、君は一体どこにいるんだ。
僕はどうしたらいい。
「入るぞ」
ノックと共に声がした。
この声は多分ログマネスかな。
なんでこの部屋に来たんだろうか。
「もう目を覚ましたのか。随分早い回復だな」
「……はい。よかったです」
「どうした、お前らしくないな。……他のやつは無事だ」
「え!」
「アゼットはまだ横になった状態だが意識はある」
良かった。
みんな無事だったんだ。
それが聞けただけで少しホッとした。。
「まぁ、元気を出せ」
「……ありがとうございます。でも今はそんな気分にはなれそうになくて」
「そんなのは知らん。とりあえずついてこい。みんなのところに行くぞ」
「……僕は大丈夫です」
「ついて来ないと単位下げるぞ」
「……そんな力ないだろ」
「なんか言ったか?」
「いえ」
僕は剣を布で包んで部屋を出た。
***
連れてこられた場所は食堂だった。
そこにはシュレーナさん、アリアさん、ケイト先輩、チユ、包帯を巻いたアゼットがいた。
「クレイ、大丈夫?」
シュレーナさんが心配そうな目をして話しかけてきた。
「……はい」
軽く返事をする。
今はそれだけしか出来なかった。
それ以外発する気力もなかった。
「とりあえず座れ」
ログマネスに言われ食堂の席についた。
無言。
そんな状態がしばらく続いた時、ケイト先輩が口を開いた。
「クレイ、お前の気持ちはよくわかる。……エリカもいなくなった」
「……え」
ケイト先輩の言っていることを理解するのに時間がかかった。
あのエリカ先輩がいなくなったって。
まさかアザール以外に誰か居たというのか。
「ダンジョンが激しく揺れ、地面に穴が空いた。そこにエリカは落ちたんだ。下に降りれば助けれると思った。でもそこに学校のローブを着たやつが現れて連れ去った……」
学校のローブを着たやつ……。
このエントリア魔法学校に魔法士教に加担する何者かがいるというのか。
でも居てもおかしくはない。
この学校には強さに溺れる者も少なくはないし。
「悔しい。目の前にいたんだぞ。目の前にいて、なのに何も出来なくて。一生守ると人生に誓ったのに。くそっ」
いつも冷静なケイト先輩が乱れている。
僕はそんなケイト先輩に何か言ってあげれば良いのかわからなかった。
「こればかりは仕方がない。過ぎたことに嘆いても意味がない。後のことは私達がなんとかする。お前達は普通に生活を送ると良い」
「――じゃがそれも難しいじゃろ」
ログマネスがそう言った時、どこからか声が聞こえてきた。
食堂の入口に居たのはグリデット校長だった。
「君達が持ち帰ってきてから三日、色々調べてみたが少しわかったことがあるぞ」
今三日って言ったか。
もしかして僕は三日も寝ていたのか。
どれだけ魔力を使い果たしたんだ。
こちらに近づいてくるグリデット校長。
手には金色のメダルの様な物を持っていた。
「調べた結果これはフレンシア大陸の硬貨じゃった。確実とは言えんが魔法士教はフレンシア大陸のどこかにいる可能性がある」
「ということはそこに行けばリリーシャは見つかるんですか!」
「そうかもしれぬ。じゃが君達は生徒、そんな危険な橋を渡らせるわけには行かぬ」
「でも!!」
「そこで彼らにお願いをしようと思う」
すると食堂の入口からゼルディック兵士団長と知らない人達がやってきた。
「エントリア王国の兵士団長――ゼルディックだ」
「俺は兵士団長の班のグレイだ! よろしくな」
「またお会いしましたね。ウェンナです」
「私はリスタ。よろしくね」
全員強そうな雰囲気をしている。
国家の兵士なのにやけに服装が自由なんだ。
「彼らが攫われた生徒を救いに長期遠征を実行する予定じゃ」
「それに僕を連れて行ってください!!!」
大きな声で伝えた。
きっとこれは最後のチャンス。
これを逃せばもうリリーシャには会えないかもしれない。
「仲間を失う気持ちは分かるが、お前はまだ子供だ。余計なことは気にするな」
「それでも僕は!! ついていく! 危険だとか知ったことか! もう何度もそんな目に遭ってきた。今更だ!!」
すると座っていたアゼットが立ち上がった。
「いてッ……俺も行くぜ。仲間を助けるためにな」
「それなら私も行きます。まだリリーシャさんとは話したいことがたくさんありますし!」
「私も行く。部屋に一人だと寂しい」
「……俺もだ。エリカを救いたい。治安会会長の座を失っても救いたい! だから――!!!!!!」
みんなが加勢してくれた。
その時、リスタさんが食堂の机をバンっ叩いた。
「私はそんなことを言って死んできた人を何人も見てきた。まだ若い君達にそんなことをさせるわけにはいかないの。お願いだからわかってよ。本当は連れていきたいよ。でもそう簡単に行くようなものじゃない」
「……それでも行きたいんです。危険とか死ぬかもとか、仲間を救うためにそんなことで迷ってたら魔法士、魔法剣士になんか慣れませんよ……」
「……わかってるよ。でも、事情があるの! エントリアは未来ある魔法士、魔法剣士を特別な理由もなしに向かわせることを許さないの……これは国の決まり、抗えない。だから諦めて」
そんな、仲間を救うことが特別な理由でないと。
国にとって一人や二人がいなくなることはどうでもいいというのか。
国は何もわかってない。
僕らは仲間なんだ。
なのに救うことも出来ないなんて。
「ゲホゲホ」
ログマネスが静寂を断つように咳払いをした。
「グリデット校長、私にはまだあの権利はあるんですか?」
「あぁ、勿論じゃ」
「ふっ、そうですか」
ログマネスは立ち上がると僕の顔を見てきた。
「クレイ・グランディール、シュレーナ・パライナット、アゼット・フォリア、アリア・ブランダー、ケイト・ルアンダー、貴様ら五人は国の規則に反する行動をしようとした。よって私が直々に遠征特別指導を行う。場所はフレンシア大陸だ。くれぐれも逃げるなよ」
そう言ってログマネスは食堂を去っていった。
「ホッホッホ、全くあやつは不器用じゃな。ちなみにこれは国の人間としてはどうなんじゃ?」
「教師が生徒に指導を行う場合、その全ては教師に委ねられる。よって何の問題もないな」
「ということは僕らも行けるということですか!!」
「そういうことじゃ」
ログマネス、やっぱりいい人なんだな、不器用なだけで。
僕らは一斉に立ち上がり喜びあった。
***
ケイト先輩に少しついてきてほしいと言われた。
そして今は治安会にいる。
「クレイ、お前にとってリリーシャは大切な存在なんだな」
「……それは自分でもわからないです。でもきっとそれに近いものだってことはわかります」
「そうか。クレイ、あの時立ち上がってくれてありがとう。俺にはあんな勇気はなかったから」
「……いえ、みんなが加勢してくれなかったら何も始まりませんでした」
ケイト先輩は引き出しの中から何かを取り出した。
「ほら、これを受け取れ」
するといきなり何かをこちらに向かって投げてきた。
「これは……?」
「鞘だよ。お古のだけど。ずっとそのままだったら持っていけないだろ。だから使ってくれ」
「ありがとうございます!」
「フレンシア大陸でも頼んだぞ」
「もちろんです!」
その時扉をノックする音が聞こえた。
扉が開くとそこにはチユがいた。
「どうしたんだ、チユ?」
「わ、わたしも行く」
「え? でもチユは指導にはなってないから無理なんじゃ……」
「ロ、ログマネスに言ってやった、よ、呼び捨てした。も、もう呼び出されてる」
チユさん、一体何をしているんだい。
食堂で一緒にいたけど萎縮して固まっていた。
そんなチユがまさかログマネスに呼び捨て出来るようになるとは。
これは感動だ。
「また頼もしい仲間が増えたよ」
僕はリリーシャの剣を鞘の中にしまった。
絶対にリリーシャを助ける。
彼女の笑い声が聞こえる日が、盛り上げる声が聞こえるその日を戻らせる為に。
たとえ大怪我をしても構わない。
魔法が使えなくなるような状態になってもいい。
それを代償にリリーシャを助けられるならなんでもいい!
世界に拡大する魔法至上主義、そんな馬鹿げたことをする魔法士教は絶対に許さない。
それのせいでどれだけの命が奪われると思っているんだ。
リリーシャまでも犠牲になって。
絶対に許しはしない。
僕が終わらせる。
だから僕らはどんな困難があろうがどんな危険があろうがどんな敵が現れようがひたすら我武者羅に走り続ける。
僕らの杖と剣が世界を変えるまで――。




