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第五十話【持たぬ者、奪う者】

「火の加護を与えし者よ、力を一点に集中させ、内で燃え盛る炎を我が剣に宿せ」

「水の加護を与えし者よ、()てつく氷晶の力を引き出し我が剣に魔力を宿せ」


 アゼットの剣は燃え盛る炎が纏い、リリーシャの剣は冷たい氷が纏い冷気溢れ出ている。


「足引っ張るなよ」

「そっちがね!」


 二人はアザールに向かって走り出した。


「『冰化斬撃(グラセ・エクラゼ)』」


 リリーシャはアザールを通り過ぎた。

 凍り付いたアザール。

 そこにアゼットが向かった。


「『炎斬(フレイム・スラッシュ)』」


 炎の斬撃がアザールめがけて飛んでいく。

 その時氷の中からアザールの声が聞こえてきた。


「フッ、小癪」


 その瞬間僕らの見える視界が歪んだ。

 と思ったらすぐに治った。

 だがなぜか凍っていたはずのアザールが僕らの背後に立っていた。


「な、何が起こったんだ?!」

「あなた達は既に私の魔法の中。見えているのは現実か、はたまた幻覚か。どちらだと思いますかぁ?」


 幻覚……。

 もしアザールが特殊魔法である幻覚魔法を得意とするなら厄介すぎる。

 幻覚魔法や結界魔法はもはや初見殺し。

 繰り返し幻想を受けることで初めて対応出来るものなのだがそう簡単に連発するものはいない。

 対処方法を見つけられては意味がないからだ。


「クレイさん! 前を!!」


 アリアさんが叫んだ。

 言われた通り急いで前を向くとさっきまで後ろにいたはずのアザールがいた。

 

「正解はこっちが現実ですよ」


 パリィっとリリーシャの氷が割られた。

 割られているところを見たのは初めてだ。


「ちょっと! 私の氷がなんで割れるの!?」

「それは簡単なことですよ。あなたが私に魔法を使う寸前に幻覚世界に誘った。次に幻覚世界から戻す際に私が凍り付いているかのように錯覚させる。ね? 至って簡単なことでしょう? しかし持たぬ者は皆揃って理解できない。何故なら無能者だからだね」


 自分達の攻撃ですら当たったのかを判断することができない。

 本当に厄介だ。

 それに壱の合図で発生した幻覚の時、アゼットの魔法も消失していた。

 それは一体どういう原理なんだ。

 こんなことになるなら特殊魔法に関しても勉強しておくんだった。


「さぁ、時間ギリギリまでお相手しますよ?」


 幻覚について知る必要があるが今はそんなことを考えている場合じゃない。

 ただひたすらに攻撃するのみ。


「燃え盛る火柱で我が敵を吹き飛ばせ。『火柱(ブレイズ)』!!!」


 火柱がアゼットへ飛んでいった。

 

「フッフッ」


 笑みのあと火柱がアザールに命中した。

 そう思っていたがそこにはもうアザールはいなかった。


「これはぁ、もしやあなた目が悪いのですか?」

「くっ……」


 その後も僕は何度も魔法をアザールに放った。

 だが結果は同じだった。


 どれだけ狙っても当たらない。

 なら狙わずひたすら広範囲に魔法を発生させれば行けるかもしれない。


「火の加護を与えし者よ、炎を宿し無尽蔵の熱量を放つ数多の球体を顕現させ我が敵を燃やし尽くせ。

火炎(ファイア・)交差弾(クロスバレット)』!!!!!!」

「!?」


 ダンジョン零階層内に無数の火の弾が現れ不規則に飛び回る。


「おい、クレイ・グランディール、私も狙っているのか!!」

「ちょっとうるさいです!」

「な、なんだとッ!」


 アザールの声も姿も聞こえないし見えない。

 ただ微かに何回か魔法が当たった感触があった。

 このままもっともっとだ。

 行ける、物量こそがアザールの弱点だ。


「私も手伝います!」


 引きずり終えたアリアさんがやってきた。

 後ろにはシュレーナさんもいた。


「水の加護を与えし者よ、静かに湧き出る流れを今ここで一つにし水沫を爆ぜさせよ。『水泡(アクア・バブル)』」


 アリアさんが詠唱を終えた。

 するとあちこちに泡がぷかぷかと浮き出した。

 発生した泡は一定時間が経過すると順に破裂した。


「……くっ」


 泡が破裂した時微かに赤色の何かが見えた。

 きっと血だ。

 やっとアザールにダメージを入れることが出来た。


「やめだ!」


 順調だった。

 しかしログマネスが僕達の魔法を打ち消した。


「何してるんだよ! せっかく攻撃が……!」

「見ろ! これ以上その魔法を使ってたらダンジョンが崩れるぞ。そうなれば全員生き埋めだ!」

「でも……」

「そんなに戦いたいのならもっと考えて魔法を放て」


 ログマネスの言っていることは正しい。

 少し熱くなり過ぎていたのかもしれない。


「みんな、行こう」


 僕の掛け声にみんなが反応した。

 絶対に倒す。

 アザール!!


***


「はぁ……はぁ……」


 あれから数分が経過した。

 長期戦の影響でみんな疲れ始めていた。

 しかしアザールはあまり疲れている様子はなかった。

 ただ確実にダメージを入れることは出来ていた。


「さっきから私の魔法を打ち消し続けるとは。本当に厄介」

「それが私の役目だ」


 ログマネスもかなり疲れているはずだ。

 それなのにずっと僕らに放たれる魔法を打ち消してくれていた。


「少し時間をかけすぎたかもしれません。そろそろ戻らなくては」

「待て! まだだ、まだ行かせない!」

「……いい加減懲りなさい!!!!」


 アザールが僕めがけて魔法を放った。

 それに対して僕は炎刃(フレイム・スラッシュ)を放った。


 二つの魔法はぶつかり煙が舞った。


「そうだ! これを待ってたぞクレイ!!!」


 煙の中アゼットがアザールの背後を取った。

 しかし一瞬で煙は消えアゼットの剣は押さえられた。


 だがアゼットは剣で攻撃することは止め、思いっきり足で蹴り飛ばした。

 アザールは白猫から手を離し地面を転がった。


「ナイス! アゼット!」

「おう!!」

「私もそれやりたかった!!」


 蹴られたアザールはゆっくり立ち上がった。


「……やってくれましたねぇ。この私にこんなことをするなんて。もういいでしょう。とっとと終わらせてあげます」


 三秒後、アゼットの目の前にはアザールが立っていた。


「!?」

「終わりですッ」


 アザールの杖から鋭い炎を纏った針が現れた。

 その針はとっさに反応したアゼットにより本来の軌道からずれたがそれでも完全ではなかった。

 針は深くアゼットの左肩に突き刺さった。


「アゼット!!!!」

「アァァァァ!!!!!!!!!」

「フッフッフッ、聞こえますか。持たぬ者の遠吠えがッ!!!」


 アザールは突き刺さっている針めがけて拳で殴った。


「…………アァァ」

「や、やめろやめろやめろ!!! 我が敵を燃やし貫け。『火槍(ファイア・ランス)』!!!!」


 僕は必死に魔法を放った。

 しかしその魔法は無詠唱の防御魔法により防がれた。


「アゼット!! 今私が助けるから!!」

「く、来るな……!」

「何いってんの! 見捨てられるわけないでしょ!!!」


 よせ、リリーシャ。

 行くな、今言ったらだめだ。


 リリーシャは動き出した。 

 でも僕は止める言葉を口に出来なかった。


「アゼットから離れてっ!!!!!」

「フッフッフ、これはあなた達の自業自得なのですよ。だから受け入れなさい!」

「やめろやめろ!!!!!!!!!!!」


 アザールは杖からさらに鋭い針を生み出しそれをアゼットの顔に突き刺そうとしていた。

 リリーシャが走っているが間に合わない。


 アゼットが死ぬ。

 死んでしまう。

 でもどうしようもできない。

 終わりだ。

 アゼットは死ぬ。

 アゼットは死んだ。


「こ、これは!?」

「……火の加護を司る者よ、我が手に宿り絶える事なき炎を灯せ――」

「こんなところでそれを使う気なのか!! 持たぬ者よ!!」


 なんだか身体が温かい。

 まるでシュレーナさんと森で遭難したあの時のような感覚。


 視界には蛍のように光る火。

 それは見惚れてしまうほど。


 あぁ、アゼット。

 どうなったんだ。


「クレイ・グランディール! やめるんだ! 私でも止めれないぞ!!」

「なぜただの学生が……あぁ、こうなったら!」


 アザールの声が聞こえる。

 それと同時にうっすらとこちらに針が飛んできているのが見える。

 でも今は動こうなんて思えない。


「クレイ!」


 足から猛烈な痛みを感じた。

 下を見ると足にあの針が突き刺さっていた。

 

 そしてすぐそこの地面にはアゼットが倒れていた。

 まだ生きている。

 多分、そうに違いない。


 良かった。

 これで何のためらいもなく出来る。

 きっと他のみんなはログマネスやシュレーナさんが守ってくれる。


「――『星火燎原(スパークルフレイム)』」


 火の光は激しく発光した。

 その途端に爆発を繰り返した。


 そして視界は光で覆い尽くされた。


***


「……あれ、ここは……」

「クレイ、大丈夫?」

「僕はなんとか……」


 多分僕らがいるのは五階層だ。

 まさかあそこから落ちてきたのか。


 ログマネスはアゼットのところで何かをしている。

 アリアさんはグラッテ達の様子を確認していた。


 ただ一人だけいなかった。


「リリーシャは?」

「……わからない」


 その時、近くの瓦礫の中からアザールが出てきた。

 アザールは血だらけだった。

 ようやく致命傷を与えることが出来て少し嬉しかった。


「……不完全とは言え上級魔法。なんて破壊力だ……」


 アザールはゆっくりとこちらに近づいてくる。

 僕も立ち上がり再び杖を握った。


「アザール!!!!!」


 リリーシャがいきなり現れアザールを後ろから攻撃しようとしていた。


「やめろ! リリーシャ!!」

「……はぁ……邪魔ですよ」


 振り上げた腕を掴まれたリリーシャ。

 そしてアザールはリリーシャの腹部を思いっきり殴った。


「グハッッ」

「リリーシャ!!!!!」


 リリーシャはぐてっとして剣を地面に落とした。

 そんなリリーシャをアザールは担いだ。


「……はぁ……私はこれくらいで、帰らさせてもらいますよ」

「待て、待てアザール!!!」


 歩き杖を向けた。

 しかし視界がはっきりとせず魔法を放てなかった。


「待ってくれ……リリーシャ……連れて行くな。奪うな……リリーシャを」


 もうフラフラだ。

 立っているのもやっとなくらいに。


「……では、またどこかで。会いたくはないですがねッ」

「逃げるな!! リリーシャを返せ!!!!!!」

「……フッフッ、お断りです」


 アザールとリリーシャは姿を消した。

 その瞬間に視界が真っ暗になり僕は倒れた。


 リリーシャ……守ってあげれなかった。

 約束したのに。

 リリーシャ。

 リリーシャ……。


 名を呼んでも帰って来ることはなかった。

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