第五話【二人の大人の結託】
次に目を覚ましたときには自分の部屋のベッドに横になっていた。
「僕は一体……」
ボソっと呟くと誰かが階段を登ってくる音が聞こえてくる。
「ちょっとフェン! 布濡らしといてよ」
「わかってるって」
どうやら階段を登ってきている人物の正体は母さんのようだ。
父さんと母さんの会話から数秒もしないうちに僕の部屋の扉が開いた。
「おはよう、母さん」
「うん、おはよう」
数秒の間が空いて母さんがこちらを物凄い目力で見つめてくる。
「クレイ! 目を覚ましたの!!!?」
「え、あ、うん」
母さんは急いで駆け寄ってきて体を起こしている僕に抱きついてくる。
「……ほんとに良かった。もう起きないんじゃないかと思ってたわ……」
「おーい、リシア! 布濡らしたけどどこに置いとけばいいんだ? おーい!」
「貴方! クレイが目を覚ましたのよ!!!!」
「なぁぁぁぁああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
父さんは叫びながら物凄い勢いでドタドタと階段を駆け上がってきて僕の部屋に入ってきた。
「ク、クレイ! 良かった……良かった……」
「父さん、母さん。一体何があったの?」
「父さんにもよくわからないんだ。ロイスなら一番知ってると思うぞ」
ゴンゴン!
ゴンゴン!
誰かが扉を叩く音がした。
「フェン、いるか? 今日も様子見に来たぞ」
「ちょうどいいところに来たみたいだ」
父さんは部屋を出て下に降りていった。
***
「なっ! クレイ、お前目覚ましたのか!?」
「なんかふと目を覚ましまして。それで一体何があったんですか?」
「そりゃあ凄かったぞ」
***
クレイが魔法を使ったあとの出来事。
「おい、なんだありゃあ!」
「あの規模……上級火属魔法、か」
「とりあえず行ってみるぞ」
子供数名と大人数名を連れた団体は天まで伸びる謎の炎の元へ走り出した。
「ここか……」
天まで伸びる炎の下に辿り着くとそこには二人の男女がいた。
「クレイ……?」
辺りは焼け跡だけが残る中、横たわるクレイを抱きかかえるシュレーナの姿があった。
団体は急いで二人の元に急ぐ。
「ふたりとも大丈夫か!」
「わ、わわ、私は大丈夫……でもクレイくんが魔法使ってから……動かない」
「なんだと……、誰か回復瓶を持ってないか!」
「効き目があるかはわからないけど安いやつなら」
「それでも良い! 一時的にしのげるなら!」
回復瓶を受け取ったロイスは急いでクレイの口に注ぎ無理やり飲ませる。
「お前ら、急いで運ぶぞ!!! シュレーナちゃんも戻ってゆっくり休むんだ」
「ク、クレイくんを」
「もちろん、任せろ!」
***
「そんなことがあったんですか。ロイスさん、ありがとうございます」
「礼なんていいぜ、別に。それよりあの魔法は何だったんだ? コットは上級火属性魔法だとか言ってたけどよ。それってとんでもないやつじゃないのか?」
「僕にもよくわからないんです」
上級火属性魔法。
各属性に下級、中級、上級、神聖級とあり別枠で古代級というのが存在する。
つまり上級火属性魔法とは火属の中で神聖級の次に強い階級ということだ。
本などで良く魔法について調べていたからそれらの存在を認知してはいたがなぜあの場で使う事ができたのかわからない。
今、使おうと思っても発動出来ない。
本当に何だったのだろうか。
「いやぁ、まぁ、それにしてもあの人と関わらなかったシュレーナちゃんがあんなにもクレイの事を気にかけてたのが一番の驚きだったぜ。お前、何したんだ?」
「べ、別に何もしてないですよ!」
「ふ〜ん、そうか。まぁ、目覚まして本当に良かったぜ。とりあえず俺は村のみんなに伝えてくるから! じゃあ!」
「色々とありがとうございます!」
「気にすんなって」
後ろを向いて手を振るロイスさんはそのまま僕の部屋を出て下に降りた。
しばらくして扉が開き閉まる音が聞こえた。
チクッとした痛みが左腕から感じる。
ぐるぐると包帯に巻かれた左腕。
「まだ痛い? 一応、回復瓶と私が治癒をしたんだけど」
「前よりかは痛くはないから大丈夫だよ」
治癒魔法を扱える者は意外にも多いそうなのだが扱えるほとんどの者が下級か中級程度の治癒しか扱えないらしい。
でも下級、中級しか扱えなくても仲間に治癒魔法を使える者がいるのといないのとだとかなり戦闘面で差が出る。
ちなみにだが母さんはたまに中級治癒魔法を使ってるのを見かけるのでそこまでの実力はあるみたいだ。
「あれ……」
これまで会話していて気がつかなかったがどこにも僕の杖がない。
もしかしてルハイル大森林に置いてきてしまったのだろうか。
「どうしたんだ?」
「杖で持ってきてくれなかった?」
「あぁ、それだがロイス曰くなかったらしいぞ。シュレーナさんのもだけど」
「えぇ……なんでだろう」
「多分だけどな、上級火属性魔法を使ったときに杖もろとも消滅したんじゃないか?」
その可能性は十分あるかもしれない。
僕の杖は木で出来たかなりの安物だ。
なのにその杖で上級魔法なんて使ったら限界が来てしまう。
まいったな。
「さては新しい杖が欲しいとでも言う気だな」
バレた。
「しかも今度はちゃんとしていていいやつを」
さらにバレた。
「ただその前に父さんと母さんからの相談なんだがな学校に行かないか? もう十五歳で学校に入ってもいいと思うんだ」
「学校……? でもいきなりなんで? 確かに十五歳から学びを始める人が多いとは聞くけど」
「クレイだってもっと魔法を知りたいだろ? それに今後のことも考えたら力もつけて貰ったほうが安心だしな」
今後のこと。
きっとそれは変異型に関することなのだろう。
一日に二回も遭遇するのはおかしい。
父さん達でさえ過去に数回しか遭遇していないというのに。
「わかった。行くよ。強くなって父さん達の為に役に立つ!」
「よしやる気十分だな。じゃあ頑張れよ! エントリア魔法学校で」
「エ、エントリア魔法が、学校!!!!?」
エントリア魔法学校。
それはここアイズ大陸のウェンツェ王国グラッドス領のオルス村から長い道を進み一つの山を超えた先にある魔法学校だ。
アイズ大陸では最大級と言っても過言ではなくさらに様々な設備も整っており学生が学べる環境が完璧だとも聞く。
だがそうなると……。
「学費、払えなくない?」
「おいおい、父さん達をあんまりなめるなよ。多分払えるさ!!!」
その自信はどこから来ているのだろうか。
心配でしかない。
「お金の面は心配しなくていいのよ。どうにかするから。クレイは学びに集中してね」
「うん」
母さんが言うならきっと大丈夫なのだろう。
ひとまず安心、安心。
「それじゃあ魔法杖を……って言う前にシュレーナさんのとこに挨拶にいかないとな。色々助けてもらったと思うし」
「わかった」
僕はベッドから降りるといつもの様に外套を身につける。
攻撃を受けていた部分は縫われている。
きっと母さんが眠りについている間に縫ってくれたのだろう。
「それじゃあ、行ってくるから家は任せた」
「今度はちゃんと帰ってきてよね」
「わかってるわかってる」
母さんに見送られながら僕たちは家の外に出た。
***
僕と父さんが歩きながらシュレーナさんの家に向かっているとその道中いつもとは違う光景が目に映った。
それは石に花を添えている者達が何人かいるのだ。
大抵そういう行動をするのは誰かが亡くなったときなのだが……まさか。
「あれか? みんなで村に帰ってきたときは重症のやつもちらほらいたが生きてはいたんだ。でも時間が経ったら……な。少なくとも三人は犠牲になったんだ」
「三人も……」
「この村や他のところでもそうだがこれは仕方ないと思うしか無いんだ。変異型の魔物は各地に出現して暴れては罪なき者の命を奪う。それにどうにか抗うしかないからな」
普通の魔物もそうだが特に変異型の魔物はどうにかしないといけない存在。
その為にも強くなってこの村を守らないと。
***
コンコンとシュレーナさんの家の扉を父さんが叩く。
今行きますというギーヌさんの声が聞こえて数秒後、扉が開く。
「フェンさん、それにクレイくん! 目を覚ましたんですか。娘も心配していたので良かったです」
「えぇ、ギーヌさん色々と手伝っていただきありがとうございました」
「いえいえ、こちらもクレイくんには助けてもらったので。それで今日はどうされたんですか?」
「実はこの間、話した件で来たんですが」
「あぁ!!!」
父さんとギーヌさんが会話しているとギーヌさんの後ろからトコトコとこちらにシュレーナさんが歩いてきた。
そして父さん達とは別で会話を試みた。
「あ、シュレーナさん、大丈夫ですか? 怪我とか……杖とか……」
「……一応、大丈夫。魔法杖はなくなっちゃったけど……」
「す、すいません」
僕とシュレーナさんの会話が途切れると父さん達の声がよく聞こえてくる。
「それで決まりですね!」
「はい、よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
何の話をしているのだろうか。
それにしてもお腹が空いた。早く帰りたい。
「父さん、ご飯食べようよ」
「わかったか、クレイ!」
「え?」
「学校でもシュレーナさんと仲良くするんだぞ!!」
「え?」
「だからシュレーナさんと、学校でも、仲良くする、ん、だ、ぞ!!!」
最後、強調する必要あったのか。
というより……
「シュレーナさんも学校に行くの!!!!?????」
親同士で謎の結託をし決められた僕らの学校行き。
果たし大丈夫なのだろうか。
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