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第四十五話【奪う視線】

 僕とシュレーナさんとアリアさんで魔法科学の授業を受けている。


 各テーブルに液体の入った小瓶をいくつか置かれている。

 この液体は特殊なものらしい。


 生活魔法学と似た要領で魔力を制御し中に入った液体に干渉する。

 杖をゆっくり小瓶の中に入れ微量の魔力を流す。


 本来なら特殊な液体と放出した微量の魔力が結合することで液体が変色するのだが全くできない。


 細かい制御をするのが苦手なのかな。

 不器用だとは思ったことがないんだけど。


 シュレーナさんやアリアさんはすぐに液体を変色させていた。

 やっぱりこの二人が器用なのは解釈一致だ。


「ふたりとも凄いですね! 僕はずっとやってるのになかなか出来なくて」


 すると隣にいたテーブルの男が笑った。

 その男の顔は見覚えがある。

 二日前、僕に喧嘩を売ってきた挙げ句リリーシャを奪う宣言をした男だ。


「そんなことも出来ないようじゃ試験は勝ったも同然だな」


 同学年であることはわかったが名前は知らなかった。

 そこで昨日リリーシャから聞いた。

 彼の名はグラッテ・リナード。

 授業態度、素行共に評価はかなり低いらしいが実技は一年の中でもトップレベルだそう。

 さらにもう一つ、グラッテの得意属性は火らしい。

 これは負けられない。


「残念だな、グラッテと相手をすることになるなんて!」

「先輩を倒したからっていい気になってるなよ。たまたまかもしれないしな」


 彼らはよくグラッテといっしょにいるレインとエレットの二人だ。

 筆記、実技ともに平均的な生徒らしい。

 でもこの学校で平均的なら魔法士としてはかなり出来上がってきている。


「三人とももう一つの課題をこなした方がいいよ。次はちょっと難しそうだし」


 そして今回の為に入れられたのであろう彼の名はメリダ・ワグナー。

 実験系の実技は得意で実戦系の実技は苦手だとか。

 彼に関してはグラッテと一緒にいるところを見て初めて存在を知ったのでよくわからない。


「気にしないで。私が教える」

「ありがとうございます」

「杖を入れて」


 指示通りに小瓶の中に杖先を入れた。


「少しの魔力を出すことばかり意識してたらだめ。魔力と液体が混ざることも意識しないと」

「……なるほど」


 これまで僕はあまりにも慎重になりすぎて魔力を少量だけ放出することばかりに意識を向けていた。

 それによってその後の工程が意識できていなかったんだ。


「生活魔法の火と同じくらいの魔力量でも大丈夫。無闇に減らす方が失敗するから」

「わかりました。やってみます」

 

 ここまでシュレーナさんが教えてくれたことを生かして液体に魔力を放出した。

 すると少しばかりだが色が変色し始めた。


「はっ! シュレーナさん変わりましたよ!」

「さすがクレイ」

「シュレーナさんのおかげですよ!」


 数秒経てば完全に液体は変色しきっていた。

 奥にいるグラッテを見ると舌打ちをしもうひとつの課題に取り掛かっていた。


「ではこの調子でもう一つの方もやってみましょう!」

「はい!」


***

校長室

***


「今日は珍しい人物が来たようじゃな」


 ソファに座るグリデットの向かいに一人の女性が座っていた。

 その女性は背筋を伸ばしグリデットの方をずっと見つめていた。


「随分と制服を手入れしておるんじゃな」

「もちろんです。上に立つ者として」


 黒い制服を着てその上から赤いマントを羽織っている。

 そのどれもがしわなく汚れなく、まるで新品のようだ。


「ところで今日の用は何じゃ、シルフィーネ団長さん」

「今後の事です。ですので嘘はつかぬようにお願いします」


 彼女の名はシルフィーネ・アリアノール。

 アイズ大陸最大の国家エントリア王国の団長である。


「これはまた一層磨かれたようですな」

「この地位になってからしばらくの時間が経ちましたから。この話はさておき本題に入ります」

「構わんぞ」

「もうまもなく行われる攻略試験についてです」

「…………」

「毎年負傷者は出るのは当たり前、これに関しては容認しますが過去には死亡事故も発生しています。本当に安全性は確保しているのでしょうか?」

「ダンジョンでの学習を取り入れるように言ったのは王じゃ。ワシらはそれに従うだけ。魔物がいる場所に行くならば死ぬ可能性だってあるのは当然なことじゃ。じゃからワシらに出来るのは可能性を下げることだけ。それだけなんじゃ」


 気持ちが高ぶらないようにグリデットは机の上に置いていた飲み物を合間に飲んだ。

 その隙を狙ってシルフィーネはさらに質問を投げかけた。


「もし不足の事態が起きたらどうするつもりですか?」

「それは生徒に委ねるじゃろ。逃げるも良し、戦うも良し、生きていく中で不意の出来事に対応する力を身につけるうえではうってつけじゃろ。もちろん、教師も戦うがな」

「そうですか。よくわかりました。今日はこのくらいということで失礼します」

「今日は随分早いんじゃな」

「はい。このあとも予定がありまして。では」


 シルフィーネはソファから立ち上がり校長室の扉に歩き出した。

 と思ったら途中で歩みを止めグリデットの居る方に振り返った。


「言い忘れていました。試験、何事もなく終わると良いですね。願っておりますよ。何かありましたらもちろん頼って頂いても構いません」

「ほっほっほ。これ以上、この国に貸しを作るのは嫌じゃからな。遠慮させてもらおう」

「そうですか。それではまたいつか」


 シルフィーネは最後にそう言い残して校長室を後にしたのだった。

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