第四十三話【女子寮へ】
授業も終わり寮で一休みしているとすっかり外は暗くなってきた。
つまりルア先輩と会う約束をした時間というわけだ。
よりによってなぜ夜なのか、それも女子寮で。
色々理解できないことはあるがひとまず遅れないように向かおう。
「じゃあ、アゼット行ってくるよ」
「クレイ……くれぐれも一線は超えるなよ」
「よくわからないけどわかったよ」
やけに心配している様子だったがそんなに心配することか。
そんなことを思いながら僕は部屋を出た。
***
道中、他の生徒に出くわしたがまぁ、なんとか寮の外に出ることが出来た。
「どこへ行くんだ?」
女子寮の方へ歩いていこうとした時誰かに呼び止められた。
「まさか……」
そう思ったがそうでないことを信じ振り返った。
だがやはりそうだった。
そこにいたのはログマネスだった。
「あ、いやぁ……ロッカーに本を忘れてきたので取りに行こうかと……」
「夜も遅い。危険だから明日にでも取りに行くといい」
まずい。
この流れだと寮に戻される。
「そ、その! 大切な本で……だから取りに行きたくて」
「…………」
ログマネスは難しい顔をしていた。
五秒ほどして口を開いた。
「ふっ、ならすぐに取ってこい。ただ気をつけろよ。夜の学校は何かと危険が多いからな」
「ありがとうございます」
ログマネスでも話は通じるものなんだな。
これでルア先輩の元へ行ける。
ログマネスが寮の中に戻るのを確認したあと急いで女子寮の方へと向かった。
***
女子寮につくと入口でルア先輩が待っていた。
「遅かったね」
「ログマネスに捕まってまして」
「そういや男子寮の責任者になったんだっけ? これから大変そうだね。とくにクレイくんは」
「そうなんですよ……色々とされそうで」
「ふふふ。こうして外にいるのもあれだからついてきて」
僕は言われるがままにルア先輩の後ろについていく。
寮の中に入りいきなり扉が開いて他の人に見られないか怯えながら進んで行く。
「戦うとこ見てたよ。中級魔法の詠唱を短縮できるなんてクレイくん、やるね」
「先輩たちにはまだ及びませんよ」
「そうかな? 少なくともドレッドは超えたんじゃないかな」
「あれはみんなのおかげですよ。一人だときっと勝てないです」
「ふ〜ん、クレイくんは自分のことがよく見えてるんだね」
「そうですかね?」
やっぱりルア先輩と話していると落ち着くようなそんな感じがする。
でもそれと同時にその感は落ち着きとは別のものであるようにも感じる。
まさに不思議な感覚だ。
「ここ上がるよ」
「あ、はい」
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女子寮入口
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「こちらリリーシャ、目標確認」
「私はシュレーナ、二人を視認」
「隣同士なのにそれ、やる必要あります?」
「あるよ!!」
女子寮の入口からこっそりと顔を覗かせ廊下を歩く二人を偵察していた。
遅れてアゼットもやってきた。
彼らの目的は至って簡単。
それはクレイを追跡し何もされないかを監視することである。
その為にリリーシャ、シュレーナ、アリア、アゼットは招集された。
「よ、よお」
「なんでチユまでいるんだ?」
チユも話しを聞きやってきた。
「こ、ここんなのビックニュースだ。あ、ああのルアが、男を部屋に、いれるんだし」
クレイとルアが階段を登っていったのを確認したみんなはゆっくりと歩き出そうとしたその時、後ろから誰かが歩いてくる音が聞こえてきた。
みんな同時にビクッとなった。
恐る恐る後ろを振り返った。
「そう、そうだ。こんな夜中に女子が男子を自分の部屋に招く」
「これは治安会が出る必要があるってこと!」
「エリカ先輩にケイト先輩まで!?」
「それより二人を負うぞ」
全員で大きな音を立てぬようにゆっくりと静かに廊下を進んで行く。
「みんなストップ!」
階段を登り廊下を見ていたリリーシャがみんなにそう呼びかけた。
「どうしたんだ?」
「ミネルア先生がいる!」
「巡回か?」
「多分そうね。もっとゆっくり行こ」
ミネルア先生の動向を伺いながらもう一階上の階段を登りだした。
*****
クレイ視点
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「クレイくん、ちょっと急ご」
「どうしたんですか?」
「先生にバレちゃうかもだし。いやでしょ?」
「確かにそうですね。急ぎましょう」
早歩きで僕はルア先輩の後ろをついていく。
***
三階の廊下をしばらく歩き端から二番目の部屋の前で止まった。
「ここですか?」
「うん」
ルア先輩は鍵穴に杖を向けロックを解除した。
「さぁ、入って」
紳士の様に扉を開けてくれた。
部屋の中に入った。
見たことはないが女子の部屋だなという感じはする。
いい匂いもする。
「ベッドに座ってていいよ」
「あ、はい」
僕はベッドに座った。
部屋は薄暗い。
なんだか心がモヤモヤとする。
座っていて気づいたのだがこの部屋にはベッドが一つしかない。
ルア先輩は一人でここに暮らしているのだろうか。
気になったので聞いてみることにした。
「ベッドひとつなんですね」
「私、元々途中から入学したから部屋は一人なんだ。でもそっちの方が部屋を好きなように使えるからいいよ」
一人で部屋を独占できるのも良い。
でも友達といっしょに過ごすのもまた良い。
ルア先輩にも教えてあげたいものだ。
「それで地図の方は……」
「その前に、クレイくんってフルネームなんだっけ?」
「クレイ・グランディールですけど。それがどうかしたんですか?」
「いや何でもないよ。じゃあ次、お父さんとお母さんの名前って何?」
「父さんがフェンで母さんがリシアです」
「素敵な名前だね」
棚を漁りながらそんなことを聞いてきたルア先輩。
全く意図がわからない。
もしかして地図がなくてそれを言い出せないまま僕を部屋に連れてきてしまったとか。
なら僕が早くその話しを切り出して帰った方が良さそうだ。
「地図、ないのなら僕――」
そう言いかけた時、遮るようにルア先輩が話しかけてきた。
「クレイくん……」
ルア先輩が後ろで手を組み座っている僕に近づいてきた。
「ど、どうしたんですか?」
なんだか嫌な予感がする。
ルア先輩の雰囲気が完全に変わった。
「…………」
ルア先輩が僕の肩に撫でるように触れた。
次に前髪に触れてきた。
「君は通用しないのかな?」
「ち、近いですよ! どうしたんですか先輩!」
あまりにも近いので恥ずかしくなり顔を反らした。
その時窓に何かが映っていた。
それは光。
つまり魔法だ。
なぜここでと思ったが慌てずに今のテンションのまま行くことにした。
もしもバレてしまえば一気に仕掛けられるかもしれないからだ。
「ルア先輩、本当にどうしたんですか?」
その時、扉の向こうからガサガサという物音が聞こえてきた。
数秒もしないうちに声と共に扉が勢いよく開いた。
「……え!? 何してるんだよ! こんなところで」
そこにいたのは、リリーシャにシュレーナさん、アリアさん、アゼット、そしてチユにエリカ先輩、ケイト先輩。
なかなかの大人数だ。
「よくない声が聞こえてきたから来てあげたのよ!!」
「別にそんなことはないよ」
「じゃあ、なんでそんなに近いのよ! これは確信犯でしょ!」
「これはごめんなさい。クレイくんの肩に埃がついていたもので。あっ、それとこれは地図。試験頑張ってね」
ルア先輩は僕に地図を渡してきた。
「ありがとうございます」
礼を言って立ち上がる。
その時、廊下の方から声が聞こえてきた。
「誰ですか! 上で騒いでいるのは!」
「やっべ、こっち側から逃げるぞ!!」
みんなは急いで部屋を出て声がした方とは逆の方へと逃げていった。
「じゃあ、僕も行きます! このお礼はまた今度させてください」
「うん、また今度、ね」
僕も急いで部屋を出た。




