第四十一話【魔法祭閉幕】
「つっても本当に悪口言って目覚めるのか」
「えぇ、その可能性は高いでしょう。ログマネスは昔から悪口がとことん嫌いでしたから」
「……ログマネスっぽい」
もう時間はない。
ログマネスが抗っているがあと数分もすれば僕らは完全に飲み込まれる。
いや、エントリア王国が地図から姿を消すだろう。
「悪口ですか……。私は少し苦手なんですが……」
「無理はしなくていいですよ。アリアさんの分も――」
「二度とない体験だと思うので全力で行きます!」
まさかの参加宣言。
本当に大丈夫か。
悪口を言い過ぎて綺麗なアリアさんの心が汚れてしまわないか心配だ。
「じゃあやるよ!」
みんなで顔を見て一斉に叫んだ。
なぜ私が話しかけようとするとしゃがんでくるのか、とチユが。
模擬戦でちょっと手を抜くのをやめて、とシュレーナさんが。
魔法精度の鍛錬をしていたらコツを教えたあと的を全て破壊するのをやめてください、とアリアさんが。
食堂で並んでたら睨んで先を譲るのをやめてほしいな、有り難いけど怖い!、とリリーシャが。
剣で魔法実験器具壊してすいませんでした、とアゼットが謝罪。
貴方は私の生徒なのですから絶対に逃がしません、とミネルア先生が。
これからもワシと今までの様に飲もうじゃないか、とグリデット校長が。
さすがにミネルア先生とグリデット校長はログマネスに文句を言うことはなかった。
だがその言葉にはこれまでの何十年の重みが乗せられていた。
「……わ、私は……」
ログマネスがかなり反応している。
この調子で行けば本当にあるのかもしれない。
と思ったその時、僕の身体がフワっと宙に浮いた。
「あ、え」
言葉はそれだけ。
言語化することはできなかった。
油断した。
「クレイ!!!」
あと少しだったのに。
ここまでなのか。
なら最期に言ってやる。
「よく聞け! ログマネス! あんたの授業、怖すぎて集中できねぇんだよ!!!!!!!!」
「……ッ!!! クレイ・グランディール! 貴様!!!!!!!」
確実に目があった。
いつも見るログマネスの目だ。
「い、いい行ける!!」
チユがログマネスに向かって杖を向けた。
「治癒の女神よ、あの者を縛る全てを解き放ち自由を与えよ。『異常治癒』」
ログマネスの周りにキラキラとなにかが光りだした。
次第にログマネスから黒い煙が現れそれは光と共に消えた。
「はッ! わ、私は!」
「ログマネス!!!!」
ログマネスが普通になった。
ついにやったのか!?
喜びもつかの間、僕は非常事態であった。
チユによってログマネスが元に戻ったのはよかったがそれによりログマネスの魔法が消えた。
つまり僕はこんな高いところから一気に落下することになるのだ。
「うわぁぁああああああああ!!!!!!!!!!!」
目を瞑った。
流石に開けられない。
数秒して落下の時に感じていた不快感が消えた。
まさか死んだのか?
恐る恐る目を開けるとなぜかログマネスに抱きかかえられていた。
「ふっ、無事なようだな」
「ログマネス……」
はぁ、良かった。
本当に死んだかと思った。
「それより貴様、なぜ私を呼び捨てにしているのだ」
「あ、いやぁ……それは何というか。展開的に、ね?」
「そう言えば私は歯向かうものに指導する必要があったな」
「え、それってまさか……僕のこと」
ログマネスはニヤっと笑った。
やっぱりこの人やばい人だ。
杖を取り出すログマネス。
「何をしているのですかログマネス!」
「私は決して許さない」
今度こそ死んだ。
終わった。
そう思った時ログマネスは遠くの観客席に向かって魔法を放った。
黒い槍はかなりの速さで向かっていき壁にぶつかった。
「どうやらよくない者が紛れ込んでいたらしい」
なんでもっと素直に言わないんだろうか、このひとは。
もしかして不器用なのかな。
「ログマネス!」
先生達が駆け寄ってくる。
そして僕は降ろされた。
「全く何をしているのですか、ログマネス」
「……どうかしていたのかもしれない。私は一体……」
グリデット校長はログマネスを抱きしめた。
「ここはエントリア魔法学校。誰しもが工夫しそして失敗しそれを超えて成長する場だ。その時に起きた出来事はここの生徒ならば全て私が責任を負う。だから気にするでない。まだお主はひよっこじゃからな」
雨が滴っているのかそれともログマネスの涙なのか、真偽はわからないがログマネスは安心しきった顔でグリデット校長にもたれかかった。
「ゆっくりと休むといい」
こうして魔法祭は中止という形で幕を閉じた。
***
あれから二ヶ月の月日が流れた。
期間中は半日で帰ったりそもそも学校が休みだったりと楽な生活をしていた。
そんな中新たに発行された新聞にはログマネス・ドメルティに罪がなかったという衝撃的なことが書かれていたのだった。
またログマネスの情報提供により魔法士教という存在について様々なことが判明した。
魔法士教五大主教はログマネスを除きそのほかはヴァリッジ教のメンバーと同じであること。
そして彼らはまだ生きているが姿を見たことがない、そしてあの方という存在も声しか聞いたことがないそうだ。
また彼らは様々な大陸に拠点を持っているそうだ。
しかし本拠地がどこかは分からない。
変異型との関連性は断言することは出来ないが、関連がないとも言い切れないとのことだった。
あの一件で負傷者は出たものの死者はゼロ。
巻き込んだお偉いさん方を説得したのはレンヒル国王だったらしい。
貸しを作ってしまってグリデット校長はなんだか元気のない様子だった。
まぁ、何はともあれ今は色々と落ち着きを見せている。
また僕らの学びの日が始まるんだ。
そして今日新しく雇われた人が来るらしい。
先生としてではないそうだが。
みんなが集まる中、校長が喋りいよいよその人が現れた。
「どうも、男子寮管理責任者になりました、ログマネス・ドメルティだ」
おいおい、嘘だろ。
なんでこの人帰ってきたんだ!?」
「クレイ、どんまい。つんだな」
「そんなこと言ってる場合じゃないって。これはかなり非常に由々しき事態だよ、非常事態だよ!」
前の方を見ると完全にログマネスがこっちを見てきている。
もう僕をガン見してきている。
やめて、やめて、謝るから。
「クレイさん完全にログマネス先生のお気に入りですね」
それはお気に入りなんじゃなくてただ目の敵にしているだけなのでは。
一体これから僕の学校生活どうなってしまうんだ!!!!!!




