第四十話【第三者の魔力】
『フレンシア大陸――グリーナ村』
「お母さん、見てこの魔法! 凄いでしょ!」
「ログマネス、やめなさい。ここで魔法を使ってはいけません」
「なんで?」
「見つかってしまうからよ。魔法士攫いに」
かつてグリーナ村という小さな村に住んでいたログマネス。
小さい頃からお母さんに言われていたことは魔法を使ってはいけないだった。
この頃、アイズ大陸以外では魔法を扱える者はまだそれほど多くなかった。
その為、魔法を持つ子供を攫ったり、大人を実験に使う集団が存在していた。
幼い頃から覚束ないが魔法が扱えていたログマネスはお母さんに怒られても何度も練習した魔法を見せていた。
呆れながらもお母さんは褒め、そしてすぐにやめさせた。
***
とある日の夜。
「ログマネス! 隠れなさい!!」
「……どうしたの? まだ暗いよ」
「良いから!」
ログマネスはお母さんに引っ張られた。
そのとき、窓から見える世界は火の世界だった。
家は燃え、木も燃え、人燃えていた。
「……こっちよ」
ログマネスとお母さんは家の押入れの中に隠れ息を殺した。
「どうしたの?」
「シーッ」
お母さんは喋ろうとするログマネスの口を必死に抑えた。
その時、集団が扉を蹴り破り中に入ってきた。
男達はそれぞれ斧、剣、包丁、トンカチなど鈍器を手に持ち、ログマネスの家の中の物を破壊しだした。
「おーい。ここに魔法使えるやつらがいるのは知ってんだぞ? ここが最後の家だからなぁ。じっくり探すぞ」
お母さんの息は荒くなりだしたがログマネスの口を押さえていない方の手で自分の口も押さえた。
必死に。
強く押さえられていたログマネスはついに苦しくなり足をバタバタさせてしまった。
そのはずみで押入れの扉に足が当たりゴンッという音がなった。
「アッハッハ! そこかそこなんだな!?」
バッと押し入れが開かれた。
「ログマネス! 走って!」
「逃がすかよ!!」
ログマネスは蹴り飛ばされた。
奥から音を聞いて他の男達もやってきた。
「やだ。やめてやめて!!!」
男はお母さんの手を掴み押入れから引きずり出した。
「悪いけどな。俺達は生きるのに必死なんだよ。お前らみたいに魔力がないからな!」
「だからって! 何も意味ないわよ!」
「あるぜ? 魔法を扱える子供は魔力が少ないが大人はある程度の魔力があるらしいんだ。つまりそいつらから魔力を奪えば俺達も晴れて魔法士、魔法剣士になれるってわけだ!」
「狂ってる……」
「あぁ?」
男はお母さんの顔面を殴った。
何度も何度も殴った。
血が流れるほどに。
「やめろ! お母さんに何をするんだ!!」
「おい、そこのガキ押さえとけ」
「おう」
「やめろ! 離せ!!」
「ちょっとは黙れよ!」
地面に座っていたログマネスは髪を捕まれ男に蹴られた。
「この女をそこの机に置け」
気絶しかけのお母さんは二人の男に持ち上げられ机の上に置かれた。
「よーし、確かここだっけかな」
男は刃物でお母さんの腹部に思いっきり突き刺した。
「きゃああああああああああああ!!!」
悲鳴が部屋中に響き渡る。
「チッ、うるせぇな」
「おい、そこじゃないだろ。魔力の源はもっと上なはずだぞ?」
そういうと一人の男が刃を突き立てお母さんの服を斬り裂いた。
男は「ここだ」と言い指をさした。
「ログマネス……ごめんね……」
今ある力を絞り出し発した最期の一言。
お母さんにはもうどうする力もない。
「……やめろ。やめろ! やめろやめろやめろやめろやめろォォ!!!!!!!!!!!!!」
叫ぶログマネスに男がもう一度蹴りを入れる。
血が垂れてもログマネスは叫ぶことをやめない。
しかしその叫びは通じず男はお母さんの胸元に向かって刺す為に刃物を振り上げた。
「……しね」
刃物を振り上げていた男はその言葉に反応した。
「おい、今なんつった?」
「死ねって言ったんだよ」
「クソガキだな。やめだ。こいつから取ってやる」
男はログマネスへと近づいた。
「お母さんを返せ!! そしてお前らなんか死ね!!!!!!!!!!!!」
隠し持っていた杖を男に向けると強く光りを放った。
***
「……これは一体何があったのだ?」
「天災……」
ミネルアとグリデットの目に映ったのは衝撃的なものだった。
燃えていた家も、自然も人も、その全てが消えていたのだ。
上空には空間が裂け奥には黒い空間が見える。
それは機能を失っているのか魔力が微小しか漏れていない。
そして少し前には地面に横たわる子供が一人。
「君がやったのか。この子は天才になるぞ」
「連れて帰りましょう。この子はこれから私が一人の大事な生徒として育て上げます」
「あぁ、そうだな」
グリデットは小さな子どもを抱きかかえその場をあとにした。
*****
闘技場中央
*****
「これまでの何十年を無駄にする気なのか! ワシ達と過ごしたあの日々を忘れるつもりなのか! どうなんじゃログマネス!!」
「確かに貴方が味わったものは私達の想像を遥かに上回ることでしょう。ですがあなたはその感情を捨て去りここまでやってきたのです! なのに! どうして今になって!!! 一体何が貴方をそうさせてしまったのですか!!」
ログマネスはやはり反応しない。
こうしているうちにも吸い込む力は強くなっていく一方だ。
このまま吸い込まれて終わるのか。
「きゃぁああ!!!!」
どこかでまた悲鳴が聞こえた。
まだ変異型がいたのか。
でもこの状況じゃ助けようがない……。
そう思った時、ログマネスの杖を持つ腕が小刻みに動いた。
それと連動するように切り開かれた空間が少しばかり閉まった。
「や、やはり。ま、まま間違いない」
「どうしたんだ? チユ」
「こ、ここれは精神干渉の類。遠距離からだ、誰かがやってる。そ、それに抗ってる」
「そ、それは本当なのか! 君!」
グリデット校長がこっちを見てそう言った。
「だ、断定することはできないけど、属性魔法とは異なる魔力の流動……か、可能性はある」
「ログマネス! 聞こえるか! ワシじゃ! 目を覚ますのじゃ! このままではお主が大切にしておった生徒達が怪我をしてしまう!」
「……くっ……」
「ログマネス!」
これまで一切の反応を見せなかったログマネスがついに言葉に反応した。
このまま語りかければ行けるかもしれない。
「チユ・リネーリア、精神干渉などを解く魔法は使えますか?」
「そ、そそれは……」
精神干渉や状態異常と言った一般の薬品ではどうすることもできないが治癒魔法に限ってはそうではない。
治癒魔法は傷を癒やす以外にもそういったものを解除する魔法が存在する。
「で、出来ないことは、ない。むかし、お母さんに教わったから……」
「す、凄い! さすがチユね!!」
「で、でも。せ、先生の意識が微かに見えているだけで、ま、まだ自我を出せていない……。そ、そうなると多分、効かない」
「効かない? そんなことあるのか?」
「せ、先生は凄い魔力で、外部からの様々なものを遮断し、してる。で、でもあれはせ、先生本来の力じゃない。精神干渉を施した人物の魔力」
「要はログマネス先生を引きずり出せば良いんだな。今までの鬱憤を晴らすチャンスだぜ」
ログマネス。
あなたが僕達にしようとしたことは決して許されることではない。
だからといってここで死なせはしない。
だってまだやり返せてもいないしね。
早く起きてこい。
ログマネス!!!




