第三十九話【目覚める影】
「……なんだその力は! 本当に魔法剣士なのか!?」
父さんは剣を何回か剣を斜めに動かした。
その度に真っ赤な炎の斬撃がログマネスへと向かう。
「右から来る!」
チユの言葉を聞いて父さんが右を向いた。
右からはログマネスの火の球が接近してきていた。
「ありがとう!」
父さんは剣で火の球を沿うようにして回避した。
どんどんとログマネスとの距離を縮めていく。
「いいか!!!!」
「!?」
ログマネスの魔法は父さんに全て回避されてしまった。
慌てるログマネス。
「俺の子に手を出してんじゃねぇ!!!!!!!!!!!」
「黙れッ!!!」
その瞬間、激しい音と共に砂埃が巻き起こった。
視界が悪くなり状況がわからなくなった。
「みんな大丈夫か?」
そう問いかけると色々な方向から大丈夫だという返事が帰ってきた。
「ウォォォォォ!!!!!!!!」
砂埃の中から聞こえるはずのない声が聞こえてきた。
もう何度も聞いた声だ。
これは変異型の魔物。
「くそっ……なんでこんなところに変異型が出てきてんだ」
父さんはログマネスから距離を取り僕らのところに近づいてきた。
「どうする?」
僕は考える。
今どうすればいいのかを。
「父さんとリリーシャとアリアさんは変異型を。僕とアゼットとシュレーナさんはログマネスを。チユは無理のない程度で後方支援を!!」
僕の声でみんなが返事をして動き出した。
ドカーンッ!!!
しかし再び聞こえてきた音でみんなの足は止まった。
今度は観客席の方で。
しかもその音は一回だけではなかった。
何回もあちこちで鳴り響いた。
「まずい! 生徒達の方にまで!!」
生徒は恐怖のあまり逃げ惑い始めた。
しかし出入り口は封鎖されている。
倒す以外どうしようもない状態だ。
「貴方達、ここは任せました」
ミネルア先生がそう言ってきた。
「あの生徒にはまだ言いたいことはありますが私はこのまま生徒、そのほかの救助を行います。ですがくれぐれも無理はしないように」
「「「「「はい!!!!」」」」」
僕らは元気よく返事をし自分たちの敵に視線を向けた。
「なぜここに変異型が来たのだ……話しが違う……いや、好都合。このまま倒してやるぞ! クレイ・グランディール!!!」
「望むところだ!!」
アゼットは剣を出し詠唱をした。
僕とシュレーナさんはログマネスが何をしてくるか警戒する。
「下! 上! 右!! 正面!」
チユが早口で言ってきた。
僕らは回避し避けきれない魔法の攻撃は壁を生成し防いだ。
「なんと。この短期間でまた成長したというのか。やはり若子は恐ろしい。特にクレイ、お前はな!!」
「とっとと消えろ、ログマネス! あの者を灼熱で滅ぼせ。『火焔』!!!!」
杖から激しい炎が横に広がりながらログマネスへと近づいていった。
「教えてやろう。クレイ、お前の魔法には力が足りていない。だからいつまでも私に届きはしないのだ」
ログマネスの言っていることは正しい。
それは僕も感じているからだ。
ある時に限り魔力が突然上昇するがそれは常時ではない。
もし常時、魔力の強弱を調整出来たのならログマネスに魔法が届くかもしれない。
「正面!!」
「強くなれ、クレイ。そして私に力を貸すのだ! あの方の目的を達成する為に!!!」
「そうはさせない」
渦を巻くように近づいてくる炎。
シュレーナさんは僕の前に立ってその魔法に向かって杖を向けた。
「クレイは私が守るから」
炎の渦は速さが上昇すると共にその大きさも増している。
ボワッとシュレーナさんから強い風を感じた。
もうログマネスの魔法はすぐそこまで迫っていた。
「劫掠しようとする全てのものを消失させよ。『銷却風』」
シュレーナさんが詠唱し杖を横に動かした。
すると炎の渦は風によって散らばり気づけば消失していた。
シュレーナさんが使っていたのは中級風属性魔法だ。
しかもあれはかなりの技術が必要とされる対魔法の属性魔法。
対抗できる魔法は限られるが汎用性は高い。
シュレーナさんは一体いつの間に会得していたんだ。
「……やるな。それでこそだ。さぁ、まだまだやるぞ。授業はまだ終わってはいないのだからな」
その時観客席から悲鳴が聞こえてきた。
一人の逃げ遅れた生徒――エリカ先輩が変異型に襲われそうになっている。
走って先生が向かっているが到底間に合うとは思えない。
かと言ってこの距離から魔法を放って当たるかどうかもわからない。
「…………くっ。はぁはぁ……」
ログマネスの様子がおかしい。
そんなことを思っているとアゼットがその観客席へと走りだした。
だが間に合わない。
もう変異型は攻撃しようとしている。
急げ、急げ、アゼット、間に合わせるんだ。
「……もう違うんだ……、よせ、考えるな」
何やらぼそぼそとつぶやくログマネス。
でも今はそっちに気をとられている場合ではない。
エリカ先輩を……助けないと。
「…………ぁぁああああああ!!」
僕の真横をとんでもない速さで黒い何かが通り過ぎていった。
その黒い何かは変異型の腕に当たると破裂し大きな腕を切断した。
エリカ先輩への攻撃は防げ、アゼットがようやくたどり着いた。
それにしても今の魔法は。
僕は振り返る。
顔を手で抑えているログマネス。
まさかあのログマネスがやったのか。
到底信じられない。
自ら生徒を逃げれないようにし変異型に襲わせている。
なのになぜだ。
なぜ助けたんだ。
意図がわからない。
何が目的なんだ。
「右の観客席!!!」
チユが魔力に反応しそう言ってきた。
でもなぜ観客席から。
そう思い右の観客席を見てみると最上段に紫色の光りが見えた。
あれは何だ、と思っていると光りが消えた。
「……やめろ。見せるな! 私は……私は……」
またログマネスの様子がおかしい。
それも時間が経過するごとに。
「私は許さない。全て無くなればいい。だから魔法の時代を幕開けよ」
様子のおかしかったログマネスだがいきなり冷静になった。
なんだか気味が悪い。
「クレイ、大丈夫か!」
「……アゼット、エリカ先輩は無事だったか?」
「あぁ、それよりログマネス先生、どうしちまったんだ?」
「最初にあったときもあんな感じだった」
「い、いい、いえ。せ、先生の中で、流れる魔力が乱れてる。ず、ずっと綺麗なほど、い、一定だったのに」
後ろから近寄ってきたチユがそう言った。
確かにいつもは感じない魔力をログマネスから感じる。
「私は今此処で復讐を果たす。全ての者よ、見ていよ」
ログマネスの杖が黒い色に光った。
「ちょ、ちょっと何をする気なの!?」
「嫌な予感がするな……」
「私もそう思います……雲がそれを物語っていますし」
杖が光りだしてからすぐに快晴だった空が曇りだした。
「闇の加護を与えし者よ――」
ズンッと上から押されるような感覚を感じた。
ログマネスの一言目にして腕に鳥肌が立つ。
「やめるのじゃ! ログマネス!!」
小走りでグリデット校長とミネルア先生がやってきた。
「……はっ、目に宿っておらぬ。ログマネス、お主は一体……」
「校長先生、ここは危険ですから離れてください」
「君達こそじゃ! こうなっては到底君達じゃどうすることも出来ぬ」
バタンッという音が少し後ろから聞こえてきた。
振り返るとチユが地面に倒れていた。
「どうしたんだ! チユ!! 大丈夫か!」
身体を支える。
意識はあるようだ。
「だ、だめ……に、逃げて……」
「……うっ!」
全身に伝わる憎悪。
それはログマネスの奥底で眠っていた本心。
全てを開放したログマネスの魔力が容赦なく僕らに降り注ぐ。
尋常ではないほどの魔力。
魔力に敏感なチユが倒れるわけだ。
「校長! ここは一時待避を!」
「無駄じゃ。我を失っておるログマネスから逃げることなど出来ぬ。かつてのように」
激しい雨が僕らに降り注ぐ。
誰もその場から動こうとしない。
いや、動いても無駄なのかもしれない。
「――闇夜の如き心底に眠る計り知れぬ深淵の影を今目覚めさせよ。そして生きる全てを虚無の深淵へと誘え。『黒淵虚空』」
空間に亀裂が入った。
亀裂は広がりだした。
物が徐々に真っ黒い空間へと吸い込まれ始めた。
「ログマネス……思い出せ。お主は変わったはずじゃ。決して過去は変えられぬが今は変えられる。だから目を覚ますのじゃ。ワシがお主を殺す前に!!!!!」
グリデット校長の大きな声にログマネスが反応することはなかった。




