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第三十八話【父さんの本気】

 試合を終えた僕らは休憩室にいた。


「クレイ、お疲れ様。大丈夫だった?」

「あぁ、アゼットがいてくれたし、それにチユも居てくれたから」

「チユがいなかったら完全に負けてたよな。てか死んでたぜ」

「わ、わわ私はそんなこと……」


 会話をしているとリリーシャがなんだか苛立っていることに気づいた。


「どうしたんだ、リリーシャ」

「リリーシャさんは今あのドレッドさんが明らかな殺意を持って戦っていたことに怒ってるんですよ」

「倒すって気持ちは大事かもしれないけど範疇を超えたあの戦闘はおかしい。罰せられるべき! あーもう!」

「勝ったんだしいいじゃないか」

「良くないっ!!」


 まぁ、リリーシャの言うこともわからなくはない。

 でも終わったことをいつまでも言っていたらきりがないし、それに勝てたんだから僕は全部水に流す。

 あれだけの事をしたうえに敗北したドレッドからしたら何もアクションを起こしてこないほうが屈辱だと思うし。


「おーい! クレイ!」


 扉が開くと同時に声が聞こえてきた。


「見てたけど凄かったな!!!」

「ロ、ロイスさん!? なんでここに!」

「全員いるぞ」


 すると部屋の中に父さん、母さん、そしてギーヌさんが入ってきた。


「クレイ!! 大丈夫だったの? どこも怪我はしてない?」

「母さん……みんなの前でそれはやめてくれ……」

「クレイ兄ちゃんかっこよかった!」

「ノルも来てたんだ」


 ノルはロイスの息子だ。

 確か年齢は八歳くらいの元気旺盛な男の子だ。


「ところで、リリーシャ……クレイはその後、どんな感じなんだ?」

「それはもう――」

「二人で何してるんだ。というより父さん、ここまで来て子供みたいにはしゃがないでくれ。他のみんなが困るだろ」

「悪い悪い」


 帰省してからやけにリリーシャと父さんの仲がいい。

 しかも厄介な話ばかりをするからたまったもんじゃない。


「えーっと確か、君達はクレイが話してた友達の……」

「俺がアゼットです」

「私はアリアです」


 父さんがチユに視線を向けるとはっとなりチユは顔を下に向けた。


「彼女は先輩のチユだよ」

「おぉ! クレイが先輩とも絡むとはな!」

「は、はは初めまして……」


 これはあれだ。

 チユと父さんは絶望的に相性が悪いな。


「フェン、随分はしゃぐな」

「そりゃあ、クレイに友達だぞ」

「まぁ、村にクレイと同年代の人はパライナット家が越してくる前は一人もいなかったからな」

「みんなこれからもクレイと仲良くしてくれよ」


 父さんは恥ずかしいセリフを言った。

 だがみんなは元気に「もちろん」と返事をした。


「クレイ兄ちゃん! また魔法を教えてくれよ!」

「あぁ、時間があったらな」

「やった!」


 僕はノルの頭を軽く撫でた。

 すると横から強い視線を感じたので見てみるとシュレーナさんだった。


「……どうしたんですか? シュレーナさん」

「なんでもない……」


 そういうとそっぽを向いた。

 一体何なんだ。


「ひ…………に、にげ……」


 闘技場から聞こえてくる司会者の声が途切れ途切れに聞こえてきた。

 今思えば歓声も聞こえなくなった。


「僕見てくる」

「おい、待てノル!」


 ノルは走って部屋を出た。


「……追いかけて!!!」


 チユがいきなり声を出した。

 その場に居た皆が驚く。


「……まずいよ」

「チユ、どうしたのよ?」

「いる……」

「いる?」

「闘技場からとてつもない魔力を放つ何者かが……」


 僕らは椅子から一斉に立ち上がった。


「ひとまずノルを追いかけよう」


 僕らは全員で部屋を出て急いでノルが行った方へと走り出した。

 少し走るとノルとロイスさんは闘技場の中央に出る入口の前で立ち尽くしていた。


「全員動くな。と言っても出入り口は封鎖したがな」


 闘技場中央に立つ黒いローブを靡かせている男。


「ログマネス!?」


 なぜログマネスがここに。

 いやそれは必然なことか。

 一気に各国の重鎮が集まるうえに生徒も集まる。

 だからと言って自分の居た学校にどうしてそんなことができるんだ。


「ログマネス先生!! やめてください! 何をこれ以上求めるのですか!!」

「そうですよ!! 貴方は既に完璧だ! それなのになぜ!!!」

「貴様らにはわからぬだろうな」


 学校の教師達がログマネスと対峙していた。


「ぬわぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


 生徒を守ろうと必死な教師達だがログマネスとの差は絶望的。

 彼らは一瞬にして吹き飛ばされてしまった。


「私は魔法士教五大主教、ログマネス・ドメルティだ。全員ここで降伏してもらおう」

「何をしているのですか」


 するとそこにミネルア先生が現れた。

 ミネルア先生は杖をローブの中から取り出しそれをログマネスに向けていた。


「久しぶりですね。ミネルア先生」

「非常にがっかりしました」

「それはお好きに。私は思うがままにやるだけですから」


 ログマネスは観客席にいる一般の人に向けて黒い球を放った。

 だがその魔法は放たれて一秒にも満たない時間で消失した。


「やはりミネルア先生、貴方は厄介な人間だ」

「ログマネス・ドメルティ、貴方は本当に手のかかる生徒ですね。貴方の境遇は理解しているつもりですがなぜそこまでして魔法の力に固執するのですか? それだけは理解出来ません」

「それはそうでしょう。立場が違うのですから。私は――」


 ミネルア先生が無詠唱の魔法をログマネスに放った。

 だが打ち消しのできるログマネスは杖をその魔法に向ける。


 しかし白い光りが出ても魔法は消えない。


「……魔力操作?!」


 ログマネスは魔法がぶつかり弾き飛ばされた。


「……私は、私は!! あの方の考えに賛同した。それはかつてアイズ・サンティエッタが実現出来なかったもの!! サンティエッタが望むこと! 魔法の世界を創り出す、その一助をするまで!!」

「…………」

「聞いていれば事実でないことを語って! ふざけるなッ!!!」


 父さんがいきなり闘技場の入口を出てログマネスの方へ走り出していた。


「待って父さん!!! 何をしてるんだ!!!」


 僕はそのあとをついていく。

 そして僕のあとにシュレーナさん、リリーシャ、アゼット、アリア、遅れてチユがついてきた。


「なんだ? 貴様は……。……随分魔力があるみたいだな」

「アイズは魔法だけの世界を作ろうとなんてしていない!!」

「何が言いたいんだ? ならなぜアイズ・サンティエッタは死期が近いと悟り世に魔力を分散させたんだ? それは紛れもなく魔法の時代を始めようとしていたからだろう」

「いや!! あれ魔法によって世界が発展する為にやったことだ」

「貴様に何がわかるッ!! あの方はこれまで辛い思いをされてきた。その思いを晴らすためには実現せねばならぬのだ!!」

「……そうか。何を言ってもわからないんだな」


 父さんは腰につけていた剣をゆっくりと取り出した。

 いくら剣技の優れた父さんでも魔法士であるログマネスには勝てない。


「父さん!! やめるんだ! 勝ってこない!」

「クレイ、父さんだって強いんだぞ。なんせ俺の父さんと母さんは強かったんだからな!」

「それでも――!!!」

「火を我が剣に宿せ」


 短縮詠唱!?


「変化時の短縮詠唱だと!? クレイのお父さん凄すぎないか!?」


 父さんの剣はアゼットのものより倍近く燃え盛っている。


「あの方とやらに伝えるといい、考え方がおかしいってな」

「貴様、クレイと同じほどうざったいやつだ」

「あぁ? クレイだと? そうか、お前か、お前なんだな!!! 生きて帰れると思うなよ!!!!」


 父さんの剣はさらに燃え盛りだした。

 そして父さんは剣を構えたのだった。


 

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