第三十七話【治癒魔法】
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チユ視点
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私は森の中にある村で育った。
その村は森ということもあって魔素が付着した肉食動物や魔物がよく現れた。
でも私の家系はどうやら女子だった場合、みんな治癒魔法を持ち基本四属性を扱えない。
それが原因で私のお母さんは庇い怪我をしてしまった。
幸い大事には至らなかったが、それでも力がほしいと思った。
私は力がほしい。
でもどれだけ魔法の訓練をしたところで何も身につかない。
結局身についたのは魔力流動の感知。
どんなことが起こるかはわからないがどれくらいの威力でどこから現れるのかはわかる。
でもこれじゃあ意味がない。
わかったところで自分でどうすることも出来ないからだ。
いつも誰かに守られてきた。
それで失った命だってある。
救いたくても力もなければ治癒魔法もまだ未熟。
軽傷を治すのが限界。
もう私のせいで誰かが犠牲になるのは嫌だ。
見たくもない。
今だってこうして私の為に色々なことを教えてくれたクレイ、友達として接してくれたアゼットが犠牲になっている。
私が戦いに参加できなかったばかりに。
どうして私には力がないの。
せめて二人の命を救えるくらいの力が。
なんで。
なんで。
なんで。
なんで!!!
「チ、チユ……落ち着け……」
クレイが私の手に触れた。
その時、心が体が暖かくなるのを感じた。
今まで犠牲になった人はみんな何かを思ったときには冷たかった。
でもクレイは暖かい。
落ち着く。
「……リーダーがアリアさんじゃなくて僕で良かった。犠牲になるのは僕だけでいい……だから安心して。落ち着くんだ」
「……うん」
どんどん体が暖かくなってくる。
別に照れや火照りじゃない。
もっと何か別の心底から湧き上がる想い、力。
でもわかる。
今なら誰も犠牲にならずに終えれると。
私はローブの中から杖を取り出した。
息を吐き、そして吸う。
そうして呼吸の流れを整えた。
クレイ、アゼットに杖を向ける。
「おい、チビっこ。何をする気だ」
ドレッドがぶつぶつと言いながらこっちに早歩きで近づいてきているがそんなことはどうでもいい。
今はただ底から湧く力を握るだけに集中する。
杖先が微かながら黄緑色に発光した。
行ける。
これなら行ける。
「まさか……させるわけないだろッ!!」
すると私の杖から強い光りが放たれた。
「な、何だこれは。前が見えない。目、目がァァ!!」
「治癒の女神よ、私の名に従いてかの者達の傷ついた身体、疲れ果てた心を癒やし給え。『ハイ・ヒーリング』」
一瞬私のそばに人影が映ったがすぐに消えた。
クレイ、アゼットの周りからは白いモヤがふわふわと上に上がっていっている。
「はぁ……はぁ……」
普通の治癒魔法よりもかなり疲れる。
相当の体力、魔力を持っていかれた。
でもクレイとアゼットの傷はみるみる消えていく。
良かった。
やっとこんな私でもできることが出来た。
誰も犠牲にはさせない。
絶対に。
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クレイ視点
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チユの治癒魔法はかなり凄いものだった。
恐らく中級治癒魔法だろうか。
さっきまで激痛だったのにも関わらず一瞬にしてその痛みは消え去った。
まるで誰かに介抱されているかのように心が温かい気持ちになった。
アゼットの方も意識を失っていたが治癒されていくと目を覚ました。
さすがチユだ。
やはり彼女はかなりの逸材なのかもしれない。
いや断言できる。
チユは異端魔法士だがその正体はとんでもない逸材の治癒士だ。
「ありがとう。チユ。これでまたあいつと戦える」
「さっきのはミスった。悪い。次はしっかり行くわ」
「わ、わわわ私はできることをしただけ、なので……」
「それだけでいい。みんなできることをやれればきっとどんな相手でも……勝てる!」
ドレッドはやたら苛立っていた。
「下!」
下から来る魔法を回避した。
「何度も何度も避けやがって!! 戦え戦え!! クレイ!!!」
またアゼットが背後を取り剣を一太刀。
だがドレッドは何も見ずに壁を生成した。
アゼットの攻撃は壁にぶつかり防がれた。
「ちょこまかとッ!!!」
壁を消すドレッド。
その瞬間に土の塊を放つ。
それはアゼットのお腹に直撃し吹き飛んでいった。
「アゼット!!」
「俺は大丈夫だ! 気にするな!!」
さっきからドレッドが使う魔法は下級ばかり。
大方、無詠唱ができるのが下級魔法だけだからなのだろう。
だが下級魔法だからと言って侮ってはいけない。
その一発一発が高精度、高火力の魔法だからだ。
「もういいッ!! 俺の邪魔をするなら終わらせてやる!!」
「クレイ、アゼット! 離れて!」
「何をする気なんだ!!」
僕でもわかった。
ドレッドから感じる大量の魔力の流れ。
確実に何かをしようとしている。
止めなきゃ。
「あの者を灼熱で滅ぼせ。『火焔』!!!」
「邪魔だッ!!」
ドレッドは何重もの土の壁を生成した。
それは高さもかなりあり飛んで入り込めるようなものではなかった。
「クレイ、この壁! 全く攻撃が通用しない!!!」
「こっちもだ。一体どうなってるんだ……」
すると中から何かが聞こえてくる。
「土の加護を与えし者よ、この広大な枯れ果てた地に一本の芽を植えよ――」
下級魔法を無詠唱化できるくらいのドレッドが中級魔法を短縮出来ないわけがない。
となると彼が今詠唱しようとしているのは中級以上の魔法――上級魔法。
「――やがて一本の芽は目覚めて地に深く根を生やす。そして枯れ地は今自然となる。『自然操術』」
土の壁は粉々になり崩れ落ちた。
僕らの立つ石板はいつの間にか草の生えた地面に変わっていた。
ドレッドの背後には太く立派な大木。
「なんだよ、あれは……」
「…………」
「アハハハ!! これが俺の今ある全力だ! 見よ、この傑作さを!!!」
これが上級魔法……。
中級魔法とは全く何もかもが違う。
次元が違う。
「来る! 横! 下!!」
草が足に絡みついてくる。
このままだと避けられない。
そして横から飛んできた鋭い土の塊が足に突き刺さった。
「……くっ」
「ま、ま、まま任せて!」
チユは僕の足に向かって杖を向けるとボソボソと詠唱をした。
するとあっという間に痛みは消え、傷も消えた。
「ありがとう」
「……いえ」
チユは平然を装っているがかなり疲れているようにも見える。
昔母さんが言っていた。
治癒は他の魔法とはかけ離れたものだがそれ故に魔力や体力の消耗が激しいと。
チユの為にもこれ以上、治癒魔法を使わせるわけにはいかない。
もし体力がなくなれば魔力の流れを感知出来なるかもしれない。
「アゼット! 一緒に行こう!」
「おう!」
僕は離れたところにいるアゼットにそう呼びかけ共に走り出した。
道中で草から花が生まれ攻撃してくるが問題ない。
事前に後ろに待機しているチユが僕達に教えてくれるからだ。
どんどん距離を縮める。
ある一定の範囲に入った時、木の枝が柔らかくうねり出した。
「あの者を灼熱で滅ぼせ。『火焔』」
燃やせば問題ないと思い魔法を放った。
だが草は燃えるが木は無傷だった。
「アハハ、言っただろ? この木は水分を過剰に保持している。だから火なんて通用しないんだ!!」
対策とはこれのことだったか。
だが――。
「クレイ! 任せろ!」
アゼットが火で枝に攻撃するのではなく、単純に剣の力で枝を次々に斬り落としていく。
「なッ!? やめろやめろ!!!」
新たに生まれた枝がアゼットを攻撃しにかかるが華麗に避け斬り落としている。
「まだまだまだだァァァ!!!!!!!」
さらに倍近い数の枝が現れる。
これにはアゼットも対処しきれなくなった。
その時、観客席の方から大きな水の玉が飛んできた。
それはドレッドの大きな木にぶつかった。
すると木は少しずつ枯れ始めた。
「一体何が……俺の……上級魔法だぞ!!!!!」
何が起こったかわからないが今がチャンス。
畳み掛ける。
僕はアゼットと息を合わせる。
「我が敵を斬り裂け。『炎刃』」
「『炎斬』」
僕らは背中を合わせ同時に放った。
「俺はまだ負けない!! まだやれるッ!!!」
またもや土の壁を生成した。
だが僕らの攻撃はその全ての壁を突き破った。
「やめろやめろっ! 来るなァァァ!!!!!!」
そして遂に僕らの魔法はドレッドの身体に直撃した。
「……そんな馬鹿な……」
ドレッドは炎に焼かれ意識を失いその場に倒れた。
地面に生えた草も消え枯れた木も一瞬にして消えた。
「あ、あのドレッドを打ち破り勝利したのはクレイ、アゼット、チユ!!!!!」
「「「おおおおおぉぉぉぉ!!!!!!!!!」」」
闘技場は大歓声に包まれた。
僕らは三人は目を合わせ微笑んだ。




