第三十六話【ドレッド・ファシンス】
既に個人戦の試合が始まり会場は大盛りあがりだ。
「えーっと次は私だ! じゃあ、みんな応援してね、しっかりと!!」
リリーシャは試合の準備の為に待合室へと向かった。
果たして無事勝つことはできるのだろうか。
***
「さて団体戦第二ゾーンで戦うのは一年生のリリーシャ・グレーシャと二年生のアスア・スラーダです!」
司会の紹介のあと歓声の中で試合開始の合図が鳴らされた。
「水の加護を与えし者よ、凍てつく氷晶の力を引き出し我が剣に魔力を宿せ」
先に詠唱をしたのはリリーシャだった。
「『冰化一刀』」
次の瞬間、アスアさんの足と手は氷漬けにされ動けなくなっていた。
そしていつの間にかリリーシャはアスアさんの背後にいた。
「もらったぁ!!!!」
「きゃぁああああああ!!!!!!!」
一太刀でアスアさんを倒した。
「あんなにリリーシャ強かったっけ」
「前に新技があるって言ってた」
「じゃあ、それがこれってことなのか」
にしてもリリーシャの技はなんだかずるいのばかりな気がする。
初手で相手の行動を封じそのあとに攻撃を決める。
それも氷属性ならではの戦い方なのかもしれないけど実際にやられたらかなり嫌だと思う。
でも僕は火属性を使うからそこまで困らないけど。
***
リリーシャはその後なぜかどんどん勝ち進んでいき順位決定戦まで上り詰めた。
順位決定戦が行われるのは団体戦で勝ち上がるパーティーが出きってからだそうだ。
そしてこれからついに僕らの出番がやってきた。
「頑張って」
「負けてくれないでよ!」
「頑張ってください!」
***
僕らは試合をする為に中央に向かった。
神のいたずらか、それともただの運命なのか。
僕らの前にはドレッド達が現れた。
これは厄介。
よりによってドレッド達を相手にしないと行けないなんて。
観客はこれまでよりも歓声を浴びせてくる。
やはり期待の三年生、ドレッドがいるからだろうか。
チユは歓声に圧倒され萎縮してしまっている。
アゼットはいつもの調子だ。
「落ち着いてやれば大丈夫だよ」
「そ、そそそれはわたしがいい一番わかってる……」
短期間だが一緒に魔法の練習をしていてわかった。
チユには誰にも馬鹿にできないほどの才能がある。
もしそれを発揮しきれば彼女は唯一無二の存在になるはずだ。
ただそれをどう発揮させるかだ。
「――です!! それでは試合開始!!!!!!!」
開始の合図が鳴り響いた。
だが僕らは動かずただにらみ合う。
「まさか戦えるとはな。残念だ。お前達と決勝で戦えなくて。それもこれもそこのチビを引き連れているせいだがな」
「おい! 先輩だからってうるさいぞ。言っとくけどな、勝つのは俺達だ」
「このパーティーにはチユがいないと出来ないことだってある。勝手に決めつけるな」
「え……」
「仲良しごっこお疲れさん。お前らやっちまえ」
ドレッドの両隣にいた二人の男がこちらに迫ってくる。
片方は鞘から剣をもう片方はローブの中から杖を。
僕はアゼットと目を合わせる。
アゼットは剣を握った。
「火の加護を与えし者よ、力を一点に集中させ、内で燃え盛る炎を我が剣に宿せ」
熱く燃え盛る炎を纏った剣を斜め上に振り上げた。
「『交斬』」
右上に振り上げ左下めがけて振りおろす。
左上に振り上げ右下めがけて振りおろした。
交差する二つの炎の斬撃は勢いを落とすことなく剣を持つ男の方へ。
「こんな技ごとき、この俺にかかれば!! あああああああああああ!!!!!!!!!!!」
男の体は焼き切れ地面に倒れ込んだ。
「水の加護を与えし者よ、水の力を一点に集め――」
男が詠唱しだしたのを見て僕はローブから杖を取り出した。
「あの者を灼熱で滅ぼせ。『火焔』」
「っ!? 中級魔法の短縮詠唱! 一年のくせにっっ!!!」
あっという間に魔法士の男は炎に飲み込まれ魔法剣士の男と同様に地面に倒れ込んだ。
「くっ、使えない奴らめ。どうやら俺が自ら手を下した方が良いようだな」
「我が敵を焼き尽くせ。『火球』」
「お前は火球如きで俺を倒せると思っているのか? 笑えるな」
「それはこっちのセリフだよ」
「あ?」
魔法は誰かにダメージを当てるだけに使うものじゃない。
時には相手の油断を作りそして次へ託す。
「『飛斬』」
「!?」
激しい音と共に砂埃が巻き起こった。
ドレッドはアゼットにより吹き飛ばされた。
だが場外に出るのを防ぐために寸前で壁を生成し、飛ばされる勢いを殺していた。
「まぁまぁやるじゃねぇか。だが一年生らしい強さだ。上ってのを見せてやる」
ドレッドの杖先が緑色に光った。
土属性魔法の光りだ。
「『蔦波』」
突如、石板の地面から草が生えた。
次にはツタらしきものが現れそれは僕らの足に絡みついてきた。
「わ、わわああ。くすぐったい……。な、なんかえっち、ぐへへ」
チユは何を言ってるんだ。
だがまぁ、これくらいのツタによる拘束はなんの問題もない。
なぜなら僕は火属性を得意とするからだ。
土属性魔法によって生成された植物系統の魔法に対してはめっぽう強い。
「このまま絞め殺してやる」
ツタは足をつたって、太もも、腰、腹部、腕、肩とどんどん上がってきた。
だが杖がある以上安心だ。
生活魔法を使用しツタに弱い火をつけ燃やした。
「クレイ、頼む」
「任せて」
アゼットのツタも燃やした。
「ぐへへ、こ、ここしょばい、えへへ、あっ。ぐへ……」
おかしくなっているチユを無視し燃やしてやった。
「火属性が得意なのは厄介だな。だがこれで勝てるなんて思わない方がいいぞ? 応用の効きやすい土属性魔法は他の属性対策だってできる」
「そうか! じゃあかかってこいよ!」
アゼットは強気でそう言っているが内心不安なはずだ。
僕も何か違和感を感じているからわかる。
火属性を扱う僕とアゼット。
もしドレッドの言っていることが本当なら一巻の終わりだ。
でもドレッドは知らない。
僕らには強力な仲間がいることを。
「二人共、下から無詠唱の魔法が来る」
「おう!!」
横に回避。
チユの読み通り石板を貫き石の塊の棘が現れた。
当たっていたら致命傷になっていただろう。
「ありがとう。チユ」
「あ、い、いいやや、わ、わわわ……」
チユの才能。
それは卓越した魔力流動の感知。
「何をした!! 一体馬鹿な!? 魔力の流れを読み取ったのか? 馬鹿な、俺でも出来ないのに……」
「先輩にこんなことを言うのもあれですが、チユをなめるな。負けるのはあなただ」
「ッ!? 言ってくれるじゃないか。だがな俺にだって――」
「地面、後方から魔法が来る」
再び僕らは一斉に横に回避した。
またもや読み通り地面と後方から土魔法が現れた。
やはり次期治安会会長候補とされるドレッドだ。
同時無詠唱は出来ないようだがそれを補う工夫がされている。
一回目の無詠唱魔法の速度を遅め、直後に二回目の無詠唱魔法を放つ。
同時に発動するように速度を調整しているのだ。
この短時間でそれをこなすなんて。
僕にはまだそんなことはできない。
「ふざけるな! 何度も何度も!!」
「よそ見は関心しないぞ! 先輩!!!」
ドレッドの後方に移動していたアゼットは剣を横に動かした。
「生意気な後輩がッ!!!」
ドレッドが杖を上に動かすと地面から分厚い壁が現れた。
「あの者を灼熱で滅ぼせ。『火焔』」
「小賢しいことをしやがって!!!」
ドレッドは自身を囲うように分厚い土の壁を生成した。
僕の魔法はその壁に通用しなかった。
だがアゼットは違う。
その力で壁にヒビを入れた。
そのままドレッドを抑え吹き飛んでいく。
「場外にでも連れて行く気か?」
「違うぜ。このまま観客席の壁にでもぶつかってやるよ」
「ふっ、何を馬鹿なことを」
「悪いが俺のところのリーダーは仲間を馬鹿にされて機嫌が悪いみたいなんだ。だから本気だぜ」
「…………」
ドレッドは無言のまま微笑んだ。
その時チユは絶望した顔をしていた。
「どうしたんだ、チユ?」
「地面、右上上空、左上上空、ドレッドの周辺一帯、アゼットの周辺一帯」
「……え」
その言葉が意味することはただひとつ。
「アハハハ、お前の負けだ」
「アゼット!!!!!!!! 離れろ!!!!!!」
「!?」
ドレッドから離れようとしているアゼットだが身動きが取れなくなっていた。
どうやら柄と足に大量のツタが巻き付いている。
「残念だったな。惨めに散れ」
ドレッドが軽く杖を振った。
それはもはやどうしようもなかった。
遠距離、中距離、超至近距離の様々な距離、ありとあらゆる方向から一斉に魔法が発動された。
どれも殺傷性の高い魔法だ。
棘、槍、針、それらがアゼットの腕、足、体に突き刺さっていく。
「おい、ドレッド! 何をしている。ルールの範囲でやれといっただろ」
司会者のマイクを奪い、一人の先生が慌てて喋った。
「そんなのはどうだっていい。この世は魔法士こそ全て。使えないやつなんていらねぇんだよ」
「お、お前何を……」
ドレッドはアゼットを蹴り飛ばした。
地面に落ちてくるアゼットをなんとか抱きかかえることが出来た。
息をしているみたいだが出血が酷い。
このままだと危ない。
「!!?」
チユの顔色がさらに悪くなった。
「アゼットのローブの中」
「クッ…………」
アゼットのローブを突き抜けて僕の体に何かが突き刺さった。
下を見てみると少し太い棘。
尋常ではない痛み。
息が乱れる。
「あ、ああああ、わ、わわわわわわたし……」
「チ、チユ……落ち着け……」
観客席の方ではリリーシャやアリア、シュレーナがこちらに来ようとしているが先生に危ないと止められている。
先生がやってきてドレッドにやめるように言った。
だが聞くはずもなく挙句の果てには先生を弾き飛ばした。
「いいか。これは俺とこいつらの戦いだ。邪魔するならトドメをさすぞ」
この状況をどうにかしないと。
だけど今の僕はアゼットを抱え痛みに耐えることで精一杯だった。




