第三十三話【花の蕾】
「新聞表一面がエントリアのことについて書かれてるね」
「やっぱり魔法士教がそれほど危険ってことなんだよ」
見出しの下には長々と詳細が書かれていた。
奇襲後、エントリア王国は兵士を連れアストラル公国へ。
しかし肝心のヴァンレイ・アストラルの姿はなかったそうだ。
残された民や兵士をどうするかは検討中。
「ここ」
シュレーナさんが指さしたところにはアストラル公国兵士から聞き出した情報が掲載されていた。
兵士によるとヴァンレイ公爵は半年前ほどから謎の人物と出会うことが多くなったそうだ。
そこから様子が変わったらしい。
「魔法士教が関係してるのかも」
「ログマネス先生からあの時聞き出しておけばよかった!!」
さらに下に行くと今回の戦争での被害が書かれていた。
都市フリーレアの南側の家屋のほとんどが崩壊していたそう。
他にも移動してきた魔物によって一部建造物が崩壊。
『被害者数』
・死者0人
・負傷者53人
・行方不明者156人
死者がゼロなのはいいことなのだが明らかに行方不明者の数が多い。
家屋の下敷きになり見つかっていない可能性もあるがそれでも数に違和感を持ってしまう。
気のせいなのかもしれないけど。
「見てみて! ログマネス先生のことが書かれてる!」
横のページにはエントリア魔法学校教師、ログマネス・ドメルティに関することが書かれていた。
恐らくこの新聞のメインの話題はこれだろう。
「もう記事が出てるのね」
家事をしていた母さんが僕達の見ている新聞を覗いてきた。
そして僕の顔を見る。
「クレイ、そこのカゴを二階の奥の部屋に干してきてくれる?」
「わかったよ」
僕が椅子から立ち上がろうとした瞬間、ズバッと勢いよくリリーシャが立ち上がった。
「だ、だだだめだから!!!」
「何がだよ」
「だ、だだめなものはだめな!!」
何が言いたいのかよくわからない。
怒っているのか顔は真っ赤だ。
ひとまずリリーシャを無視してカゴを手に取った。
「だめって言ってるじゃんっ!!!!!!!」
目で追うことが出来ないほどの速さで僕からカゴを奪ってきた。
全く、そんなに自分で干したいのだろうか。
「じゃあ、僕のもついでにお願い」
「自分でやって!」
そう言い残し二階に上がっていくリリーシャ。
本当にどうしてしまったのか。
真相はカゴの中。
「クレイ」
「どうしたんですか?」
まるで何かを求めているかのような瞳で見つめてくる。
リリーシャに感化されシュレーナさんまでおかしくなったのか。
「ちょっとついてきて」
「わかりました。でもどこに行くんですか?」
「いいからついてきて」
言われるがままシュレーナさんの後ろをついていく。
家を出て道を歩いた。
数分経ち連れてこられたのはシュレーナさんの家だった。
「シュレーナさんの家、ですよね」
「うん。あがって」
家の扉を開け中に入った。
中は整理されている、というよりかは物が少ないからきれいに見える。
あまりにも静かすぎて気まずさすら覚えた。
家に入りこの間ギーヌさんと話した部屋には入らずまっすぐ進む。
行き止まりになったところで右に曲がる。
曲がって一番最初の扉の前で止まった。
「ここは……?」
「私にとって大切な部屋」
シュレーナさんがゆっくりとドアノブに手を伸ばし扉を開けた。
誰もいない部屋。
真っ白なベッド。
窓際に置かれたきれいに咲き誇る一輪の花。
「ここはお母さんがずっと横になってた部屋。いつも色んな話をした」
「…………」
「だからこの部屋は私の宝物。お母さんが私に残してくれた大切な部屋」
前に立つシュレーナさんが今どんな表情をしているのか僕にはわからない。
「私はギーヌやお母さんの為に変わらないといけない。強くならないといけない。でも私は私のままで、変わりなく」
泣いているのかもしれないし微笑んでいるのかもしれない、笑ってるかも、怒ってるかも、無心かも。
それでも一つわかることがある。
「だからね――」
空いている窓から風が吹き込んできた。
ローブが靡く。
同時にシュレーナさんの綺麗な髪も靡いた。
靡く髪の間から見えた頬に流れる一滴の雫。
そしてこちらに振り向いた。
「私はありのままで、クレイに守られなくなるくらい強くなるから。そしていつかは私が守る」
あぁ、そうだ。
シュレーナさんは枯れた花なんかじゃない。
これから立派に咲き誇る花の蕾なんだ。
「わかりました。待ってますよ、その日を!」
「任せて。上級超えて神聖級まで使えるようになるから」
「それはもう超人ですよ」
シュレーナさんは僕をもう何回も救ってくれた。
それでもシュレーナさんがさらに高みを目指すというのなら僕はどこまでもついていく。
シュレーナさんがそれを達成できるのを一番に見るために。
「クレイ、遊ぼ」
「遊ぶって何するんですか。この村あの危険な森しかないですよ」
「行く?」
「お断りします」
「クレイ、連れない」
僕らは魔法士の端くれ。
それでもいつかはあの花のように堂々と咲き誇る。
いつの日になるかはわからないが気長に待とう。
時間はそう早くは進まないのだから。
「クレイ、時間がなくなるから早く遊ぼ」
「はいはい。わかりました。でもあの森はなしですから」
「わかった」
僕らは無邪気に走り出す。
「先にリリーシャのパンツを取ったほうの勝ち」
「なんですかその勝利条件」
そんなことを言いながらシュレーナさんを抜かし帰路を走った。




