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第三十一話【根ごとカランコ】

「良いですかシュレーナさん。逃げ出さないでくださいよ」

「うん、大丈夫。私を甘く見ちゃ困るよ、クレイ」


 家についた僕とシュレーナさん。

 僕は多少の不安を抱えながら扉を開けた。


 中で待っていたリリーシャと父さんがこっちを見てきた。

 そして遅れてギーヌさんも僕を見たあとに後ろにいるシュレーナさんのことを見た。

 僕は後ろにずれ、シュレーナさんを前にした。


「……ギ……、お父さん。ただいま」

「……シュレーナ、おかえり」


 二人は抱き合った。

 泣く二人を僕らは静かに見守る。


 こんなときに何か言葉をかけようものなら僕が弾き飛ばしてしまう。

 

「ごめんな、シュレーナ。これからはもっとしっかりするよ。もう自分を責めたりはしない」

「私もごめんないさい。これからも私のお父さんはギーヌだから」

「あぁ。最期まで君のお父さんでいるよ」


 少しの間抱き合っているとシュレーナさんがいきなりギーヌさんを引き離した。

 いい感じになってたのにいきなり決別か?

 

「潰れちゃう」

「な、何がだ?」


 シュレーナさんはローブの胸ポケットから根ごとのカランコを取り出した。


「根ごと?」

「うん、根ごと。クレイがくれた」

「クレイくんが。確かこれはカランコだったはず」


 みんながカランコの美しさに見惚れていた。

 それほど凛々しく咲いているのだ。

 というかギーヌさんも知っていたのか。


 やはりシュレーナさんが花好きだから色々と教え込まれたのだろうか。


「どんな花言葉があるの?」


 リリーシャが聞いてきた。


「花の特性から貴方を守るっていう花言葉があるらしい」


 僕がそう答えるとなぜかリリーシャはニヤニヤしだす。

 なんだ、変態か?


「懐かしい。昔ルイスがこの花で相談してきたよ。アイーシャが欲しいって言ってるんだけどどっかに咲いてないかって。買えばいいだろって言ったけどアイーシャは自然に咲く花を好む人だからって言ってたよ」


 ルイスさんに相談されていたからカランコの花言葉を知っていたのか。

 それにしてもルイスさんも大変だったんだろうな。

 珍しい花って言ってたし、さらに自然に咲く花じゃなきゃだめだし。


「そう言えば、それでなんでそんなにあげたいんだって聞いたら……桃色のカランコにはもう一つの花言葉があって……なんだっけか」

「え〜気になる!! ギーヌさん、思い出して!!」

 

 するとシュレーナさんがギーヌさんの前で手を振り、よくわからない動きをしだした。


「あ! 確か永遠の愛。だから必死に探してたんだよ」

「…………………」

「…………………」

「…………」

「…………」


 ギーヌさんの一言でその場の空気が凍った。

 

 今なんていった。

 永遠の愛?

 おいおい、アグアスの村長に聞いた時そんなこと言ってなかったぞ。

 まさかわざとか。

 あの村長、やってくれたな。


 僕はそっと家の扉を閉じた。

 ほんとそっと。


「ふぅー」


 バゴーン!!!!!!


 大きな音を立てて家の扉が思いっきり開けられた。

 犯人はリリーシャだった。


「全く、そんなに強く開けたら壊れてしまうかもしれないよ。人の家なんだから力加減を覚えないとね。じゃあ僕はこれから勉強をしたいから家に帰るとするよ」


 くるっと後ろを向き歩き出そうとした時、後ろ首のローブをリリーシャに引っ張られた。


「何澄ましてんの」

「澄ますってなんだい? おはようございますかな?」

「それは本当にどういうこと? それより!! もちろん、あの花言葉を知って渡したんだよね! ね?」

「いやいやいやいや、もう一つは知らなかった。うん、知らなかったよ」

「それは本当に?」

「あぁ、知らなかった。村長に聞いたけどそんなことは言ってなかったんだ!」

「あ〜、それなら本当ね。わざと教えなさそうだし」


 おい。

 ならあの村長、どうにかしてくれ。


「まぁ、『貴方を守る』ってのは本心ってことが知れたからメシウマよ!!!」

「ちょっと、なんか、リリーシャ、やばいな」

「何よそれ!!!」


 父さんは僕をずっと見つめてる。

 その瞳はまるで息子が遠くへ行ってしまったと言わんばかりの瞳だ。


 一方シュレーナさんはというと。

 照れている。

 照れないでくれ。

 照れられると恥ずかしさが一層増す。


 ギーヌさんはというと、あ、私何かやってしまいました? みたいな表情をしながら僕を見ている。

 そう、貴方はやってしまった。

 とんでもないことを。


「よしっ! 俺らは家に帰るか」

「そ、そうだね」

「シュレーナさんは今日はそっちでギーヌと過ごしたいよな?」

「…………んん」


 なぜ迷うんだい?

 もう一択しか無いよ。

 迷うなシュレーナさん。


「……うん」

「もしクレイのところに来たくなったら言ってくれ。いつでもいれるぞ」

「余計なこと言わなくていいから。早く帰ろ!」


 僕は家に入り父さんを引っ張った。

 外に出るときについでにリリーシャも引っ張った。


「クレイくん、今日は本当にありがとう。このお礼はいつか返させてもらうよ」

「いえいえ、別にいいですよ」


 シュレーナさんが扉のところまで歩いてきた。


「クレイ、今日はありがと。これからもよろしく」


 シュレーナさんはカランコを両手で大事そうに握りそう言ってきた。


「はい。こちらこそよろしくおねがいします。シュレーナさん」


 と、返事をしたがなぜかシュレーナさんはムッとしている。

 これはまさかあれか、レーナ呼びをしていないからなのか。

 さすがにみんなの前でそれは……。


「クレイ、おやすみ」


 念を押すように最初に僕の名前を呼び捨てで呼んでくる。

 もうわかったよ、わかったわかった。


「おやすみ……レーナ」

「うん!!」


 シュレーナさんは出会った中で一番嬉しそうに微笑んでいた。

 やっぱりシュレーナさんは可愛い、のかもしれない。


「ちょっ、クレイくん!! まだ私は――」


 扉を閉めた。


「さぁ、帰ろ帰ろ」


 家に向かって歩き出す。


「俺の息子、案外やるなぁ」


 父さんは何をぼそぼそ呟いているのだ。

 恥ずかしいからやめてくれ。


「まさか私が見えないとこでそんなに進展しているとは。これはあれね、みんなに教えないと」

「なんでそうなるんだよ」

「重大な内容だからよ!」

「友達なんだからプレゼントくらいするよ」

「友達、ねぇ。何か裏がありそうな言い方」


 こいつ、どんだけ恋愛方向に持っていきたいんだ。

 もはやそういう魔物なのか。


「あぁ、もう母さんに言ってやるからな!!」


 僕は走り出した。


「おい、待てクレイ!! それはよせ!! 俺はあんま何もしてないんだぞ!!!!」


 後ろから父さんが追いかけてきてその後ろをリリーシャが追いかけている。


 もう何なんだ、この人達は!!!!!

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