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第二十九話【お父さん】

「私はシュレーナの本当の父親ではないんです。正確にはシュレーナの父親の親友です。全てを託されたのはシュレーナが八歳の頃でした。 私達が住んでいたのはルセウス大陸の名もなき小さな村で住んでいる人も少なかったですが共に支え合い生きてきました。シュレーナの父、ルイスとは幼い頃から一緒に遊ぶ仲で喧嘩も何度もしたり時には泣いたり。今思い返せば彼が居なければ私はあの村を出ていたでしょう。あの家族はとても幸せそうでした。でも――」


***


 オリジン暦166年、シュレーナが八歳の頃。


「全員逃げろ!!!!! 早く逃げろ!!!!!! ぬわぁぁぁあああああああああああああ!!!!!」


 村に響き渡る様々な人の悲鳴。

 家は燃え、森も燃え、人も燃え、辺りは火の海。


「レーナ、大丈夫よ。大丈夫! 貴方には私がいるから」

「お、お母さん!!」


 泣きじゃくるシュレーナの頭を撫で安心させるアイーシャ。

 

「や、やめてくれ。私を襲うのは!!」


 一方村のどこかで剣を構え変異型の魔物と対峙しているギーヌ。

 その手は震え、足も震えていた。


「ウォォォォ!!!!!!」


 バシュッ!


 魔物の攻撃はギーヌの腕に当たり痛みのあまり地面に剣を落とした。

 ギーヌは震え、そして走り出した。


 なんとか魔物から逃げ切ったギーヌは親友の安否を確かめるために家に向かった。

 まだルイスの家には魔物が来ておらず無事だった。


 扉を叩くと中からルイスが出てきた。


「ギーヌ、その腕!」

「ルイス……、逃げよう。ここは危険だ」

「あぁ、そうだな」


 一同は外に出た。

 だが炎で埋め尽くされた村を見て絶望した。


「ウォォォ!!!!!!!!!」


 その時、横にこれまでギーヌを追っていた変異型の魔物が現れた。


「逃げろ! 家の中に!!!」

「レーナ! 大丈夫よ!! 大丈夫だから」


 ギーヌ達は一度家の中に戻る。

 だが魔物は外で暴れ、家の一部が崩壊した。


 頭上からは沢山の瓦礫が落ちてきた。

 

「レーナ、アイーシャ! 今すぐ外に出るんだ」

「何を言ってるのよ! 外に出たら……っ!!」


 アイーシャはルイスの瞳を見た時に何かを感じた。

 そして泣き出す。


「いやよ、いや!! ルイス、そんなのはダメよ!!」

「レーナ、よく顔を見せてくれ」

「お父さん、どうして泣いてるの?」


 ルイスはシュレーナの頬に触れる。


「アイーシャも」


 アイーシャの頬にも触れ、そして軽く唇を合わせた。


「レーナ、アイーシャ。愛している。一生愛してる。桃色のカランコ、見つけてやれなくてごめんな。……ギーヌ、今までありがとう。お前が親友で良かった。だからギーヌ、二人を連れて行け!!!!!!!!」

「!!?」


 ルイスはギーヌの手をがっちりと握り、そう叫んだ。

 ギーヌは目を閉じ歯を食いしばり叫びながらアイーシャとシュレーナの手を握り走り始めた。


「ギーヌ……後は任せたぞ」


 家から出て少し離れた。

 魔物はまだ家を破壊している。


「ルイス……ルイス………!!!!!!」


 ギーヌは何をしようとしているのかわかっていた。

 ルイスの手にあった小さな黒い弾。

 あれは子どもの頃、遊んでいた時に見つけた爆弾だ。


 調べたらそう書いてあった。

 魔力を注ぐことで起爆し大爆発を起こす。


「ルイス!!!!」

「ルイス……!!!」

「……どうしたの? お家戻ろう? お父さんが襲われちゃう」


 アイーシャもわかっていたのだろう。

 困惑するシュレーナを抱きしめた。


 ギーヌはただ立っていることしか出来なかった。

 

 家の中ではルイスが杖を引き出しから取り出していた。


「魔物め、これで終わりだ」


 ルイスはそれに魔力を込めることが出来なかった。

 死ぬことが怖かったのだ。

 だがその時、外からルイスを呼ぶ声が聞こえてきた。

 それと同時にルイスの頭の中に笑うシュレーナ、照れるアイーシャ、一緒に酒を飲んでいるギーヌの顔が浮かんできた。


「……最期にそんなの見せてくれるなよ。じゃあな、みんな」


 その瞬間、大爆発し家は粉々になり、魔物も散った。


 アイーシャもシュレーナもギーヌもみんな泣き崩れた。

 別れの余韻の最中、ギーヌ達にさらなる脅威が現れた。


 飛行する得体の知れない魔物。

 見た目からするに変異型だった。


「アイーシャさん!!」


 ギーヌは間に合わなかった。

 アイーシャの腹部に変異型の鋭い針が突き刺さった。


「あぁああああああ!!!!」

「お母さん!!!!!」

「離れろ!! 魔物がっ!!!!」


 ギーヌは近くに落ちていた尖った瓦礫を手に持ち何回も魔物に突き刺した。

 何度も何度も聞くに耐えないアイーシャの悲鳴の中、泣きながら何度も何度も。


 気づけば魔物は死んでいた。

 アイーシャはまだ息があった。

 針を抜くと血が大量に溢れ出した。


「シュレーナ、待ってるんだ。私が、私、わ、私がなんとかするから。なんとか」

 

 ギーヌは自分が着ていた服を引きちぎり腹部に巻き出血を抑えようとした。


「ギーヌ……、私は大丈夫だからレーナだけでも……」

「……それは出来ません。約束を果たすためには!」


 どこかでまだ魔物の雄叫びが聞こえる。


「シュレーナ、自分で走れるかい? お母さんを助ける為に」

「……うん!!」


 ギーヌは負傷したアイーシャを抱えシュレーナの手を握りまだ燃えていない森の中を走り続けた。


***


「それからはいろいろな人にお世話になりこのアイズ大陸にやってきました。ですがアイーシャはあの時の魔物に毒を注がれ、歩けなくなった。そのうえ日に日に弱っていった。どんな治癒士に頼んでも無駄だった。シュレーナはそのせいで性格が暗くなってしまった……」


 ギーヌさんの言葉を聞いてみんな泣きそうになっていた。

 リリーシャなんて既にボロボロ泣いている。


「あの日は久しぶりにシュレーナが私に着いていきたいと行ったから、嬉しくて連れて行ったんです。でも結局、変異型に襲われ森で遭難することになった。クレイくんが居なかったらシュレーナはもういなかったかもしれない……私は全て失敗したんだ」

 

 ギーヌさんは深呼吸をした。

 その呼吸は震えていた。


「ルイスが死ぬ必要はなかった……あそこで逃げずに私が死んでいればよかった!!! そうしたら魔物が家に行くこともなくシュレーナは幸せに暮らしアイーシャは闘病することもなくルイスも生きていた! 私が生きて三人が不幸になるなら、私が死んで三人が幸せになる方が良かった!! その方が良かった……」

「……ギーヌさん落ち着いてください!!!」


 三人で暴れるギーヌさんをどうにか落ち着かせようとした。

 その時窓からガタンッと言う音がした。

 窓を見るとどこかへ走っていくシュレーナさんの姿があった。


「シュレーナ! ……っ」


 ギーヌさんは深呼吸をして椅子に深く座った。


「……すいません。乱れてしまって」

「ギーヌさん」

「……どうしたんですか、クレイくん」

「僕にはギーヌさんがどれだけ苦しみながら生きていたかはわかりません。わかりたくもないです」

「………え」

「だってそんなの死にたいくらい辛いじゃないですか。でもギーヌさんは七年間もそれを耐えた。親友の願いだからと言って出来ることではありません。きっと特別な気持ちがあったんですよね。二人に」

「…………」

「それに自分が死ねばよかったなんて言わないでください。そんなこと言ったらアイーシャさんと話したこと、シュレーナさんと過ごした日々はどうなるんですか。全てなかったことにするんですか。そんな無責任なことをするんですか!!!」

「クレイ……」


 もし自分がそんな境遇ならたしかにギーヌさんの様な考えになってしまうかもしれない。

 でもシュレーナさんやアイーシャさんの立場になってみればギーヌさんと過ごした七年間がなくなってしまう方が辛い。

 これ以上、二人から大切を奪ってはいけない。


「ギーヌさん、確かに本当のお父さんじゃないかもしれない。でも今のシュレーナさんのお父さんは貴方しかいないんですよ。だから、だからこれ以上、シュレーナさんや自分が傷つくような事を言わないでください!!!!!!」

「……あぁぁ……あぁあああああ」


 ギーヌさんはひたすら泣いた。


 その場にいるみんなで泣いてギーヌさんの心に寄り添った。


***


 しばらくしてみんな落ち着いた。

 

「すいません。皆さん」

「別にいいですよ。これから親同士頑張りましょう。ギーヌさん、いや、ギーヌ」

「……っ。あぁ、よろしくフェン」


 感動的なことをしている最中、リリーシャが僕の顔をチラチラ見てくる。


「何かついてる?」

「いいや、目、真っ赤じゃんって思って!!」

「そんなこと言ったら全員そうだろ!!」


 僕らは笑いあった。

 まるでさっきまでの出来事が嘘のように。


「……じゃあ、僕、シュレーナさん探してきます。だからギーヌさん、お父さんとして帰りを待っていてあげてください」

「あぁ! わかった」


 椅子から立ち上がる僕。

 扉まで歩く。

 するとリリーシャが声をかけてきた。


「これはクレイにしか出来ないから。任せたよ」

「あぁ、任せられた」


 そして僕はシュレーナさんを探しに家を出た。

 

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