第二十六話【休暇】
「休暇だからと言って魔法の鍛錬を怠らぬように。学校再開は二週間後ですが寮は開放しているので早めに来て練習をしても構いません。それでは有意義な休暇を」
生徒指導担当のオリバー先生が喋り終わり生徒は自由になりそれぞれが色々なところへ向かっていく。
僕はその場に留まりシュレーナさん、アリアさん、リリーシャ、アゼットが集まるのを待った。
しばらくして集まり荷物をまとめておいている寮へ戻ろうとした時、こちらにミネルア先生が歩いてきた。
「クレイ、またなんかしたの?」
「いや、流石にやってないよ」
「全員、聞きたいことがあります。なのでついてきてください」
どうやら僕らは早く帰れないらしい。
でも何かをした記憶もない。
もしかしたら無意識にやってしまったのかもしれないけど。
***
しばらく廊下を歩いて連れてこられたのは校長室と書かれた扉の前。
ミネルア先生は扉を四回ノック。
リング状のドアノブを引っ張り時計回りに一周ちょっと回しもう一つのドアノブは押し込み反時計周りに半周回した。
扉の横の壁に小さな空間が出来た。
その空間には鍵穴みたいなものがある。
ミネルア先生はその鍵穴に杖を近づけると扉がガチャっと音を鳴らし開いた。
「くれぐれも変なことはしないでください」
忠告を受け扉の奥へと進んで行く。
中は高い天井まである本棚。
びっしりと本が並べられている。
グリデット校長は部屋の中にある階段の先にいた。
椅子に座り何かをしている。
「校長先生、子供達を連れてきました」
「ご苦労じゃ」
グリデット校長は階段を下りてきた。
「この人数じゃソファには座りきれぬかのう。これを使うといい」
グリデット校長は中央に置かれたソファの両隣に椅子を一つずつおいた。
「貴方達、早く座りなさい」
「わかりました」
僕とシュレーナさんアリアさんはソファへ。
アゼットとリリーシャは椅子に座った。
そして向かいのソファにグリデット校長が腰をかける。
「まぁそんな緊張するでない。別に怒るために呼んだわけではないんじゃ」
その言葉を聞いてちょっとホッとした。
校長に呼び出される悪さなんかしたら退学になるってこともあるし。
「ログマネスは元気じゃったか?」
「あ、はい。多分あの感じは元気でした」
「そうかそうか。ログマネスが何を言っておったか覚えている範囲で教えてくれるかのう」
「はい。ログマネス先生は鼻が利いて、それで僕から似た匂いがするみたいなことを言っていて」
「その言葉の意味はワシにも分からんが確かにログマネスは鼻が利くやつじゃった」
未だにあの言葉が気になってしかたがない。
僕からログマネスと同じ匂いがするのか。
「あとヴァリッジ教四大主教改め魔法士教五大主教の一派って言ってたよね!」
「やつらか……」
グリデット校長は何やら困った表情をしていた。
「何か知ってるんですか?」
「魔法士教五大主教については初耳じゃがヴァリッジ教四大主教はよく知っておる。強者だけが全てだという思想を掲げ世界を一度支配しようとした組織じゃ」
「授業で何度か学んだとこですね。でもその四大主教は教祖が亡くなり解散、その後は行方がわからなくなったんですよね」
「その通りじゃ。ログマネスの言っていることが本当なのだとしたら元ヴァリッジ教四大主教であるシリウス・ルア・ファースター、アーサー・アルカイド、ミザール・アザール、そして兄妹のタニア・ボレアリス、アルラ・ボレアリスはその魔法士教五大主教に移り変わった可能性が高いのう。生きていればの話じゃがな」
となると元ヴァリッジ教四大主教のメンバーにログマネスが後から入ったということになる。
そしてそんな五人をまとめる教祖とされる人物がいる。
一体その人は何も目的にこんなことをしているんだ。
「まぁ、過去の話はこれくらいにしておこう。新しい情報が知りたかったら新聞でも見るといいぞ。じゃあ解散じゃ。良い休暇を」
***
校長室から出された僕ら。
「では気をつけて帰ってください。くれぐれも問題を起こさないように」
「なんか俺達、ミネルア先生に目つけられてるのか?」
「いいですか」
「「「「は、はい!!」」」」
ミネルア先生は再び校長室の中に戻っていった。
ついに開放された僕らは一足遅れて寮へと向かった
***
部屋についた僕とアゼットはそれぞれ準備をする。
といっても前日にある程度の荷造りはしていたからそこまでないけど。
「アストラル公国と魔物、ログマネスってなんか繋がりありそだよな。偶然にしても変だし」
「確かにそうだね。僕も思ってたよ。でもアストラル公国とログマネスの繋がりならどうにか説明が出来るかもしれないけど魔物はどう考えても説明しようがないよね」
「一番はそこだよな。森とか人気のないとこによくいる魔物がいたんだろうな。稀に街中に出てくることはあるけど今回のあの大量、しかも変異型。これはもうよくわからんな」
「だね。詳しい情報が出ない限りなんとも言えないし。よし、準備出来たけど、そっちは大丈夫?」
「バッチリだぜ」
「じゃあ、出ようか」
荷物を持ち部屋を出た。
杖を取り出し鍵穴に魔力を少量当てて鍵を閉めた。
そして集合場所である馬小屋へと向かった。
***
「あ、来た来た!!」
「お疲れ様です」
「遅い」
シュレーナさん達はかなりの荷物を持って待機していた。
馬小屋から自分の馬を見つけ出してやる。
「今日もよろしく」
頭を軽く撫で荷台を置いているとこに連れていき紐で繋げた。
そして荷台に僕とアリアとシュレーナさんは荷物を置いた。
「二人とも乗っていいですよ」
そういうと荷台にシュレーナさんとアリアが登り乗った。
僕も御者台に乗った。
「んじゃあ俺とアリアさんはそれぞれフリーレアから出てる馬車に乗って帰るぜ」
「また休暇明けにお会いしましょう!」
「あぁ! また休暇明けに!!」
「次会った時にはアゼットと私との差は物凄いことになってるからね!!」
「ばいばい」
それぞれ言葉を交わし進み始めた。
都市フリーレアに来た時の道をどうにか思い出し進むことにした。
「今回の休暇なんだけどさ、私クレイの村に行っていい?」
「別にいいよ。何もないけどね」
「じゃあ、アグアス村で何泊かして行こ!」
「久しぶりに挨拶もしたいしそれで行こうかな。シュレーナさんはそれでも大丈夫ですか?」
「大丈夫」
「決まりってことで!!」
これから僕らの楽しい休暇が始まる。
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エントリア魔法学校校長室
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「他に教えなくても良かったんですか」
「あぁ、確信に至ってはおらぬしまずそれは子供には負えぬくらいに重すぎる。ワシは生徒には無事で卒業して欲しいのじゃよ」
「それもそうですね」
ガチャっという鍵を誰かが開けた音が校長室に響く。
ミネルアとグリデットは扉の方を見る。
そして扉が開く前にグリデットは口を開いた。
「魔力を隠す気がなくなったのかのう。ログマネス」
そこには額、腹部から血を流しているログマネスがいた。
「ミネルア、渡してやりなさい」
「…………」
ミネルアは棚から一つの瓶を取り出しそれをログマネスのところまで持っていく。
「まさか貴方ほどの魔法士がこんな姿になってしまうとは」
小声でそう言い瓶をログマネスに手渡す。
しばらく瓶を見つめたログマネスは蓋を開けグビッと一気に飲み込むと腹部の傷、額の傷がどんどんと消えていく。
「良かったのか。グリデット。私は貴方が大事な生徒を襲ったのに」
「ほっほっほ。確かにそうじゃが、ログマネス、まだお前は大事なこの学校の教師じゃ。だから手を差し伸べるのは至って当たり前のことなのじゃよ」
「そうか」
グリデットはソファから立ち上がり少しずつログマネスに近づいていく。
「どうやら決断したようじゃが、本当にそれでいいのかのう?」
「当たり前だ」
ログマネスはローブの中に手を入れ一つの封筒を取り出した。
「……教師である以上、貴方も私も全てに集中することは出来ません。だからこうして一つの決断をし揺らぐことのないようにしたんです」
「そうか。わかった。受理しよう。今までご苦労じゃったのう」
「……はい」
ログマネスは後ろを向き部屋を出ていこうとした時、足を止めた。
もう一度グリデットの方を向いた。
「今までの人生、お世話になりました。ミネルア先生も」
そう言い残し校長室を出ていった。
言葉を聞いてミネルアははぁっとため息、グリデットは表情を変えずに立っていた。
しばらくしてグリデット校長はソファに座った。
「良い子じゃった。自慢の生徒じゃったのう」
「最初からそうでしたね」
二人はゆっくり閉まる扉を見つめ無意識にそう呟いたのだった。




