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第二十五話【防魔館と保健室】

 予想はしていたがいざ起こるとなんとも嫌な気分になる。


 ゼルディック兵士長の言う事を聞き僕らは魔防館に戻ってきた。

 中に入るやいなや一人の先生が血相を変えて早歩きでやってきた。


「貴方達、何をしているのですか! とくにクレイ・グランディール、アゼット・フォリア、いきなり走り出したと思ったら校外に行って。全く何を考えているのですか」

「す、すいません。でも校外にはシュレーナさん達がいて、助けないとって」

「その考えは立派なものですがまだ貴方は学生です。学生は第一に自身の安全を確保するべきなのです。それと他のことについては私達先生に任せればよいのです」

「わかりました。次からは気をつけます」


 みんなで頭を下げ休憩できそうなスペースを探すために振り返り歩き出そうとした時、後ろからミネルア先生に呼び止められた。


「何を勝手に終わらせているのですか。ゼルディックから聞きましたが、本当にやってくれましたね。無事で良かったですが。この件は校長にも伝えます。わかりましたか?」

「はい……」

「ではこっちについてきてください」

「え?」

「そんな訳のわからない表情をしていないでアリア・ブランダー、シュレーナ・パライナット以外はついてきなさい。ほら、その怪我をほっておく気ですか?」


 僕らはミネルア先生のあとをついていく。

 魔防館を一度出て静かな廊下を歩く。


 さっきまで完全に忘れていたがミネルア先生が気づかせたせいで痛みを感じている気がする。

 なんてことをしてくれたんだ。


***


「中に先生がいると思うから診てもらいなさい。事が済んだら今度はちゃんと戻ってきなさい」

「わかりました」


 ミネルア先生は来た道を戻っていった。

 そして僕らは扉の上についている木板に保健室と書かれた部屋の前にいる。


 誰が先に開けるのかを互いに見つめ合う。

 そんな無駄な時間を十秒ほど行い結果、アゼットが保健室の扉を開けた。


 中はベッドが四つほどならび中央にはテーブルとソファ、壁沿いには色々と入った棚が数個。

 窓は開けられており中に風が入り込んできている。


 アゼットを先頭に保健室に入るが人の姿も気配もない。

 どうやら今はいないらしい。

 タイミングの悪い先生だ。


 だがここで待ち続けるなんて嫌だし簡易的に自分でやってしまおう。

 

 てきとうに棚を開け消毒、布、包帯を探す。

 開けに開けまくりようやく品が揃い、それを机の上に並べソファに座った。


 アゼットとリリーシャもそれぞれ使いそうな物を漁り僕とは別の椅子に座って処置していた。


「保健室とかに回復瓶(ヒールポーション)ってないものなの? こんな方法じゃ治るけど時間がかかって嫌なんだけど」

「文句言ったってしょうがないだろ。それにもしあったとしても使ってバレたらやばいだろ」

「確かにそうだね。回復瓶(ヒールポーション)には体との相性があるみたいなことを何かの授業で言っていたから大人の判断なしで飲んだらまずいことになってしまうかもしれない」

「えぇ〜何それ相性って。飲めない人類なんていないでしょ」

「いるから回復瓶(ヒールポーション)との相性があるって言われてんだろ」


 ガチャ、何かが扉に当たる音がして僕らはそっちを見る。

 そこには開いた扉の横にいる女性がいた。


 長髪の黒髪、少し幼く見えるがかなり整った顔。

 ローブは綺麗に手入れされ、しわひとつない。

 スカートも不良女性の様に極端に短くなく学校で決められている長さ。

 すらっとした長い足には黒いタイツを履いており、まさに美脚。


 手を後ろで組んでいる女性は少しずつ僕の方に近づいてくる。


「酷い怪我だね。どうしたの?」

「実は外で敵と戦ってて……」

「それは大変だったね。あっ、私がやってあげるよ」


 女性は机に置いていた消毒と布を取った。

 しゃがんで僕の顔を見てくる。


「ローブ脱いでちょっと制服を上にあげてくれるかな?」

「あ、はい」


 ローブを脱ぎ畳み机に置く。

 次に制服をめくり負傷箇所を見せた。


 思った以上にかなり深いのかもしれない。

 見ていてグロい、気分が悪くなりそうだ。


「痛いかもだけど我慢してね」

「はい」


 女性は慣れた手付きで消毒をし布で汚れを拭き取った。

 それが終わると包帯を手に取った。


 僕は反対側の制服をめくる。

 女性はニコリと笑い怪我をしているところを包帯で巻いてくれた。


「よし、これで出来上がり」

「ありがとうございます」


 僕は制服から手を離した。


「そう言えば君はクレイくんだよね」

「僕の事知ってるんですか?」

「うんうん、ログマネス先生の授業で女の子を守った男の子がいるって話題になってるよ」


 まさかあの一件がそんなことになっているとは。

 だがそんなことになっておきながら僕に話かけてきた人はいないのはなぜなのか。

 

「ふ〜ん、そっかそっか。じゃあ、私はそろそろ戻るね。君達みたいにミネルア先生に怒られちゃうし」

「それは早く戻った方が良いですね。あっ、そう言えばあなたの名前は!」


 女性は歩いて扉の前に行くと振り向いた。


「私は魔法士専攻三年生のルアだよ。また機会があったら話そうね」


 そう言って女性は保健室を出ていった。

 だが不思議な二つの視線を感じる。

 正体はすぐにわかった。


 アゼットとリリーシャだ。

 なぜかこっちを見てきている。


「何かついてますか?」

「すげー今さらだけどよなんで敬語なんだ? 俺といる時は普通の感じで話してくれるけどさ」

「あー、クセみたいなもので」

「友達なんだから私とも普通に話してよ」

「あっ、うん。わかった。これからはこんな感じで行くよ」

「んで、さっきの視線の本題に戻るけど」

「し、視線の本題ってなに!?」


 再び二人はこっちを見てくる。


「本当にここにシュレーナがいなくって良かったって思うよ。ほんとに」

「だな。これはミネルア先生に助けられたみたいなもんだな」

「え、え? それどういう意味?!!」


***

 

 保健室から魔防館に戻りかなりの時間が経ちようやく僕らは寮に戻れるようになった。

 色々な情報は伏せているのだろうが僕らに伝えられた内容はこんな感じだ。


 建物の損壊被害は酷いが未だ死者の情報はない。

 進軍してきたのはアストラル公国の者で近いうちに報復を行う。

 アストラル公国兵士はエントリア王国兵士団によって殺害、一部捕縛。

 魔物と変異型魔物の出現。


 最も主張して語られたことはは魔物に関することだった。

 なぜアストラル公国が魔物と一緒に現れたのかはわからないらしいが国に関わる情報が入ったら通達してくれるらしい。


 また事件だけでなく嬉しい話もあった。

 それはエントリア魔法学校の損壊箇所の工事の実施に伴い休暇を前倒しするそうだ。


 学校生活始まって以来の初の帰省だ。

 楽しみで仕方がない。


「本当に悲しいよ。アゼットを連れていけないのが」

「あぁ、俺もそっち側に住んでればみんなと帰れたのになぁ」

「アリアさんも僕と違う方向なんだよね」

「らしいな。アルタン村だっけ? 確かアイズ大陸のかなり東にある山の麓か上にある村だよな」


 正確には山の麓にある村である。

 と言ってもこれ以上の情報は知らない。


「くそくそ。いっそ帰省やめてクレイについていこうかな」

「帰った方が良いって。戦争なりかけの出来事が起きたんだし親御さんも心配してるだろうし」

「ったくクレイは真面目だな。でも確かにそうかもしれない。仕方なく帰るとするよ」

「うん、そうした方が良い。じゃあ、明日は出発で朝が早いと思うからもう寝るよ。おやすみ」

「あぁ、おやすみ」


 僕は布団を被り目を瞑った。

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