第二十四話【特別指導 後編】
「教師である私が言ってはいけないと分かっているが言わせてもらおう。お前達にこの状況をどうすることも出来ない。私とお前達の差は簡単には埋められない」
「生徒の僕も言っちゃいけないこと言わせてもらいますが――」
下級魔法の短縮詠唱をするために脳内で一部錯覚をさせようとした時、妙な温かみ、湧き上がる何かを感じた。
それを感じてから僕はなぜかもっと上を目指せる気がしてきた。
やったこともないし必ずしも出来る保証はない。
でも自信だけはあった。
そして全てが整った瞬間に魔法を放つ。
「貴方は先生なんかじゃない。語る資格もない! 二度と姿を現すな!!! あの者を灼熱で滅ぼせ。『火焔』!!!」
「ッ!? なぜそれほどの力がッ」
これまでの中で最も大きく熱い炎がログマネスを襲った。
「だがこんな魔法は!!!! いや……出来ない。己、やってくれたなァァ!!」
ログマネスは気づいた。
僕の感じていた正体は魔力。
内からふつふつと湧き上がった魔力は体内を巡りそして魔法となり形を成した。
生成に使用された魔力量は多く、魔法からかなりの圧を感じる。
そこにログマネスが怒る理由があるのだ。
未熟な僕の魔法はあのログマネスなら第一に魔力で消そうと考えるはずだ。
だが中級魔法を発動するために必要な魔力量よりも過剰に多い魔力を使用した僕の魔法に同一の魔力を放ち打ち消すということはログマネスにとっても痛手。
自分でもそこまで意識していなかったがまさかこんな展開になるとは。
「アリアさん、短縮詠唱出来ますか?」
「下級なら出来ます!」
「じゃあそれでお願いします。出来るだけ多くの魔法を」
「私もやる」
ログマネスに炎が近づいていく最中、僕らは詠唱を短縮し次々に魔法を放っていく。
「まだまだまだまだまだまだァァ!!!」
ログマネスは杖を素早く動かし僕らが放つ大量の魔法に対して同じ様に魔法をぶつけ消滅させていく。
だがそれにも限度がありいくつかの魔法は対処できずログマネスに当てることができた。
それでもまだログマネスは倒れることはない。
もっともっと沢山の魔法をぶつけなくては。
違和感を超えた猛烈な不快感を感じた。
同時にログマネスの様子もおかしいことに気づく。
これまで僕らの魔法に対して同じ様に魔法を何度もぶつけ攻撃を防いでいたのに今は抵抗を止め俯いている。
「全てを飲み込め。『闇穴』」
ログマネスの杖先は黒く光りと同時に頭上に中くらいの円形の穴が出現する。
「な、なんですかあれは!!」
「なんかやばそう」
中くらいの円形の穴は徐々に渦を作るように回転を始めた。
すると中に僕らの魔法が全て吸収されていく。
さらには周りに散る瓦礫、砂なども。
「クレイ!!! そこを離れろ!!」
アゼットの声が遠くから聞こえる。
そう言われ動こうとしたがなぜかうまく進まない。
時間が経過するごとに円形の穴の吸収可能範囲は拡大していたのだ。
そしてその範囲に入りかけの僕らは吸収される力によってうまく体が動かせないでいた。
このままでは三人ともあの穴の中に……。
「きゃああ!」
アリアさんが穴へと引っ張られる。
僕はそんなアリアさんの手を握りなんとか耐えているがこれも時間の問題だ。
シュレーナさんだけでも逃さないと。
「シュレーナさんは逃げてください。アリアさんは僕がどうにか!」
言った途端に僕もシュレーナさんも吸い込まれ始め耐えるのも限界を迎えた。
体を宙に浮きどんどん吸い込まれていく。
ここまでなのか……。
と思ったその時、僕らの横をかなりの速さで何かが通っていた。
それは吸収の力に勝ちどこかへ行った。
通った何かが行ったであろう方向を見ると血を吹き出しているログマネスがいた。
そしてログマネスの後ろにはマントをつけた見知らぬ男が剣で刺していた。
痛みで魔法を維持できなくなったのか魔法は消え僕らは地面に落ちた。
「二人とも怪我はないですか?」
「ない」
「特に今のところはないです!」
もう一度ログマネスの方を見るがやはりあの男が何者なのかはわからない。
だがあの吸収から逃れることが出来ていることから只者ではないことはわかった。
「お、お前は……」
歯を食いしばりながら喋るログマネス。
後ろに立つ男は剣を握り刺し続けている。
「まずはそっちが名乗れ」
「は……私は魔法士教五大主教の一派……ログマネスだ」
「魔法士教だと……。まぁいいお前はこのまま連行する」
ログマネスはニヤっと微笑む。
「それはどうかな? 私以外に君達が優先すべき存在がいるというのに見捨てるのか」
僕らが戦っている少し先の方に倒れた一人の男性の元に魔物が複数体近づいている。
「……チッ」
男はログマネスから勢いよく剣を抜き蹴り飛ばすと飛行魔法? のようなものを扱いかなりの速さでその男性の方へと向かっていった。
倒れたログマネスは立ち上がる。
「グランディール、やはりお前は同じ様だ。だからどうにかする必要があるが今日はここまでとしよう。それじゃあ」
「待て!! ログマネス!! 逃げるな!!!」
魔法を放とうとした時煙が発生し視界が悪くなった。
そのせいで煙が消えたあとログマネスの姿はなく捕まえ損ねてしまった。
はぁとため息をつく。
そして視線をアゼット達へ向ける。
親指を上に立てていることからして無事なようだ。
これでログマネスとの件は完全ではないが区切りがついた。
しかしまだ周りを見るにちらほらと見たことのない紋章を掲げた兵士、魔物がいる。
きっとあれを片付けないと終わらないのだろう。
「シュレーナさん、この国を救うためになんとかしましょう」
「うん」
「わ、私もやりますよ!」
「俺もやるぜ」
「うわっ、びっくりした」
いつの間にかアゼットとリリーシャが僕達のもとへやってきた。
剣を鞘にしまい汚れたローブとスカートを手で払いながらリリーシャも同じ様なことを言った。
「よし、じゃあ行きましょう!」
いざ、意気込んで移動しようとした時、「待て」と声をかけられた。
そこにはさっき奥に行った男が立っていた。
「どこへ行く気だ」
「国を救うために魔物や兵士を倒しに行くんです」
「ったく。その行動は褒めるが――」
男の話の最中にアゼットとリリーシャは目を輝かせてちょっとずつ近づいていた。
特にアゼットは倍に何かに興奮している。
男は二人が気になりすぎて話を一度やめた。
「なんだ?」
「あ、あのもしかしなくてもゼルディック兵士長ですか!!」
「あぁ? それがどうした」
「うわ、まじか! リリーシャが言ってたこと本当だったのか!!」
ゼルディック兵士長、確かリリーシャがアイズ大陸最強の魔法剣士と言っていた人か。
ならあの速度には納得だ。
ゼルディック兵士長はアゼットの頭に人差し指で触れ後ろに下がるように押した。
「続きだが、お前達は学校へ戻れ」
「どうしてですか! 俺達は人を守るために剣を振るっているんですよ! なのに戻れって」
「大体の敵は俺達兵士団で鎮圧が完了している。残りの魔物や変異型は冒険者と協力し討伐している。それとお前達は学生だ。学生がこんな危ない橋を無闇に渡ろうとするな。命がいくつあっても足りないぞ」
言っていることはわかる。
なら助けを求めている人を探し救出することくらいはしたい。
「なら負傷者を探すとかはだめですか」
「その負傷者になっているお前達は駄目だ。まず直して安静にしろ」
「これくらいならなんとかなります!」
「あのな、お前達がさっきまで戦ってたやつは――ってこんな話をしてる場合じゃない。俺も他に行かなければならない。だからお前達は早く学校へ戻れ。先生が心配していたぞ」
「……わかりました」
ゼルディック兵士長は後ろに正面を向け歩き出した。
「あっ! あとさっきの男性は大丈夫でしたか?」
「…………」
ゼルディック兵士長は僕の問いかけに応えることはなかったが歩きながら首を横に動かしていた。
僕達は静かなまま学校の方に向かって歩き出した。




