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第二十三話【特別指導 前編】

 この状況、先生だからと言って手を出さないなんて考えはない。

 だがここに変異型が来たら厄介過ぎるがその時はまたどうにかすればいい。

 今はログマネス先生だけを。


「我が敵を焼き尽くせ。『火球(ファイア・ボール)』!!」

「クレイ!」


 僕の魔法はログマネス先生の真横を通り過ぎる。


「クレイ、正気か。相手は先生だ。ここは逃げた方が――」

「きっとそれがいいんだ。でも逃げ切るなんて無理なんだよ」

「よくわかっているじゃないか。加点してやろう」


 僕は杖をログマネス先生に向け見つめた。


「でも人を傷つけるなんてそんな簡単にしたくない。だから先生、どこかへ行ってください」

「お前の導き出した答えはそれか。残念だが減点だ。特別指導続行だな」


 ログマネス先生はこちらに杖を向けた。

 その時僕の横にいたシュレーナさんがログマネス先生に杖を向けた。


「風の加護を与えし者よ、空を斬るほどに鋭く尖り、私の敵を斬り裂け。『風刃(ウインド・スラッシュ)』」


 ログマネス先生との一件からしばらくした頃ミネルア先生と会話していた内容を思い出した。


「ログマネス先生はよくわからない人だけど実力はある人物です。ですから貴方達にしたことも彼なりに何か意図があったのかもしれませんが――」

「実力がある人物……」

「はい。既に教わったと思いますがログマネス先生は魔法を魔力で消すという技術をお持ちです。それだけでも厄介だと言うのに基本四属性は全て扱え実力は一般魔法士よりもやや上。ですがそれだけではありません。ログマネス先生は特殊属性の闇魔法を得意としているのです」


 闇魔法。

 火・風・土・水の基本四属性、氷や嵐、炎などは基本四属性から派生した派生属性と呼ばれる。

 その中で光と闇は基本四属性に当てはまることはなく派生することも出来ない独立した異質な属性だ。

 そんな二つを総称して特殊属性と呼ばれている。


 一般的に特殊属性を扱える者は少なくはないがそれを得意とする者はかなり少ない。

 僕は使えないからその理由はよくわからないが本で読んだ情報によると自由に特殊属性を扱うためには基本四属性の体内の魔力の流れとは逆の流れにしなければならないそうだ。

 少し使うだけなら若干の逆流で行けるらしい。


 逆にするだけなら簡単そうに思えるがそもそも魔力は生まれつき同じ向きに流れておりそれをどうこうしようなんて思ったこともない。

 だから魔力の流れに干渉する力なんてないのだ。


「みんな、体勢を整えてください!」

「うん!」

「来るってことだな」


 ログマネス先生はニヤと微笑む。

 シュレーナさんの風の刃はログマネス先生に近づいた瞬間に白色に発光しその存在が消えた。

 そしてそれと同時に無詠唱の闇魔法の何かがこちらへ飛んできた。


「なんだあれは!」

「わからないでも! 我が敵を焼き尽くせ。『火球(ファイア・ボール)』!!」


 それに向かって魔法を放つ。

 僕の魔法よりも遅く動く闇魔法。

 こちらに影響を及ぼす前に間に合わせる事ができた。

 しかし火球(ファイア・ボール)は小さな黒の円形に飲み込まれそして共に消滅した。


「き、消えたよ! クレイの魔法が!」

「おい、なんだよありゃあ」

「あれが闇魔法……初めてみました。闇魔法は基本四属性に対してやや有利な魔法ですからその理論によってクレイさんの魔法は消えちゃったんでしょうか?」


 闇魔法に夢中になっている僕らのところへ火球(ファイア・ボール)が飛んできた。

 その火球(ファイア・ボール)は僕が放つものよりも一回り大きく見た目からして威力が高いのは明白だ。


「私達を守り給え。『水壁(ウォーター・ウォール)』!!」


 アリアさんがそういうと杖は水色に光り地面から厚い水が縦に伸びた。

 そしていざ火球(ファイア・ボール)が水の壁にぶつかると一瞬で蒸発し消えた。


「アリアさん、ありがとうございます」

「いえ、そんなこと言われるほどではないです。それに見ているだけなんて嫌ですから!」

「なら俺もこうしちゃいられないな。だろ、リリーシャ?」

「そうね。私達もどうにかしなくちゃ」


 するとリリーシャさんとアゼットは柄に触れる。


「水の加護を与えし者よ、()てつく氷晶の力を引き出し我が剣に魔力を宿せ」

「火の加護を与えし者よ、力を一点に集中させ、内で燃え盛る炎を我が剣に宿せ」


 あっという間に二人の剣は凍りつき、火が纏わりついた。


「火の加護を与えし者よ、炎を宿し無尽蔵の熱量を放つ数多の球体を顕現させ我が敵を燃やし尽くせ――」

「風の加護を与えし者よ、今ここに自然の力を以って竜巻を起こせ――」

「水の加護を与えし者よ、私の杖に力を集わせ激流を巻き起こし、今在る敵を全て流し出せ――」


 走り出したリリーシャさんとアゼットの後ろにいる僕らはログマネス先生に杖を向け一斉に詠唱をした。

 そして全ての攻撃を同時に。


「『冰化斬撃(グラセ・エクラゼ)』!!!」

「『炎斬(フレイム・スラッシュ)』!」

「『火炎(ファイア・)交差弾(クロスバレット)』」

「『竜巻旋風(フウァール・ウインド)』」

「『水砲(アクア・カンノーネ)』」


 魔法と剣が多角からログマネス先生を襲う。


「少しはやるじゃないか!!!」

「先生ッ!!!!!!!!!」


 アゼットが剣を振るがログマネス先生はそれを躱す。

 だがもう一度、何度も繰り返す。


 そこに後ろからとてつもない速さでリリーシャさんが現れログマネス先生を凍りつかせた。


「今!!! 狙って!!!」

「あまり舐めるなよ」


 氷の内側は赤く光り出した。

 すると氷が徐々に溶け出したと思った瞬間、大きな爆発を起こした。


「こんなので抑えられるとでも?」


 アゼットとリリーシャはややこちら側に戻ってきて体勢を立て直し様子を見始めた。


 遅れてアリアさんの魔法がログマネス先生へ向かったが余裕が出来たログマネス先生はいとも簡単に魔法を打ち消した。

 その後一秒もせずにシュレーナさんの魔法が飛んでいく。

 

「!?」


 ログマネス先生は何かあったようで自身の後ろのスペースに移動しシュレーナさんの魔法を避けた。


「短期間でかなり威力が――」


 後ろに移動する際に発生した両足が地についていない時間。

 その短い時間の間に僕の魔法が発動した。


 これといった規則性を持たないまま火の弾はログマネス先生めがけて様々なところから一斉に放たれ激しい砂埃と爆発が引き起こる。


「もしかして倒せた!?」

「さすがクレイくん」

「そうでしょうか……? あの先生がこれだけで倒れる人物だとは思わないです」


 消えゆく煙の中にふらふらと揺れる影。

 やはりログマネス先生は……。


「……随分短期間に成長したみたいだな」

「やっぱり生きてやがったか」


 ふらふらと左右に揺れながらも体勢を立て直すログマネス先生。

 そんな先生のローブはボロボロになり額からは血が流れている。


 倒せなかった。

 だからと言って悔しいなんて気持ちはない。

 どちらかというと嬉しいだろうか。


 あの先生にこれだけの傷をつけられた。

 ログマネス先生の額に流れる血はまだ僕らはやれるという希望を生み出す。


「やったな……やったなぁ……やってくれたなァァァ!!!!!!!!!!」


 突如大きな声を出したかと思ったらログマネス先生はニヤっと理解し難い笑みを浮かべた。


「クレイ、お前も鼻が利けばよかったのになァァァ!!!!!」


 ログマネス先生の言っている言葉が全く理解できない。

 何故今そんな話を始めたんだ。

 なんの関係もないのに。


 その時、後方頭上の方から自然的な音ではない何かが鳴ったのが聞こえた。

 隣にいたシュレーナさんが「あれ」と指をさしたことでログマネス先生が何を言っているのかを理解した。


「は、離れてください!!!」


 僕の後ろ、それもすぐ後ろだ。

 そこには恐らく闇魔法の斬撃のような攻撃で真っ黒な刃がとてつもない速さで突っ込んできていた。

 短縮詠唱だとしても間に合わない。

 

「任せて!」

「斬撃は剣でッ!!!」


 僕の前に出てきたアゼットとリリーシャさん。

 闇の斬撃に対して剣をぶつける。

 バチバチと火花を散らしながら押したり押されたりを繰り返す。


 少しして二人は息を合わせ斬撃を違う所へ弾き返したがその反動で近くの建物へ吹き飛ばされた。


「アゼット! リリーシャさん!!」


 僕は二人をどうにか助けたい一心で倒れ込んでいるところに行こうとしたその時炎の斬撃が飛んできていることに気がついた。

 足を止め回避を試みる。


 回避は成功したが完全に避けることは出来ずログマネス先生の魔法が当たってしまった。

 グサッと何かが刺さり裂ける痛み、火の熱さが同時に襲ってくる。


 あまりの痛みで思わず地面に座り込んでしまった。

 手を痛みの箇所に押し付ける。

 負傷箇所は腹部、血は出ているが多量ではない。


「クレイくん」

「クレイさん!!」


 アリアさんとシュレーナさんが僕のもとへ駆け寄ってきてくれた。


「大丈夫?」

「はい、なんとか。致命傷にならなくて良かったです」

「油断は関心しないなァ!」


 再びこちらに魔法が飛んできている。

 すかさずアリアさんとシュレーナさんは杖を魔法に向けた。


「私達を守り給え。『水壁(ウォーター・ウォール)』」

「風の壁を今ここに。『風壁(ウインド・ウォール)』」


 僕の目の前には二重の魔法によって生成された壁。

 ログマネス先生の魔法がぶつかると激しい音を立てながら無理やり進んで行く。

 だが二人の二重の壁を貫くことは出来ず途中で止まり消失した。


「アゼット、リリーシャさん! 大丈夫?」

「俺は大丈夫だ!」

「私も大丈夫よ! だから気にしないでそっちに集中して!」


 多少怪我をしているようにも見える二人だが彼らはそう言ってくれている。

 なら僕は二人を傷つけたログマネス先生を許しはしない。

 僕がこのおかしな特別指導を終わらせるんだ。


「シュレーナさん、アリアさん。ありがとうございます」


 僕は立ち上がりログマネス先生を見つめる。


「私も一緒にやる」

「シュレーナさん……ありがとうございます」

「あっああわわ私もご一緒に!」

「アリアさんもありがとうございます」


 僕らは三人で再度ふらつくログマネス先生を見つめる。


「特別指導、ラストスパートと行きましょう」

「ふっ、礼儀のないお前達には追加の特別指導が必要なようだな」


 僕は杖を強く握りログマネス先生に向けた。

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