第十六話【魔法実技 後編】
「我が敵を焼き尽くせ。『火球』」
杖先は赤く光を放つ。
一切のブレのない火球はログマネス先生へとどんどんと近づいていく。
「短縮詠唱か。少しは出来るみたいだが下級魔法ではすぐに消せてしまうぞ」
その言葉の通りシュレーナさんの放った魔法は前の生徒と同様にログマネス先生により消されてしまった。
だがシュレーナさんはそこでは終わらなかった。
次から次へと畳み掛ける。
「風の加護を与えし者よ、今ここに自然の力を以って竜巻を起こせ。『竜巻旋風』」
杖先が緑色に光ると一秒の間隔もなくログマネス先生に疾風の竜巻が発生した。
シュレーナさんのその魔法は発生後も消えることはなかった。
さすがの先生でも真下から発生する魔法に対して瞬時に同一の魔力を与えるということは出来なかったみたいだ。
「シュレーナさん、あんなに先生に対して立ち向かえるなんて凄いですね!」
確かにそうだ。
僕はこれでも普通の人よりは本で学び出来そうなことはやっているがそれでも時々シュレーナさんはその上を行く。
一体シュレーナさんはどこでそんなことを……。
「…………」
シュレーナさんの竜巻が徐々に消失するとその中から無言のログマネス先生が現れた。
そして自分の身体を一通り見回したあと口を開いた。
「やってくれたな。私のローブを破るとは」
良く見てみるとたしかに先生のローブは少し欠けている。
しかしシュレーナさんがログマネス先生にダメージを与えたということに対しての称賛は誰一人として送らなかった。
また先生も同様で明らかにこれまでよりもさらに一つテンションが変わり声の圧が変わっている。
それが意味することはたったひとつ。
「覚悟しろ。シュレーナ・パライナット!!!!!」
建物の中に大きな声が響き渡る。
その声と気迫にシュレーナさんは怖がっているように見える。
僕はすぐさま他の生徒の中をかき分けてシュレーナさんの元まで行く。
「火の加護を与えし者よ――」
あんな高度な魔法を打ち消すということが出来る先生が短縮詠唱や無詠唱が出来ない魔法。
それは恐らく上級魔法、あるいはそれ以上なのかもしれない。
ただ言えることはログマネス先生は今僕たちに完全な敵意を持って魔法を放とうとしているということだ。
簡単に言えばログマネス先生はお怒りだ。
「シュレーナさん、後ろに下がってください」
「で、でも!」
「相手は魔法士の先生です。もしかしたら怪我をしてしまうかもしれない。だから――」
「私の願いを叶えよ――」
周りの生徒もざわつき逃げようとする者もいる。
もちろん僕も逃げたい。
でもここで逃げればシュレーナさんが傷ついてしまうかもしれない。
だがそんなことはあってはならない。
「ログマネス先生! 魔法をやめてください! そんなことをしても何も意味がありません!!!」
「…………」
詠唱をやめるログマネス先生。
僕の言うことを受け入れてくれたのだろうか。
「意味がない? 意味がないだと。意味があるに決まっているだろう。クレイ・グランディール!!!」
「!!」
僕の名前を強調し大きな声で言ってきた。
やはりあの時の出来事を覚えていて根に持たれているのか。
「これは教育だ。言っただろ実戦で死なぬようにここで殺すと。だからこうして魔法を放つのだ」
すると何の前触れもなくログマネス先生の杖先が赤色に光輝く。
気がつけばすぐそこには火球が迫っていた。
まさかの無詠唱。
おまけに速度に大きさは明らかに僕よりも遥かに上だ。
当たれば怪我だけでは済まない。
だが今から魔法を発動するのは不可能だ。
なら――
「シュレーナさん!!!!!!!!!!!」
「!?」
僕はシュレーナさんと一緒に横に大きく飛び込み地面に倒れる。
そして通り過ぎた火球は壁にぶつかりかなり激しい爆発を引き起こす。
「避けるとはな」
また無詠唱のなにかが来る。
それに対応する為先手を取るという形で詠唱を始めた。
「熱き炎で僕らを守り給え。『火壁』」
下級火属性の防御系魔法である火壁を発動した。
そして予想通り先生の杖先は再び赤色に光った。
放たれた火球は火壁にぶつかると火壁を消失させた。
壁が威力に負けたのだ。
しかし僕はこんなこともあろうかとあらかじめ何層かに分けて火壁を出現させていた。
そのおかげで火球は火壁に当たるたびに速度、威力共に下がっていき最終的には消失した。
守る、逃げる、それは魔法士の僕たちにとってそう難しいことではない。
ただそうして時間が進んでいけばいずれかは力尽きる。
僕らに残された選択肢は戦うことのみ。
「シュレーナさん、ここは任せてください」
「だめ。前にも言ったよ。私も一緒に戦うって」
「……わかりました。ですが危険な時は逃げてください」
「うん」
僕らは立ち上がり二人で杖を先生に向ける。
その時まるでシュレーナさんと感覚が繋がっているような、そんな不思議な感じがした。
「私にこうも堂々と杖を向ける生徒がいるとは。長いこといるが初めてだ。ならばそれに答えてやろう。どちらが強いのかを」
先生もこちらに杖を向ける。
「火の加護を与えし者よ、焼き尽くす火の力を今ここで解き放ちあの者を灼熱で滅ぼせ。『火焔』」
「風の加護を与えし者よ、今ここに自然の力を以って竜巻を起こせ。『竜巻旋風』」
僕の中級魔法『火焔』とシュレーナさんの中級魔法『竜巻旋風』は途中で重なり合い火焔の竜巻となりログマネス先生へと近づく。
ログマネス先生が生み出した沢山の炎の槍は一斉に僕らに向かってくる。
周りの生徒はどうしようもなくしゃがみこみ身を守ったり防御魔法を使用している者もいた。
二つの魔法は次第に近づいていきそれがぶつかりそうになったその時、建物の扉が大きな音を立てながらバンっと開いた。
扉の方を見るとアリアさんの隣にミネルア先生が立っており手には杖があった。
ミネルア先生の持つ杖先は白く輝きそして杖を上から下に振った。
その瞬間、僕らの魔法とログマネス先生の魔法は消えた。
「ログマネス先生、さすがにこれは行き過ぎですよ。また処罰を受けたいつもりなのですか」
「何度も言っているがこれは教育だ。ミネルア先生も自分の生徒は死ぬのは嫌でしょう? そうならぬようこうして簡単な実戦形式にしているのだ」
「ではなぜ今、明らかに威力を高めた中級魔法をお使いに?」
「……それはたまたまで」
「たまたま。それで通用するとでも思っているのですか。ここは生徒が快適に魔法を学ぶ場。先生のストレスやらを発散する場ではありません。後に校長にもお伝えします。あまり良い未来を見ないほうが身のためですよ」
「……チっ」
ログマネス先生はこちらを一度睨んできたあとローブを靡かせ扉へと歩き出し内ポケットに杖をしまい込んだ。
*******
あの後ミネルア先生の指示のもと授業はそこで中止となり今日は各自寮へ戻るということになった。
ミネルア先生曰く、二人ほど軽傷を負ったそうでログマネス先生は謹慎になるかもしれないと言っていた。
まぁ、僕らにとってはそれは本当にどうでもいい事でむしろ良いことと言っても過言ではない。
代わりの先生もいるみたいだし。
何はともあれ事が片付いてよかった。
これで心置き無く学校生活を謳歌することが出来る。
短い間でしたがありがとうございました。
ログマネス先生。
読んで頂きありがとうございます。
宜しければ【いいね】【ブックマーク】【感想】【☆評価】などして頂けると今後の励みになりますのでよろしくお願いします。
次話もお楽しみに。
また誤字脱字などがありましたら遠慮なく指摘してください。




