第十五話【魔法実技 前編】
翌日。
これから受ける魔法実技には専用の建物があるらしくそこへ向かっている。
本当だったらアゼットと別れたあとシュレーナさんと会って一緒に行くつもりだったのだが待っても来ないので先に行くことにした。
これ以上待っていたら遅刻をしてしまうしもしかしたらシュレーナさんは先に行ってしまったのかもしれない。
それにしても魔法実技は教科書など余計な物は不必要でいるのは杖だけ。
なんて身軽な授業なんだろうか。
吹き抜けた廊下、床は石で統一されており歩くたびにカツカツと音を鳴らす。
この先は直進、右、左と廊下が分岐している。
そんな分岐点に一人の女性がポツンと立ったままで辺りをキョロキョロとしている。
少し近づき声をかけてみることにした。
「どうかしたんですか?」
「あ、実は魔法実技の建物に行く道を忘れてしまって……確か右だったような、前だったような、左だったような」
「自分も魔法実技受けるので一緒に行きますか?」
「は、はい!」
「ちなみに建物は左です」
左に曲がり二階に繋がる階段の隣に先へ進む道があるのでそこを進む。
すると外に出た。
外に出てると屋根のついた廊下がずーっと奥まで繋がっている。
この廊下は他のいろいろな建物にアクセスすることが出来る。
非常に便利な通路なのだ。
「ありがとうございます。おかげで遅刻せずに済みそうです」
「いえいえ」
「あ! そういえば名乗っていませんでした。私は一年のアリア・ブランダーです!」
どこかで見たことのあるオレンジ色の髪だと思っていたが彼女は昨日の歴史の授業で居た生徒か。
しかし今日は昨日と違って落ち着いた色の丸い眼鏡をしている。
イメチェンだろうか。
「僕はクレイ・グランディールです」
「グランディールさん! ですね!」
「あまりそっちで呼ばれることはないのでクレイでも良いですよ」
「わかりました。クレイさん、これからよろしくおねがいします!」
「こちらこそよろしくお願いします」
軽めの自己紹介をしているうちに魔法実技の建物についた。
外見はもはやただのどでかい箱だ。
扉を開け中に入ると外見からは予想もつかないほどの空間が広がっていた。
無駄に凝ったデザインをしている床。
壁にはところどころ太い柱が接地していたり柵でしきり恐らく戦闘を観戦するための席が設けられている。
既に建物の中には一人、二人、三人、四人、五人……まぁ、かなりの人数が集まっている。
そしてその中に席にちょこんと座っているシュレーナさんを発見した。
アリアさんと共にシュレーナさんのもとへ向かう。
「シュレーナさん、もう居たんですね」
「うん。早く起きすぎちゃって。そっちの人は」
「あ、こちらはアリアさんです。昨日歴史の授業にもいた方です」
「あぁ」
シュレーナさんもなんとなく誰なのかピンと来たようだ。
立ち上がり横に並んでくるシュレーナさん。
「どうしたんですか?」
「私、アリアよりちょっと背小さいかも」
「えへへ、そんなの誤差だと思いますよ」
バンッ!!!
破裂音、いや何かが激しく当たったような音が魔法実技を行う広く大きな建物に響き渡る。
もちろん中で先生を待っていた生徒は皆一斉に反応し静まった。
「全員、整列しろ」
そんな声が背後から聞こえてくる。
正体は先生……なのだがまさかこんな形で再び出会うとは思いもしなかった。
式の前に出会いなぜか怒ってきた先生はこちらをギロっと睨んでくると全員の前に出る。
ローブを靡かせ正面をこちらに向けた。
「何をボサッとしている。整列しろ。二度言わせるな」
皆、怯えながらも無言で指示に従いそれっぽく整列した。
「私が魔法実技を担当するログマネス・ドメルティだ。これからこの講義について説明しておこう」
するとログマネス先生はローブの中から魔法杖を取り出し歩きながら説明しだした。
「魔法は火、水、風、土の基本四属性で構成されている。しかしこれだけではない。四属性に含まれない光、闇の特殊属性また属性に分類されない特殊魔法もある。氷などは基本四属性から派生した派生属性だ。これは常識の範囲だな」
生徒の前を行ったり来たりするログマネス先生。
「では魔法はなぜこれほどまでに必要とされているのか。それに完全な答えなどはない。生活を豊かにする、楽にする、そんな答えもあるかもしれないからだ。だが最も答えに近い理由がある」
歩く足を止め動かなくなったと思ったその瞬間、ログマネス先生は一人の生徒に向かっていきなり杖を向けた。
杖を向けられた生徒は戸惑い怯えている。
「戦争に使えるからだ」
先生の突然の発言に僕も含め生徒一同驚いてしまった。
「たとえどんな雑魚魔法士だとしてもそこらの剣士では太刀打ちできない。魔法は使えている時点で一般人との差は大きい。だからどの国も魔法士、魔法剣士に対して優遇するのだ」
ログマネス先生の言っていることはあながち間違いないのかもしれない。
実際、多くの国で魔法を扱えるものへの生活支援や成長の支援、数え切れないほどの施しがあるとも聞く。
「お前らはいずれどんなことがあれ、戦う日が必ずやってくる。これは避けられない運命だ。だからこの講義ではお前らが戦闘で死ぬことがないようにこの場で特訓、いや殺す」
最終的に整列する僕らの中心へと戻ってきたログマネス先生は生徒の顔を見始めた。
「この講義は初回だ。つまりお前達の技量を知る必要がある。これから私と簡易的に実戦を行ってもらう」
先生の言葉に周りの生徒達はざわざわしていた。
それは無理のないことだろう。
ここにいる者達は確かに魔法を扱えはするがこれから立派な魔法士になるために成長しようとしている段階だ。
なのにいきなり完成しきった魔法士と戦うなんて勝てるはずがない。
むしろ圧倒されて魔法に恐怖を覚える人も出てくるかもしれない。
「静まれ。何も私は本気で戦うとはいっていない。あくまで簡易的にだ。もちろん私は生徒に対して本気で挑むこともない。安心してくれて構わない。ではまずお前、前に来い」
杖で指された生徒は一瞬ビクっとしたあと恐る恐る前に出て先生の隣で立ち止まる。
「他のやつらは離れておけ」
そういうと先生は選んだ生徒と共に建物の中心へと向かった。
距離を取り向かい合う。
「どんな魔法を使っても構わない。この建物は私の魔法でさえ壊せないのだからな」
「わ、わかりました」
「では始めるぞ」
「はい!」
男子生徒はローブの中から細い木の杖を取り出すとログマネス先生に向けた。
「風の加護を与えし者よ、今ここで突風を引き起こし我が敵を巻き込め。『突風』」
すると生徒の杖の先端が緑色に発光し激しい風が巻き起こる。
「下級風属性魔法か。制御も出来ているようだな。及第点と言ったところか」
そんなことを呑気に言っているログマネス先生だがその間にも魔法はどんどんと接近していっている。
一体どうする気なのだろうか。
「お前の番はこれで終わりだ」
ログマネス先生が接近してくる風魔法に対して杖を向けると先端が白色に激しく発光したと思ったら生徒の放った下級風属性魔法は消失していた。
一体何が起きたのかわからず皆、きょとんとしていた。
「これは相手の魔法を消す魔法だ」
超大規模な魔法になれば詠唱時に魔法陣を必要とするからその回路を読み解くことで確かに魔法を崩壊させるということは出来るらしい。
だが通常の魔法は魔法陣を用いず体内の魔力の巡りと脳の意識で発生させている。
本当にそんなことが可能なのか。
「これを会得するのは極めて大変だが行く行くは会得してもらう。ちなみに原理自体は至ってシンプルだ。消したい魔法に対して同一の威力の魔力を放出するというだけだ。しかしこれがほんの少しでもずれると消えなかったり、逆に対象の魔法の威力を上回ると爆発を引き起こしてしまう」
本来なら詠唱をすることで体内の魔力が脳を換えし形を変え魔法として放出される。
しかしこの魔法を消す魔法はそういった工程はなく体内の魔力を脳を換えさずして直接魔力を放出するということか。
それにしても同一の威力をぶつけるなんて普通の人間に成せるのか?
詠唱や魔法でどの階級のどんな魔法なのかはわかるが威力は人それぞれだ。
それを当たるまでのほんの数秒で分析しなければならない。
本当に人間に出来ることなのだろうか。
「それじゃあ次はそこのお前、前に出てこい」
最初に前に出された生徒は後ろに下がり代わりに僕の窓なりにいた女性――シュレーナさんがログマネス先生の前に出た。
「どこかで見覚えがある顔だな。まぁ、そんなことはどうでもいい。私に魔法を放ってみろ」
シュレーナさんは杖を取り出しログマネス先生に向けた。
大きな建物の中は外でなにかをしている生徒の声が微かに聞こえてくるだけ。
そんな静寂の中シュレーナさんはスーっと息を吸い込んだ。
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