第十一話【冰化斬撃】
アグアス村を出発してからかれこれ三時間ほど経過した。
特に何の問題もなくウェンツェ王国を出ることができ今は整備されたアンデス山を進んでいる。
初めてきたがかなり綺麗に整備されており道幅も広い。
急斜面もなく平らだ。
整備された道に入ってからは商人と思われる馬車が通り過ぎていったりしていたことからここはエントリア王国とウェンツェ王国の品物の運搬を行うのを目的としているのだろう。
そうなるとかなり整備されたこの山にも説明がつく。
「クレイくん、もう少しかかる?」
「そうですね。まだかかると思います。ですからシュレーナさんは寝ていても大丈夫ですよ」
「今回は寝ない」
そういうとシュレーナさんは荷台の中を移動し僕の隣の席に座った。
「思ったんだけど二人って幼馴染とかだったりするの?」
「そんなんじゃないですよ。喋るようになったのもここ最近ですし。そうですよね、シュレーナさん」
「…………」
なんでこういう時だけ反応しないんだ。
まるで僕が変な人だと思われてしまうじゃないか。
「え、えへへ。仲良いように見えたからそう思ったんだけどなぁ」
「クレイくんとは共に困難を乗り越えた仲だから」
「え! もしかしてつい最近ルハイル大森林で出たっていう魔物のこと?」
「そう」
「変異型が二体も出て死者も出たって聞いたけど……」
「二体の変異型はクレイくんがどかーんって倒した」
「変異型を一人で!? しかも二体も?!! 一体何者なんだね……君は!」
「シュレーナさんが協力してくれなかったら倒せませんでしたよ」
僕がそう言って話を修正するとシュレーナさんがこちらの顔を見つめたあとまた何かを言い出した。
「二体目は上級火属魔法を発動して倒してた」
「私、魔法剣士だから魔法士に関してはよく分からないこともあるけどその魔法がとんでもないことは知ってる! でも上級魔法を扱える人物は世界でもかなり限られた人物だけなのに……やはり何者なんだね……君は」
リリーシャさんは顎を指で触りながら異様に僕のことを疑ってくる。
「普通の学生魔法士ですよ。それにもう上級魔法は使えないと思いますし」
「それはどうして! 私も見てみたいんだけどなぁ」
「確かにあの時は体に、手に、とてつもない力を感じました。でも今はそんなものは感じないし引き出そうとしてもそもそもないから引き出せないし。よく分からない状態なんです」
「まぁ、魔法は説明がつかないこともあるから仕方ないよね。でもいつかは使えるようにしてね。見てみたいから!」
「はぁ」
なんて無謀なお願いなのだろうか。
そんなキラキラした目で見つめてきても叶えることは今世でも来世でも無理な話だ。
「クレイくん、あれ見て」
僕がリリーシャさんの方を少し見ていた時、シュレーナさんが肩を叩いて前方を指さした。
その先には馬車が止まっておりなんだか男性の声のようなものが聞こえる気がする。
少し馬車で近づいてみることにした。
すると馬車からポタポタと赤い液体が垂れている。
「まさか、血!?」
「た、助けてぇ!!!!!」
「ウォォロォォォ!」
馬車の荷台から一人の男性が慌てて降りてきた。
その後ろからはゴブリン……いやまさか。
歪んだ顔、長さがあまりにも違う手、あれは変異型のゴブリンだ。
ルハイル大森林から離れたこんなところにまで変異型がいたのか。
「シュレーナさん、杖の準備を!」
「うん!」
「ここは私がっ!!」
勢いよく馬車の外へ飛び出したリリーシャさんはこちらに向かってくる男の後ろにいる魔物を睨みつける。
片方の手で鞘に触れもう片方の手で剣の柄をしっかりと握っている。
「は、早く助けてくれぇ! 死んじまう!!」
「行くよ!」
リリーシャさんの剣、変異型ゴブリンの持つ太い木棒がぶつかりあった。
ややリリーシャさんが押しているようだがゴブリンも抵抗し次第に押し合いは拮抗していた。
「……ッ! なんで変異型ってこんなに力強いのばっかなの!」
「エォォォ!!!!!!!!!!」
「!?」
ゴブリンが木棒を思いっきり振ったことでリリーシャさんの剣が振り払われた。
リリーシャさんが一瞬、体勢の崩れたその瞬間にゴブリンが再度木棒を振り上げ攻撃しようとしている。
そんなゴブリンに対して僕は魔法杖を向けた。
「我が敵を焼き尽くせ。『火球』!!!」
杖から放たれた火球は勢いよくゴブリンにぶつかり爆発を引き起こした。
だがしかしそんなことでは倒せるわけがない。
なぜならあれは変異型の魔物。
「クレイくん! ありがとう!!」
体勢を立て直したリリーシャさんは集中しだした。
時間が一秒と経過すると手に持っている剣から湯気、煙のようなものが出始める。
「ゴブリン、行くよ」
次の瞬間には剣が凍っていた。
「水の加護を与えし者よ、凍てつく氷晶の力を引き出し我が剣に魔力を宿せ」
リリーシャさんの剣は完全に凍りついていた。
「冰化斬撃」
リリーシャさんがかなりの速さで変異型のゴブリンの横を通り過ぎた。
その時ゴブリンは全身が氷に覆われ身動きが取れない状態になっていた。
やや前傾の姿勢から戻りゆっくりと剣を鞘の入口にかすめる。
鞘の入口に剣を沿わせるように入れ込みカチッと完全に納まった音がなったその時、変異型のゴブリンを覆う氷に無数の亀裂が入った。
もしやゴブリンが氷を破ったのかと思ったが氷の中に血の様な液体が至る所に流れている。
納刀よりおよそ五秒の時間が流れる。
氷に入った亀裂同士がぶつかり合い、そして激しく砕け散った。
氷の砕けと共にゴブリンの体もまた同様に砕けもはや原型を留めていなかった。
「…………」
「…………」
その光景を目の当たりにして僕とシュレーナさんは何の言葉も出てこなかった。
「ふぅー、二人共終わったよ!」
「あぁ! 助けてくださり本当にありがとう。こうして私だけでも生きることが出来るなんて……」
なんとなく予想はしていたがやはりか。
前方に停車する馬車から未だに血がポタポタと垂れそれはどんどんと広がっている。
しかし僕たちにすがってきているこの男性は全くの無傷。
男性の発言や状態から見るにあの馬車の中で仲間の人が殺されたのだろう。
「…………ッ!」
「クレイくん、大丈夫?」
「す、すいません。少し気分が悪くなってしまって」
「座った方がいいよ」
「ありがとうございます」
僕はシュレーナさんに言われるがまま馬車の操作する座席に座り深く深呼吸をしなんとか気を整える。
「このお礼はいつかさせていただきます! 本当にありがとうございました。あとの事はこちらで――」
早くこの場から立ち去りたい。
「そろそろ行きましょう。間に合わなくなってしまうかもしれないので」
「うん」
「はーい!」
みんなを乗せ、前方に停車する馬車を避けながらさらに先、エントリア魔法学校に向けて進みだした。
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次話もお楽しみに。
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