第十話【再出発】
「えーっと、誰なの?」
全員がテーブルに並んだ豪勢な食事を囲むように椅子に座った。
そして僕の目の前に座っているリリーシャさんはこちらを見てポカンとしていた。
「クレイくんとシュレーナちゃんよ。仲良くしてね」
「クレイくんとシュレーナちゃん、ん〜、なんで二人は私の家にいるの?」
「二人はね、オルス村からエントリア魔法学校に行くためにここに来たのよ。それでね、あなたを一緒に連れて行ってもらえることになったのよ」
「えッ! じゃあ、私行けるってこと!! エントリア魔法学校に! そうなのお父さん!!」
「あぁ、お前の好きなように自由に学んでくるといい。成長して帰って来るのを待っているからな」
「やった……やったぁ! 二人共ありがとね。うぅぅやったぁ!!!」
リリーシャさんは想像以上に喜んでいた。
それを見ているとなんだかこっちまで不思議と嬉しくなってくる。
「それじゃあ冷めないうちに食べようかね」
「うん!!」
そしてみんなで談笑しながら用意された美味しそうな食事を楽しんだ。
***
「悪いが部屋は一つしかなくてな。まぁ、一夜だけだしそれでも大丈夫か?」
「僕は大丈夫ですけど」
「私も大丈夫」
「じゃあ、決まりだな」
ラルスさんは部屋の扉を開けた。
中は至って普通の部屋と言った感じでベッドが二つに本棚、机と置かれている。
「ベッド二つもある」
「この部屋は元々俺が小さい時に兄さんと一緒に寝てた部屋だからな。それじゃあ、俺は下に降りてるから何か困ったことがあったら聞いてくれ」
「ありがとうございます!」
ラルスさんは一階へと降りていった。
そして僕たちは部屋の中に入った。
荷物を壁によせて置きベッドに座り込む。
ローブを脱ぎふと左腕を見ると巻いていた布が血で汚れている。
交換しようと布をほどいたが血は完全に止まっており少しだけ傷口も閉まってきている。
これなら交換する必要はないだろう。
「アグアスからエントリアまであとどれくらい?」
ベッドの上に乗り壁を背もたれにし、両足を揃えた状態で膝を折り両手で抱え込みながらこちらを見て問いかけてきた。
「えーっと」
ウェンツェ王国の最北端であるアグアス村、つまりここを出ればウェンツェ王国を出るということだ。
そしてそのあと進む道はアンデス山だ。
アンデス山はそこまで険しくないうえにご丁寧に整備までされている。
アンデス山を進み切るとあとは少し進めばエントリア王国の都市フリーレアに到着する。
これらの流れから考えると――。
「半日もかからずに着くと思いますよ」
「式には間に合いそう」
「ですね」
エントリア魔法学校の新生徒の式は二日後にある。
なのでそれまで着いていればいいのでとりあえずはなんとかなりそうだ。
「それじゃあ、僕は明日に備えてもう寝ますね」
「うん、おやすみ」
「おやすみなさい」
僕は横になり布団を体の上にかけ目を閉じた。
***
窓から差し込む光で目を覚ました。
誰にも起こされずに起きれるとは快挙である。
「ふぁわぁあ」
体を起こし大きなあくびをしながら体を伸ばす。
あの長旅でかなり疲れていたがだいぶ癒えた気がする。
ベッドから降りてローブを身に纏う。
シュレーナさんはまだ眠っているのでそっとしておこう。
扉を開け一階に降りた。
一階では既に準備を終え今にも出発したそうにしているリリーシャさん、それを止めようとしているミナさんの姿があった。
「おはようございます」
「あ、クレイくん。おはよう。よく眠れた?」
「おかげさまで」
「そう、それはよかったわ。それでこの子ったらもう出たいとか言ってて。でもまだみんな起きてないしね?」
「早く出るんでしたらもう準備しますよ」
「ごめんなさいね」
「いえいえ、じゃあ、僕はちょっとシュレーナさんを起こしてきます」
僕は再び二階に上がりシュレーナさんを起こすことにした。
扉を開けベッドに近づく。
「シュレーナさん、もう出発するので起きてください」
「……ん」
「シュレーナさん!」
布団をめくりどうにか起こそうとする。
「シュレーナさん、起きてください」
何度も呼びかけても起きる気配がない。
声を出して返事をしているようにも思えるがきっと夢の中で誰かと会話でもしているのだろう。
これは仕方ないと心の中で唱えながらシュレーナさんの体を揺さぶり再び起こそうとしたがやはり起きない。
なんだか僕みたいだな。
母さんはこんな面倒くさいことをしていたのか。
感謝、感謝。
とその時、あることを思い出した。
昔の僕は今よりももっと声をかけられても起きなかった時代に母さんがよく頭に手を置いて撫でながら声をかけてくれると目を覚ましていた。
理屈はよくわからないが試してみる価値はありそうだ。
そーっとシュレーナさんの頭の上に手を起き撫でようとしたその時、僕の手首を優しく握られた。
シュレーナさんはこちらを見つめてきていた。
「あっ、いや、これは違いますから。昔母さんにこうやって起こされてたなぁと思ったので実践してみたんですが……」
「……クレイくん、おはよ」
「お、おはようございます。もう出発するみたいなので、下に行きましょう」
「……うん」
まぁ、なんとかなったからセーフだろう。
ひとまず僕も荷物を下に持って降りるとしよう。
僕は先に荷物を持ちながら下に降りることに、その間シュレーナさんは色々と準備をしていた。
少しして荷物を持ったシュレーナさんが降りてくる。
「二人とも早く行こうよ!」
「こら、そんなに急かさないの」
「大丈夫ですよ。行きましょう」
僕がそういうとリリーシャさんは扉を開けて家を飛び出した。
それに続いて僕やシュレーナさんにミナさんもついていく。
外で馬車の準備を既にラルスさんがやっていてくれた。
「ラルスさん、ありがとうございます!」
「これくらいはするさ。クレイ、任せたからな」
「はい!」
僕とラルスさんが話している間、シュレーナさんとリリーシャさんは荷台に色々と荷物を詰め込んでいた。
「なんだい、ずいぶん歳の離れた後輩に慰められたのかい?」
「母さんには関係ないだろ」
「大ありだ。息子が悩んでいるというのに心配しない親なんていないよ。でも少しは解決したみたいで安心したよ」
「……それも全部クレイのおかげだ」
「わしにしてはいい男を連れてきたと思うね。クレイ、暇があったらオルス村に帰るついでにここにも寄ってくれると嬉しいね」
「わかりました。また来ます!」
そう言って僕は馬車の荷台に荷物を起き操作席まで向かい座った。
「では行ってきます!」
「いってらっしゃい」
「リリーシャ、絶対帰って来るんだぞ!」
「そうよ! 変な男にも捕まらないように!」
三人はリリーシャさんに向かってそう声をかけた。
「……全く、父さん達ったら」
リリーシャさんは何だか嬉しそうな顔をして呟いた。
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