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異類異形

  2117年12月────アリゾレッド連邦 ミステピッド市  夜


 地下一階。コンクリートで囲まれた日当たりのない部屋。

 その空間に鉄のシングルベッド、一人用のガラス机と銀の椅子が置かれている。

 過疎的な部屋で椅子に一人の壮年。名はレヴィ。

 屍を彷彿とさせるほどの真っ白な皮膚を持つ。骨張った手には血管が浮き出ていた。

 彼は消炭色をしたスウェット服を上下に(まと)っている。大きめのサイズである長袖長ズボンは楽にくつろぐための格好だ。

 眼球は明らかに人間とは言い難く、十字の瞳孔を持つ。人でないよう見えるが人外とも形容し難いほど人間に近い彼。

 レヴィの右手にはカップが一つ。中には湯気が立ち込める紅茶が注がれている。

 取っ手に指を通さず、親指、人差し指、中指の三本で摘むように持った。

 息を数回、穏やかに吹き、冷ましていく。

 ゴクリ。一口喉へ流し込む。

 優しくカップをソーサーへ置いた。

「それで、警察官様が何用で?」

 希少な低い美声。彼の声は不規則性と規則性が調和した心地よい声だった。

 レヴィは目線を前へと移す。


 机を隔て、ネルアは警戒している。彼は警察官だ。台形型の制帽を被り、制服の胸元には国の紋章がある。

 ネルアはレヴィを鋭く睨んでいた。眉間には怒りを示す皺。自身の黒い眼で注意深く凝視している。

 彼はこの過疎的な家を訪れてからの数分、レヴィから目を離さなかった。

 銃口をむけたまま。


挿絵(By みてみん)


「貴様のような非登録の混血は行動の自由が認められていない! 国の意思に反する混血は即座に捕獲対象だ!」

 ネルアは汗ばんだ手で拳銃を強く握り、カチャリと音を鳴らせた。勿論、セーフティは降りている。

「速やかに署へのご同行を」

 ネルアは構えたまま近づく。銃口がレヴィの額へ着きそうなほど。

「貴様の情報は上がっている!! 両手を上に掲げ、直ちにこの国への『正しき』忠誠を!!」

 ネルアは言葉を叫び散らかす。声量は脅迫ともなる怒声の勢い。

「貴様の場合、人外ではなく人間のフリをして溶け込んでいるつもりだろうがそれももう終わりだ!」

 レヴィは慌てふためくことなく落ち着いたままだ。悠然に平静でネルアを見ていた。

 二人の緊張感の差は明らかな程。ネルアの怒りと戸惑いは増すばかり。

「何も演技をして世を渡り歩いてない。混血への法は暗黙としてしか定められていないのが現状だ」

「混血が歩行する区域も目的も、この国では管理の対象だ!!」

 『混血』─────ネルアはレヴィに対してその言葉を何度も使う。

 ネルアは分かりやすく混血を差別する。理由は人種によるもの。世界には大きく分けて二種類の人族の存在がある。

 

 一つは人間。

 もう一つは人外。

 

 人間。ヒト科の哺乳類。四肢の内の二足を直立させて歩行し、生物的な老化の概念を持つ人種。

 人外。ヒト科の哺乳類、もしくは非哺乳類。獣人や亜人、精神を宿した無機物の人型等、人間以外の形容で人間と同じ言語で意思疎通が可能な人種。一定の発育期間を過ぎれば生物個体としての変化が停止する特徴を持ち、老化の概念を持たない。

 

 二種は違った異型で地球人としての人権を共通に持つ。何隔てなく共存をする。

 互いに感情を持ち、脳の発達状況に差はない。


 そして混血。

 混血とは『人間 × 人外』で運悪くこの世に生み出された生物。

 双方の異種交配によって誕生した姿はどちらにもなり得ない奇形児として誕生をする。その見た目は様々。

 

 混血は『どこか』で『なにか』が食い違うように見た目や内部に大きく現れる。双方にしか存在しない内臓がぐちゃぐちゃと入り乱れたり、人間にも人外にも見られない狂わしい臓器の誕生など。

 臓器過多により必要臓器が圧迫され、呼吸ができずに死亡の例。呼吸器官が生命的に足らず、一瞬にして死亡の例。


 彼らは寿命が短い。口や目、四肢の数が複数、はたまた合体されて一つだったり。足から手が生えたり、眼球から角や舌が緩い粘膜と共に伸びたり。生成された状態が不規則というのが大体である。

 混血の誕生にメリットはない。時代を通して、どの国でもその事実を理解している。

 人間は人間同士での交配を。

 人外は人外同士での交配を。

 それが世界の暗黙としての基準である。


 では何故誕生するか。答えは下らない見解。

 単純なる興味本位からの実践によって生み出された一瞬の快楽での負の万物。

 親となるろくでもない人間と取るに足らない人外。誕生を理解してしまった生殖側は二択を選ぶ。自身の中にいる混血を吐物として捨てるか、死へ流させるか。

 選択の結果、世界の暗黙を破って誕生し、自我を確立させた混血本人は地獄が待ち受ける。隠蔽、殺害、廃棄、材料のどれかの餌食の未来が待つ。

 これらが混血としての紛れもない定め。

 『可哀想』が常識で当たり前の定め。

 ネルアは混血に対し不満を述べる。

「どちらとも取れない化物が知らぬ顔で町中を彷徨くなど、おぞましく、不愉快で反吐が出る」

 彼は立て続けに誹謗を続けた。

 異種を動物で例えると答えは単純である。

 動物と人間が入り交じり、よく分かりえない混ぜ合わされた変怪な生物。それがフラフラと街を歩いていたら即座に通報がかかるだろう。

 それは人外からしても同様。

 これがアリゾレッド連邦での共通認識だ。


 しかし、『混血』は法的処置が難しい。直感で混血と判断する脳とは引き換えに元を辿れば権限のある二種からの誕生なのだ。 

 アリゾレッド連邦の混血への処置はこう。『飼う』こと。世話を見てやる、差し伸べてやる、役目を与えてやる、これがこの国の遂行だと。


(…………でも、この混血は何だ?)

 ネルアは疑問を浮かべる。アリゾレッドで育ち、今まで見て捕らえてきた混血とは明らかに違う。

 恐ろしいほどの美しさ。高貴な男性。

 これがネルアからのレヴィの印象。


 普段、廃棄され拙く息をする混血を警察の名のもとに確保する。連行に会話などあるわけがない。今まで見てきた混血とは印象が合致しない。

 混血の大きさは様々だ。しかし、精神面を見れば大抵成長仕切っていない。戸籍もなければ、種族としての権限もない。

 混血で生き残るのは軍に育てられ、脳を教育された後に前線で生贄となる一兵卒くらい。

(混血にしては成長しすぎている。見た目は二十代後半 …………いや、もっと上だろうか)

 あらゆる謎がネルアの脳をぐるぐると舞う。

 見紛うことのない違和を持つ壮年。見た目は青年だ。彼からの空気感こそが疑念の増幅の種であった。

(いいや、これはただ焦っているだけだ)

 ネルアは自信を心へ唱える。大きく息を吸い、震えた息を吐く。状況整理のための深呼吸である。

 不安定な過呼吸とも見られる呼吸にネルア自身は無理矢理にでも息を飲む。それは乱れをリセットするための応急処置に過ぎない。

「貴様のような混血に認識も意思も必要ない。安寧は終わりだ」

 ネルアはさらに近づいた。

 レヴィの黒い前髪に銃口が当たる。

 ネルアは『確実』が欲しかった。

 完璧なる確実を。

(この距離なら間違いは起きない)


 レヴィの額。引き金は絞られ────────

 

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