7.変化
「おらぁ!!」
ひろとは、ナイフを横なぎに振り廻した。
「くっそ、当たんねえ!」
鶏蛇がぎょっぴいいいいいい!!と叫びながら、飛びかかる。
股間を狙って、噛みつこうとするのをすんでのところでかわした。
(やっぱり、かならず股間を狙って攻撃してくる・・・一体何なんだ・・・)
「股間を狙ってくるなら・・・こうすればっ!」
ひろとは、股間の前にナイフを掲げた。
何を隠そう、高校時代はフェンシング部に所属しており、剣技には少しは覚えがある。
鶏蛇がじりじりと近づいてくる。
鶏蛇の動きに合わせ、ひろともじりじりと前進していく。
「どこを攻撃してくるかがわかれば、攻撃を当てるのは容易いはず!さあ、来い!」
鶏蛇が突進してくる。
「んほぉおおお」
鶏蛇の突進にあわせて、渾身の突きを繰り出す。
ぶしゃあああ
ナイフが、鶏蛇の頭部をとらえると、しばらく痙攣した後崩れ落ちた。
「はぁはぁ・・やってやったぜ・・・」
しばらく休憩して、荒れた息遣いを整える。
「こいつらいつも茂みから出てくるけど、奥に巣でもあるんか?」
鶏蛇の死体を道に置いたまま、鶏蛇が出てきた茂みをかき分けて奥をのぞき込んだ。
すると、地面の上に直径80cmほどの草を積み重ねて作った巣があった。
「中に何かあるな・・・」
巣の中を見ると、卵と小さな瓶が転がっていた。
鶏の卵と同じ大きさ、色の卵が2つと5cm程度のガラスの瓶でコルクの蓋が取り付けてある。
巣の中から、瓶を拾い上げる。
「傷も割れもなさそうだし使えそうだな。何かに使えるかもしれんから拾っておこう」
ひろとは、瓶をポケットに入れた。
「卵ももらっていくか・・・」
卵を手に持ち、茂みをかき分け、元の道に戻る。
そのまま、鶏蛇の死体を引きずりながら『泉の部屋』に戻ることにした。
ここに来て3日目。今日までに『森』を探索してわかったこと。
扉のある場所から、道が一本50mほど伸びており、そこから道が左、前、右の3方に分岐している。
それぞれの道を50mほど歩いてみたが、曲がりくねった道が続いていた。
50mほどの最初の一本道は、鶏蛇が生息しており時折、左右の茂みから飛び出してくる。
そこまで歩く速度も速くなく、好戦的でもないため、出現しても、すぐに逃げれば無駄に戦闘せずにすむことが多い。
また、リンゴ桃と亀頭瓜と名付けた果物がなった木が群生しており食用できる。
道の脇の茂みに鶏蛇の巣があり、小瓶と卵が手に入った。
頭の中で、手に入れた情報を整理しながら、『泉の部屋』に戻る扉に入る。
「ふう、ただいま」
『泉の部屋』に戻り、鶏蛇の死体と卵を食料置き場に置く。
『森』で採取した大きな葉っぱを敷き詰めて、食料置き場を作ってある。
「さて、顔でもあらいますか?・・・ん?」
一人寂しく独り言を言いながら、泉の方へ顔を向けると、ある変化に気づく。
「石・・・???」
泉の脇に、墓石のような灰色で縦長の直方体形状の石が鎮座していた。
高さは1m程度。縦横は30cm程度の大きさで上面がつるつると光沢のある大理石のような質感になっている。
「なんだこれ・・・罠?・・・それとも?・・・」
しばらく逡巡した末、石の上面にそっと人差し指を当ててみた。
ブンッ
指を当てた瞬間、石の上面が光り、文字が浮き出してきた。
『あなたは25人目の挑戦者です』
『レベル2達成おめでとうございます』
「あひっ!!なにこれぇ?」
石が光った瞬間、ビクッと痙攣しながら後ずさる。
ここ最近ひどい目に遭い続けたせいで、かなりビビり散らかしているひろと。
「なになに、『25人目の挑戦者?』、『レベル2達成?』」
25人目というのは、今までここに25人の人が来たということか?
ということは、拾ったナイフや瓶は他の挑戦者が残したものなのだろうか?
それともう一つ、レベル2ってなんだ?ゲームじゃねえんだぞ?
いや、誰かにデスゲームみたいにここに閉じ込められてるってことも考えられるか・・・
他に情報がないかと、石の上面を触ってみると、また別の文字が浮き出てきた。
「おっ!別の文がでてきたわ」
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登戸博人 30歳 素人童貞
体力 20
魔力 5
攻撃力 6
防御力 6
すばやさ 5
剣技レベル 1
女神の加護(股間)
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「素人童貞ちゃうわ!!彼女おったわ!在日ブラジル人に寝取られて・・ふられたけど!!!」
ひろとが抗議すると、画面が修正された。
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登戸博人 30歳
体力 20
魔力 5
攻撃力 6
防御力 6
すばやさ 5
剣技レベル 1
女神の加護(股間)
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「なんだ、誰か盗聴してんのか?ここがどこで一体どういう状況なのかおしえてくれや!」
叫んでみたが、一切反応がない・・・
「くそっ、まあええわ、誰かが自分を監視してることはわかった!」
反応があるかと期待したが、『素人童貞』が消えた以外の反応がないので、あきらめた。
「・・で、なにこのRPGゲームみたいなのは?馬鹿にしてんのか?」
「剣技ってのはフェンシングやってたからこんな記載があるんか?」
疑問ばかりが浮かぶが、全くわからないことだらけだ。
「・・っていうか、女神の加護(股間)ってなんだよ!」
謎の生物に股間を狙われているのと、何か関係があるのだろうか?
「まあええわ、他に何かないんか?」
ひろとは、ナイフを地面に置いて、石の画面をぺたぺたと触ってみるが、画面は切り替わったりはしなかった。
「ん?あれ攻撃力が下がってる?・・・」
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登戸博人 30歳
体力 20
魔力 5
攻撃力 5
防御力 6
すばやさ 5
剣技レベル 1
女神の加護(股間)
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「あっ!ナイフか!?」
ナイフを拾い上げると攻撃力が6に戻った。
なるほど身に着けているものによっても数字がかわるのね。
「ということは・・・・
ひろとは、おもむろに服を脱ぎだした・・・
全裸になり、カッコいいポーズを決めると、石の画面を確認する。
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登戸博人 30歳
体力 20
魔力 5
攻撃力 6
防御力 5
すばやさ 5
剣技レベル 1
女神の加護(股間)
露出狂
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「おっ!防御力が5に下がった!なるほどね・・・って露出狂ってなんやねん!!!」
「おい消せや!おい!」「消せいうてるやろ!」「消してくださいお願いします!」
叫び続けるが、露出狂の表示は頑として消えてくれない。
「・・・はあ、まあええか、飯でも食って寝よ寝よ」
鶏蛇をさばいて、果物と一緒に焼いて食事をとった。
捌く時間も、前回より短くなった。やればできるもんやな。
「はあ、今日もつかれたわー・・・」
そんなこんなで、3日目の夜も更けていったのであった・・・・