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35.戦闘開始

突如現れた赤い扉が、軋む音をたてながら開いた。

古い木製の扉の外は、真っ暗闇でどうなっているのかは、全く見えない。


「どうする?扉の外に出る前に一度みんなのスキルとかを確認しとく?」

半裸騎士山本が問いかける。


「うーん、向こうで魔物と戦いながら自分の戦い方やスキルを使って見せればよいんじゃね?」

ひろとが答えると、うんうんと皆がうなずいた。


「じゃあ、とりあえずレッツゴーですな!」

キャナーメちゃんがそう言うと、我先にと扉の向こうへと入っていった。


ひろともそれに続いて入っていくと、扉を抜けた瞬間、さわやかな風がふわっと鼻をくすぐった。

視界が開けると、一面緑の草原が広がっている。

くるぶしのちょっと上くらいの高さの背の低い草が生い茂っており、ポツポツと高さ数mの低木が散在している。

草原の奥には、森に囲まれた小高い丘があり、塔のようなものが見える。

足元を見ると、きちんと整備された石畳の道路が敷かれており、それが草原の真ん中を貫くように、塔の方まで伸びている。


「気持ち良い風やなぁ・・、魔物退治じゃなくてピクニックで来たいところやな」

ひろとは、大きく背伸びをしながら外の新鮮な空気を取り込むと、そうつぶやいた。


「確かにそうね・・・、今回はあの丘の上の塔まで行って、ボスを倒せって試練かしらね?」

魔法熟女田中が遠くの塔を見ながら、皆に問いかける。


「きっとそうでしょうな!あの塔のデザインはおそらく『しこしこの塔』か『びんびんの塔』だとおもいますぞ!」

キャナーメちゃんがハイテンションで答えた。


「『しこしこの塔』ならボスは『魔人オチン・ポックス』、『びんびんの塔』のボスなら『魔人オチン・ポロリン』、適正レベルは4人パーティで17~18ってところか・・・」

半裸騎士山本があごに手をやりながら、さらに答えた。


「私と山本くんは、適正レベルが+10でレベル27~8ってとこね。まずは塔に向けて進みながらレベルをあげつつ、途中休憩する拠点を見つけましょう」


『おちぴよ』のゲームの情報を元に試練の内容を推測しているようだが、ひろとにはまったくわからない内容だった。


「なあ、『魔人』ってなんなん?」

ひろとは、手をあげ質問する。


「『魔人』というのは、『大魔王ゲキオチ』の眷属の中でもひときわ強力な魔物のことで、簡単に言うと各試練のボスクラスの魔物が『魔人』なんですぞ」

キャナーメちゃんが笑顔で答えてくれた。


「じゃあ俺が、以前の試練で戦った杖を二つ持ったウサギの魔法使いも『魔人』ってことか?」


「そうですね。その魔人は『オチン・ポロリーノ』ですな!適正レベルはソロで15ですので、レベル12で戦って勝ったということは、登戸ちゃんなかなかの手練れですな!ゲーム知識がないのにそれだけやれるのはたいしたもんですぞ!」


「そうなのか・・・」

ゲーム知識が無いので、いまいちわからない部分が多いが、この世界の仕組みの一端が知れた気分だ。


その後、パーティの登録をステータス画面で行い、石畳の道沿いを歩きつつ、魔物を探してレベル上げをすることになった。


ひろとは、背中に背負っていた熊さんのデザインの盾を手に持ち、リュックから取り出したウサギ耳のカチューシャを身に着け、スクール水着に貼りついたゼッケンをピシッと張ってしわを伸ばし、いつでも戦闘に入れるように準備して皆の後をついていった。

ひろとのやばすぎる格好に、田中と山本は化け物を見るような目で見てきたが、気にしないことにした。


「ん?」

ひろとは、風邪で草のこすれる音の中からかすかな違和感を感じ、立ちどまった。

違和感を感じる方に振り向くと、20m程度離れた、3m程度の低木の陰から、ウサギ顔がこちらをじっと見つめているのを発見した。うさ耳カチューシャの聴力アップの効果だ。


「おい、あの木の陰にウサギ顔がかくれてるで」

ひろとが小声で皆に話しかける。


「お!本当だ」

半裸騎士山本がウサギ顔を確認して、剣の柄に手を掛けて抜こうとする。


「待って、私がやるわ。この距離からなら一方的に攻撃できる」

魔法熟女田中が、杖を前に出して皆を制した。


皆が何も言わないのを同意と受け取ると、杖をきゅっと握りしめ、ウサギ顔に向かって掲げた。

「風の玉!」

田中が叫ぶと、杖の先の宝石が緑色に光りだし、緑の光を放つ玉が射出され、同時に突風が一瞬だけ周囲に吹き荒れた。


射出された玉はウサギ顔に向けた一直線に飛んでいき、慌てて逃げようとしたウサギ顔に直撃した。


「もう1回!風の玉!」

魔法玉が当たり、うずくまったウサギ顔に追い打ちでもう一発魔法を打ち込む。


ウサギ顔は、2度目の魔法を受け、そのまま後ろにのけぞるように倒れ、そのまま動かなくなった。


「すげえ!これだけ戦えるなら魔法熟女の固有スキルとかなんていらないんじゃ・・・?」

ひろとが興奮した面持ちで、感心しながら問いかけた。


「今のは、魔法職なら共通で使える通常魔法で、使ったのは風の初級魔法よ。火と氷と風と雷と土の5種があって、中級・上級・極級とどんどん強力になっていくわ。けど、魔法熟女の服装をしていれば、ステータスアップの恩恵で威力がもっと上がるし、固有スキルである強力な魔法が使えるのよ」


「なるほどなあ・・・そういうもんなんか・・・あれ?消えた?」

ひろとは、田中の説明を聞きながら、ふとウサギ顔が倒れた方向に視線を向けたところ、ウサギ顔が忽然と消えているのに気付いた。

「なんか魔物って倒した後、消えたり消えなかったりするのなんでなん?」


「ああそれね、『魔王ゲキオチ』の眷属の魔物は倒されると消える、それ以外は消えないって感じみたいだね」

半裸騎士山本が教えてくれた。

ゲームではすべての魔物は倒すと消えるのだが、なぜこの世界では、そのように違いがあるのかはわからないということだった。


「なるほど。だから蛇の生えた鳥は消えずに食べることができたんだな」

「はあ?あれ食べたの!?」

ひろとが、頷きながら言うと、田中がびっくりした様子で叫んだ。


「へえ・・、味はおいしいの?」

山本が苦笑いしながら聞いてくる。


「普通にうまい鶏肉やったで!」

「なるほど!それは一回私もたべてみたいですぞ!」

ひろとが感想を口にすると、キャナーメちゃんが賛同してくれた。


キャナーメちゃんやさしいな・・・。


「!!来たわよ・・・」

田中が草原の方から近づいてくる魔物に気付き、声を発した。

今度は人型の魔物ではなく、赤毛のイノシシ型の魔物だ。


「じゃあ、次は自分がやりますよ」

半裸騎士山本が、剣を抜き放ちながら魔物に向かってゆっくりと向かっていった。

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