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06

 現在、公爵家の立て直し中。

 マイナスばかりもたらしていた使用人たちは全員解雇済み。

 王家と他家のスパイの使用人は下働きへ回している。

 辞めないのなら、まぁ必要な時に情報を掴ませて使うつもり。


 私は聖女として魔法を使えることを隠さない方針。

 辞めた使用人やら何やらから徐々に広まっていくでしょうけど、信じられるかは未知数。


 公爵家は、母の無駄使いと加えて治療費が浮いて、また父への無駄使いも節約できたので財政的な苦しさが薄らいだ。

 問題のある使用人たちも居なくなったことで、手は少ないものの善良な使用人たちだけになり働きやすさは上がっているはず。

 待遇も引き上げたからね。


 また死にかけだった母の容態は、寝たきりであるものの回復傾向にある。

 もう少し時間を掛けて治療した後は、使用人たちに頼み、寝たままの身体の運動を指示するわ。

 筋力の衰えは良くないからね。


 地下牢に居る父は、だんだんとそこでの暮らしに慣れてきたらしい。

 渋々だろうけど。人間は慣れる生き物よ。

 そして魔道具を通して、真実の愛を感じていた浮気相手と娘の様子を日々、観察している。


 浮気相手の女と妹は、とある子爵家の男と婚姻していた。

 お早いことで。


 子爵家と言うが、領地は持っていない。上位貴族に仕えるタイプの法衣貴族ね。

 つまり彼女らの実家である伯爵家に仕えている子爵に嫁がせたの。

 伯爵家自体は、あの女の兄が継いでいる。

 厄介払いをしたそうだけど、まだ公爵家乗っ取りの夢が忘れられないようで、微妙な扱いになっている。


 事前調査をせずに通達したから分からなかったけど、父の愛人として過ごしていた日々の方が豊かだったようだ。

 毎日のように不満たらたらで子爵の男は辟易している。

 ……私の前世も女だったという朧げな記憶があるけど。


 あれは、なんていうか男に何一つメリットがない結婚だからでしょうね。

 浮気相手・妹は共に美しい部類に入る。

 そういう女が手に入るなら男としてはまぁ、と呑み込めなくはないはず。

 でも、彼女は夜を共にしないどころか子爵を小間使いとして見ているから……。


 うーん。

 この映像を見ても父は嫌がらないと思うわ。

 特に他の男に股を開いたわけでもなし。

 まだ取返しがつくと考えるでしょう。


 私は別に父と浮気相手を殊更に引き裂きたいわけではない。

 そういうのは母の気持ちだ。

 そして、母の気持ちを叶えるべきかと言うとあんまりそうは思えない。

 最初から破綻していた関係だったから。

 それでも私は生まれてきてしまったの。勘弁して欲しいわよね。



「まぁ父があの女を選ぶと言うのなら仕方ないわね。それまでに伯爵家の実家に圧を掛けられる公爵家を取り戻しておきますか」


 母の納得など知ったことじゃない。

 その恋心も知ったことではない。


 とはいえ、浮気相手と妹の性根はアレなので、やっぱり手を打っておくべきね。

 他責思考の人間たちだ。

 常に誰かのせいにして生きている。

 その考えが根付く前に矯正するにはどうすればいいかしら。


 妹も12歳。矯正は早い方が彼女のためだろう。

 本質的な部分がどうにもならないとしても、腹黒い人間だけならば、どこにでも居る。

 どうしようもないほどに手を付けられない自己中になり、周囲に被害をばら撒くようになってからでは遅い。

 『物語』を知る私にとって、アレらを他人に任せて躾けても、被害が増えるだけと予想が……。

 せめてあの母親とは引き離しておくべきかしら。


 『子供に罪はない』というのは、幻想の戯言だと思う。

 お題目としては掲げなければいけない綺麗事だ。

 性根が腐っている人間はどうしても居る。

 母親と引き離して、とにかく自分の手でどうにかしなければならない状況にするか……。



 私の婚約者である第二王子エドワールは見た目を変えられ、本名も王子も名乗れず、誰にも命令できず、使用人のエドとして公爵家で下働きをさせている。


 体罰を許してはいるが、残ったのは善良な使用人たちだ。

 私のようにボコボコと彼の頭を殴ったりはしない。

 飴と鞭で言えば私が鞭を担い、使用人たちが飴を担う関係。

 エドワールについては長期的に躾け直していくことにする。




 公爵家の立て直しは、屋敷の方では不穏分子の排除と出費を抑えたことにより悪化を防いだ。

 領地運営の方は滞っていた案件の承認と予算配分により動き始めたところ。

 近々、視察に向かう必要がある。


 婚約者のエドワールに呼び出されたり、王妃教育に使う私の無駄な時間がなくなった。

 余計なことしかしない父は地下牢、母は寝たまま。

 ひとまず浮気相手と妹は公爵家から遠ざかるように事態を静観中、それを私は監視継続。



 そういう状態で日々が過ぎていく。

 私の知る母の命日、死亡時期が近付いていった。


「…………」


 第一王子、カイエン殿下は現在15歳。

 だが、離宮に追いやられているらしい。何故そうなっているのか。


 仕事をしながら王宮、離宮の調査を進めていく。

 聞き込みをしたのじゃないけれど。

 成績など優秀みたい。その段階で、王太子にすべきなのはどちらかは明白。

 それなのに何故か。病弱という話は聞いたことがない。

 まぁ、今までの私が知っているはずもないのだけれど。


「…………」


 『目』がその人物にまで行き着いた瞬間。私は理解した。

 第一王子カイエン・ラグホルン殿下。

 王と王妃からの扱いが悪く、離宮に押し込められている。

 病弱なのではない。彼は虐待されている。私と同じように。

 何が理由かは知らないけれど。


「……そう」


 『物語』には描かれなかった。この国は愚王たちの手によって衰退していき、暗い未来しか示されていなかった。

 私は『転移』によって、離宮へと飛んだわ。


「貴方。カイエン・ラグホルン殿下かしら?」

「えっ」


 王子だというのに一人ぼっち。

 周囲に使用人どころか護衛すらも居ない。

 痩せた姿で病弱というよりも、食事が出来ていないことが見て取れる。

 年齢は15歳だったはずだけど、もっと幼く見えるのはそのせい。


「き、キミ……は?」

「はじめまして。私、トリリアン・ロット公爵令嬢と申しますわ」

「ロット……公爵家の?」

「ええ。第二王子エドワール殿下の、形式上の婚約者ですわね。

 将来的にはその婚約は解消する予定ですので、女公爵となる予定ですわ」

「えっ……ええ?」


 驚きはあるものの、リアクションが薄い。

 反応するエネルギーがないと言っていいわ。


「失礼。──解析(アナリシス)

「わっ」


 彼の健康を調べる。母は本当に病であり、衰弱していた。

 でも彼の場合は。


「毒を盛られていますわね。貴方」

「え」


 また彼がカイエン・ラグホルンであることは間違いないみたい。

 調べたところ蓄積するタイプの毒を盛られている。


 毒殺したいのに特に監視を入れてないってどういうことかしらね。

 ま、いいわ。


「あなた、私の屋敷へ来なさいな。腐っているけど弟の方も居るわよ」


 私はカイエン殿下の手を取り、加えて内面からの治癒を掛ける。

 外傷などを癒す魔法ではなく、母のような身体の活力を取り戻す魔法。


 魔法でも治療できるが、食事などの自己管理の方が将来的にはいい。


 解析した彼の『コピー』ゴーレムを形成し、この場に残す。

 監視と記録をさせるわ。


 ゴーレムを身代わりにして、カイエン殿下は転移で公爵邸へと連れ去った。


「わっ……、え、え?」


 まだ理解できていない殿下には上等なベッドを用意して、さらに治癒。

 身体の免疫機能などの回復をしていく。


「こ、ここ……は? え、僕は」

「ここはロット公爵家の屋敷ですわ。私は今、公爵代理を務めております。

 お飾りではない、本物の聖女なので転移が使えてよかったわ。

 カイエン殿下。今から貴方の治療を開始します。身体に蓄積した毒を抜くのは時間が掛かりますので一旦、眠っておいてくださいませ」


 そして私は彼を魔法で眠らせたの。

 さぁ、毒の治療の開始だわ。


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