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 父の身なりを清潔にしている間、私は寝たままの母の部屋に居た。


「お母様。これが貴方が寝ている間に私が起こした記憶ですわ。さて、貴方はどうお考えになりますか?」


 相手の頭に情報を刻みつける魔法があるのなら当然、夢の中にも同じ事。

 病の治療の間、夢を見るのは逆に苦しいだろうと深い深い眠りにつかせていた。

 その眠りを浅くし、彼女の中の情報整理に費やさせる。


「ロット公爵家の仕事ならば、私がこなせますわ。

 屋敷の使用人と、領民たちに徒に負担を掛ける事もなく」


 父を痛めつけてやった記憶も、彼の醜態も。

 浮気相手と妹が決別したことも。

 母に見させる。


「父にはこれから貴方の看病をさせます。ご安心くださいな。

 お母様の身体には保護魔法を掛けてありますし、食事も毒の心配は要りません。

 貴方は無事に、生きて目を覚ませますわ」



 精神とは健康状態に左右される。

 逆もまた然り。

 母は公爵令嬢らしく傲慢で我儘だった。

 恋心に暴走して父の運命を狂わせただろう。

 だが、仕事はしていた。

 病で倒れるまで、きちんと公爵として仕事をしていたのだ。


「……わたくし。お母様の頑張った部分を褒めて差し上げますわ。如何に傲慢で我儘であろうと、貴方は『ロット公爵』でありました。

 それと別に『少女』の部分の抑え方を知らなかったのね?

 相手がまともな男性であったなら、こうはならなかったでしょうに」


 母に足りなかったものは何か。

 その傲慢を通せないと道理を言える近い誰かの存在。

 エドワールと同じく持つ権力が『高過ぎ』た。

 諌められない傲慢の結果がこれだ。


 そして男女の人生経験が足りない。

 結婚するまでは良くない男に惹かれるものだ。

 そして結婚した後で気付く。どうしてこんな男と、なんて。

 男を見る目がないくせにウブな初恋に盲目になる。

 それは楽しい人生だろう。相手の内面が腐ってさえいなければハッピーエンドだ。



 父の愛人とその子供を知っていながら、憎しみを募らせるだけで手は出さなかったわね? お母様。

 そして無念の死を遂げるまで。

 恨みながらであろうとも彼女らを潰しはしなかった。

 それだけの権力と身分はあっただろうに。


 そこに貴方の罪悪感がありまして?

 貴方が引き裂いた愛だと知っているから。


「ふ……」


 これが貴方に課す罰であり、褒美よ。

 父、カルロスは貴方の元へ帰ってくる。

 あちらの2人に見捨てられたから。

 貴方の看病をさせるわ。

 きっと彼はこう思うの。


 『この女なら俺を愛しているから、これからも美味しい思いを出来るだろう』ってね。


 彼をあのままにしておけば、貴方は幸せになれない。

 そして幸せになれない原因は貴方の精神にある。


 愛しているなら突き放して見せなさい?

 駆け引きを覚えるの。

 ロット公爵家は私が守ってあげるわ。

 かつての貴方より自由に資金は使えないけど。

 毎月の予算はきちんと組んであげる。


 それを使ってカルロスとの駆け引きをしてなさいな。

 引くことを覚えてちょうだいね?

 屋敷に行けば趣味も充実させなさい。


 別に二度と王都や、社交界に出るななんて言わないわよ?

 貴方は療養で領地に向かうのだから。


 しばらく、数年。

 領地で父を『飼い慣らす』ことを覚えてちょうだい。

 慎ましさを覚え、また健康な身体になってね。

 飼い慣らした父を連れて、健康的で美しくなったお母様は、また社交界に出てくるの。


 私の魔法頼りになってはダメよ?

 病気から回復した後、貴方の努力によって健康と美しさを獲得するの。


 その時になったら私がロット公爵家の立て直しを行い、他家に舐められない家門にしているからね? ふふ。



 ああ。浮気相手は捨ておいてちょうだい。

 報復したいなら、貴方がより煌びやかな姿になる事。

 愛など、その男に求めても仕方ないのよ?

 必要なのは調教。その男に自身の立場をわからせなさい。



「…………」


 母に心構えと、現状を伝え、父への対応を伝授する。

 母の護衛かつ諌め役、さらに武力担当としての『ゴーレム』を作ってあげるわ。

 黒猫型がいいかしらね? ロット家の家宝クラスの宝石を『核』にした特注品。


 物語の中では『母の形見』として妹に奪われるはずだったものを使う。

 様々な状況に合わせた『命令』を入力し、擬似的な魂を発生させる。


 ええ。しばらく父に母の看病をさせ、黒猫ゴーレムに母の護衛と父の監視もさせるの。



 妹には、あの毒親と引き離す工作をしている。

 傲慢な性格の矯正には、どうしても痛い目に遭わせる必要があるでしょう。

 彼女に将来性がある。

 見た目は美しく育つのだから。

 腹黒いことは身を守るために必要なこと。


 痛い目に遭わせて、何もかもが自身の思い通りになるワケではないことを学ばせる。

 努力が嫌いでも、しなければならないように。

 他責思考がこれ以上、育たぬよう。


 そうねぇ。野宿でもさせる?

 『魔の森』を弄って、サバイバルさせるの。

 周りの誰にも頼れず、自分一人の責任で生きることを余儀なくさせたり。

 サポート用に本を用意しておくのよ。


 文字だけは、きちんと覚えさせましょうか。

 そして夜な夜な夢の中で『文字の書けない女は』とか。

 『見た目だけの〜』とか。

 空想上の美形男子にひたすらこき下ろさせて自尊心を砕いていく。

 傲慢さが鳴りを潜めれば、ただの腹黒い美少女の出来上がりよ。

 物語とは違い、幸せが掴めるのではなくて?

 ああ、ややこしくなるからエドワールには私の顔立ちに似た妹の顔もトラウマになるように仕込んでおこう。

 彼はリーベル家のコマとして生きていくのだもの。



 浮気相手の女は……そうね。

 父がアレだから問題だけど。

 母が手を出さなかった場合に得たであろう身分くらいで踏みとどまらせる。

 伯爵家に妻に厄介になれるかなれないか、ね。

 不自由さに妥協できるまで付き合いましょうか。



 どちらも殺しはしない。

 殺すとすれば……将来の我が夫を毒殺しようとしていた侯爵家と、無能な国王夫妻ね。


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