(16) お嬢様は半分半分
イルメナイトとルチルを5粒。鉄、銅、コバルトを4粒。金と銀を3粒。アルミニウム、ニッケル、亜鉛、マンガンなどを1〜2粒。
食事のたびに、そのくらいの量を食べるようになりました。
もちろん調理場からもらってきた普通の食事も食べています。
十日くらいすると、体にやや肉がついてきました。真っ白だった肌の色も少し血色がよくなったみたいです。そして時々、手先や足先あたりがぴくりと動くようになりました。食事の時に抱き起こす体の重みも増して、骨格がしっかりしてきた感じがします。骸骨っぽさはだいぶなくなってきました。
「ん」とだけ苦しそうに洩れていた声も、「あ〜」とか「う〜」とか意志を伝えようとしているようです。
もっと欲しい時は「あ〜」、食べたくない時は「ん〜」、いやいやながら食べる時には「う〜」という感じです。
普通の食事はだいたい「う〜」と言うので、あまり好きではないみたいです。
「もっと肉や野菜をたくさん食べて肉をつけないとダメですよ」
「これでも頑張ってるみたいよ」
「でも金属粒のほうが好きみたいですね」
「体に足りないものを金属で補充してるような気がするわ」
「まあ、それが栄養代わりになるのならいいんですけど……ちょっと心配になってしまいます」
「今のところ体に変調もないみたいだし、このまま様子をみましょう」
そんな会話をしながら食事をさせていると
「……あ……る……」
そう声が聞こえました。
頭に直接伝わってくる半透明のお嬢様の声ではなく、耳から入ってくる声です。
「今、ぼくの名前を呼びましたよね!」
「ええ、そう聞こえたわ」
「お嬢様、アルです。わかりますか?」
「ア……ル」
「はい」
「ア、ル」
声のとおりに口が動いています。
「はい、アルです!」
「う、ん」
「わたしは、わたしよ。いえ、わたしは、あなたよ」
「わか、る」
「ああ、しゃべれるようになったんですね。よかった……」
指が、震えながら微かに持ち上がりました。それを下から支えるようにそっと握ります。
「もう、ひとつ、ほ、しい」
「どれがいいですか? 金? 銀? ルチル?」
「イ、ル……」
「イルメナイトですね。はい、どうぞ」
口の中に入れてあげると、舌で転がすように味わっています。表情も安らかに思えます。そのままそっと寝かせてあげました。
「無理せず、少しずつ良くなりましょうね」
「わたしのことも分かっているのね」
「そうですね。お嬢様がふたりいるみたいです」
「魂はひとつのはずなのに……おかしいわね」
くすりと笑う口調で、靄のお嬢様が言います。
「まあ、もともとお嬢様は不思議だらけですから」
「そうよね」
「自分がふたりいるという感じですか?」
「そうでもないわね。体も意識も、半分一緒、半分別々というところかしら」
「へ〜」
「こうして一体化すると、意識も溶け合う感じね」
と靄の半身を横たえて体に重ねます。
「自由に起き上がれるんですよね?」
「ええ、ほら」
「あ、そう言えば最近はあんまりぶらぶら揺れてないですよね」
「なんだかもう下半身は抜け出せない気がしてきたわ」
「そうなんですか。じゃあもう死のうとしないんですね?」
「死にたいわ。死んで無になってしまいたいのは変わらないわよ。でもその方法が分からないだけ」
「……そうですか。でもまあ、僕は僕にできることをするじかないですけどね」
「アルがそうしたいなら好きにして。邪魔するつもりもないわ」
「はい」
そんな会話をしている間にも、お嬢様の口はもぐもぐと舌で味わっています。それが微笑ましくて、ついまた一粒口に入れてあげました。




