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(15) 見知らぬ金属、それはチタン


 持ち帰った鉱石を寝台の横に並べます。今までのクズ石より五倍くらい大きいものが二十個くらいありました。まだ削り出していないのでゴツゴツしています。


「やっぱり金や銀はあまりなかったですね」

「でも、かなりエネルギーを感じるわ」


 そう言って、靄の手で撫でます。その手にはちゃんと五本の指があって関節のように曲がるようです。


「休んでいる間に体の感覚がだいぶん分かるようになってきたわ」

「それはよかった……のかな? で、痛みはどうです?」

「まったく消えたわけじゃないみたい。じわじわと痛んだり、時々ピキーンとした痛みが走るような感じ」

「どのあたりが?」

「全身、あちこちね。特に肘、膝、肩、足の付け根あたり」

「やはり関節が痛むんでしょうか」

「そこに食べた金属がしみ込むと痛みがなくなるの」

「え!? しみ込んじゃうんですか?」

「ええ。なぜか痛むところに動かせるみたいなのよ、この体」

「食べた金属を?」

「そうなの。無意識でやってるのかも知れないけど」

「へ〜。……ということは、骨の病気なんでしょうか?」

「そうかも知れないわね。なんだか骨が脆くてスカスカしていて、そこに金属をしみ込ませているみたい」

「じゃあ、もっと食べれば骨が強くなって回復する?」

「さあ、どうかしら。でもまだまだ足りない感じ」

「それなら、これも細かくして食べさせてあげますね。あ、こっちのはどうでしょう? コバルトとかイルメナイトなんですけど」

「あら、よさそうね。このコバルトっていうのはすごくピリピリしてるわ。こっちはイルメナイトっていうの? ツーンとした刺激があるのね」

「じゃ、さっそく食べられるようにすり潰してみます」


 そうして昨夜と同じように、蔵の入り口の敷石の上で鉱石を砕いては金属だけを取り出します。

 ただコバルトとイルメナイトは、砕いてもあまり細かくならず、うまく母岩から分離できません。


 やがて夜が白みはじめたので、できた分だけ皿に分けて蔵の中に入れてから、調理場に朝の手伝いに行きました。

 朝食をもらって帰ってくると、まずお嬢様のおしめを取り換えます。今日はおしっこがたくさん出たようで、シーツまで湿っていました。おまたをきれいに拭いて、新しい布をおしめにして、シーツも交換します。汚れたおしめとシーツをいったん蔵の外に出してから、朝食を食べさせます。

 煎り卵やソーセージよりも金属を食べたいようですが、ちゃんと食べ物も採って欲しいので、金属はそのあとにします。

 卵やソーセージも、前より大きめでも食べられるようになりました。でもまだ噛むことができません。スープといっしょに飲み込んでもらいます。


「食べ物の味は分かるようになりましたか?」

「ううん、分からないみたい」

「金属は味がするんですよね」

「そうなの。種類によって味が違うみたい」

「まあそれでも食べ物もちゃんと食べないと体に肉がつきませんからね。頑張って食べてください」

「そうすると、まただんだん死ねなくなっちゃうわね」

「え〜、まだ死にたいんですか?」

「そうよ。死にたいというか、生きたくないのよね」

「せっかく体の感覚も戻ってきたのに?」

「だから、よ。生きてたって痛いだけなんだもの。だから体の感覚から抜け出すために魂になったのに」

「体の感覚が戻ってきたら魂は戻らないんですか?」

「とりあえず戻ってないみたいね。そうそう、もう少しで体も動かせそうよ」

「えっ、そうですか! じゃあもっと食べて力を出さないと」

「金属もお願いね。なんだかそっちの方が力になるみたいだし」

「じゃあ、あとこれだけ。それから金属にしましょう」

「わかったわ」


 三口ほど食べ物を食べさせてから、金属です。

 昨日のように指に付けて舐めるよりも、薬のように飲ませる方がいいのではと思いつきました。

 小さな紙片に粉末状にすり潰した金属を乗せ、小さく開いた口に入れます。そして水を飲ませて流し込もうと思ったら、ケホッとせてしまいました。これではうまくいかないようです。

 今度は金属粉を水に混ぜて飲ませてみます。こくんと喉を通りましたが、少し表情が曇っているような感じ。


「あれ、だめですか?」

「味が薄まって、いやみたい。それに、そんなに水ばかり飲めないわ」

「そうですか……。じゃあどうすれば?」

「やっぱり指に付けて舐めさせた方がいいんじゃない?」


 結局、指をしゃぶる方法がいいみたいで、赤ちゃんのようにチュパチュパと僕の指をしゃぶり満足そうです。

 金、銀、銅、プラチナ、アルミニウムなどを昨日の倍くらい食べてしまいました。


「こんなに食べちゃって大丈夫でしょうか?」

「いまのところ具合が悪くなってる感じはしないわ。ちゃんと体に染み渡って、どんどんエネルギーになってるみたいよ」

「ならいいんですが……」

「コバルトとイルメナイトだったかしら? それも食べてみたいわ」

「これ、うまく取り出せなかったんですよ」

「とりあえず口に入れてみてくれる?」

「はい」

「うっ、なんか変なのが混じってる」

「やっぱり。これはやめておきましょう」

「じゃりじゃりしなければ美味しそうなのに……」


 ちょっと惜しそうですが、しょうがありません。


「朝はこれくらいにしておきましょう。しばらく休んで体の調子を見てください」


 それから自分の朝食を食べて、一眠りすることにしました。


 すっかり寝入ってしまい、あわてて外に出てみるとお昼を過ぎたくらいでした。

 蔵の入り口には、朝に取り換えたシーツやおしめがそのまま置きっぱなしでした。陽のあるうちに洗濯して干さなければなりません。


 井戸から水を汲んできて桶に溜め、汚れたシーツとおしめをけようと持ち上げた時、ごろりと鉱石が転がり出てきました。敷石の上にまだ砕いていない鉱石が置いてあって、そこにおしめを被せてしまっていたようです。

 そのおしめを見ると、なにかがこびりついていました。ちょうどおしっこが染みたあたりに、溶けた金属のような……。

 転がった鉱石は、イルメナイトでした。えぐれたような穴が開いていました。そこから溶け出た金属がおしめに広がったみたいです。

 おしめに薄くこびりついた金属を剥がしてみます。金属にしてはずいぶん軽く感じます。水で洗ってみると銀色に輝き、表面は滑らかで、アルミニウムに似た感じですが、薄いのに割れたり曲がったりしません。どうも僕の知らない金属のようです。


 高温の炉で熱しても溶けないと言われるイルメナイトが、なぜこうなったのか……。もしかすると尿の中のなにかに反応して溶けるのかも?

 そう思って自分でもおしっこを布にしみ込ませて、そこにイルメナイトを置いてみました。特になにも起こりません。しばらく放置してみます。シーツの洗濯が終わっても変化はありません。やはりおしっこではないのかも。


 とりあえずその金属片をお嬢様に見せてみます。といっても、見えないのですが。


「イルメナイトがこんなものになりましたよ」

「あら、なにかしら」


 もやの手で触れると


「これ、いいわね。食べさせられる?」

「このままじゃムリですね。舐めるだけなら味は感じるかも知れません」

「じゃあ、やってみて」


 自分でも臭ったり舐めてみたりしましたが、おしっこの匂いもしないし、かすかに苦いくらいでほとんど味もしませんでした。

 お嬢様の舌にそっと触れさせてみます。


「うん、これ好きみたい。じゃりじゃりしないし、金や銀くらい美味しいわ」

「そうですか。でもすごく硬くて細かくならないので、食べさせられないんですよね……」

「どうやって取り出したの?」

「それが、よくわからないんです。おしめで溶けたような……」

「おしめ? おしっこで溶ける金属なの?」

「さあ、そんなの聞いたことがないですけど」

「また同じようにやってみればいいのじゃない?」

「そうですね。またおしっこが出たら試してみましょうか」


 そして次の日、また取り換えたおしめでイルメナイトを包んでおいたところ、金属が溶け出していました。

 ぼくのおしっこでは何度やってもダメです。どうもお嬢様のおしっこは特殊なのかも知れません。匂いもしませんし。


 おしめをぎゅっと絞って桶に溜め、そこにイルメナイトを入れてみました。すると見る間に金属が溶け出します。それを桶から取り出すとすぐに固まって硬くなります。おしっこの中では半固体のままなので、自在に形を変えられます。空気に触れると固まるようです。

 そこで、指先で小さな粒に丸めてから取り出すことにしました。こうすると飲み込むこともできそうです。

 ほかの石ではどうだろうと思ってやってみると、なんと、ほとんどの鉱石で金属部分が溶けてきれいに分離することができました。丸めて粒にすることもできます。

 砕いてすり潰すよりも簡単で、しかも純度が高く、好きな形に加工もできる。これはもしかすると大発見かも知れません。

 ただお嬢様のおしっこでしかできないし、そのおしっこも毎日少しずつしか出ないのが難点ですが。


 ともかく、毎晩せっせと精練場の周りで鉱石を拾い集めて、いろんな金属の粒を作り貯めることにしました。


誤字脱字、おかしなところ、つじつまが合ってないところなど、いろいろ指摘していただけるとありがたいです。

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