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(1) お嬢様は白い影

書き始めました。

目に留めていただけたら幸いです。


【あらすじ】(予定)


隔離され、死ぬのを待つばかりのミーアお嬢様。

そのお世話を命じられた孤児のアルは、誰も分からなかった奇病の原因を探り当てる。

けれども盲目のお嬢様の望みは、死んで無になること。

なんでもいいから生きる希望を見つけようと、二人は行き当たりばったりの旅に出る。

ミーアの奇病ゆえの特殊な能力と、アルのあまり役に立たない地味な能力が、知らず知らずのうちに人を助けたり助けられたり。

異世界を舞台にした、ほんわかほのぼのした物語。

になればいいな。


 初めてミーアお嬢様に会ったのは、僕が十歳の春の終わりの頃でした。


 領主館のメイド長さんに連れていかれたのは、敷地の端にある古い蔵。

「ミーアお嬢様はこの中にお住まいなので、お世話をするように」

 それだけ言われ、蔵の鍵を渡されました。メイド長さんは少し怯えるように腕をさすり、逃げるように足早に引き返して行きました。

 病気のためご家族と離れて暮らしているとは聞いていましたが、蔵の前にひとり残されて戸惑いました。具体的に何をしろとも命じられていません。

 ぼんやりと突っ立っているわけにも行かないので、とりあえず鍵を開けて、分厚い扉の中を覗いてみます。ほとんど光が入らない薄暗い蔵の中には、大小の木箱が雑多に積み上げられているようで、誰かが住んでいるような気配が全くありません。

 恐る恐る中に足を踏み入れてみると、ほこりっぽい澱んだ空気の中にツンとえた匂いが混じっています。

 そろそろと足を進めながら、小さな声で呼びかけてみます。

「あ、あの〜、どなたかいらっしゃいますか〜」

 何の返事もありません。

 もしもし〜、お嬢さま〜、こんにちは〜、などとつぶやきながら、じわじわと進んでみます。奥に行くほど暗くなる中、目を凝らすと、突き当たりの右側に階段があるようです。階段は五段ほどで、中二階に続いていました。

 階段の途中に蝋燭ろうそくとマッチが置いてあったので、火を灯してみます。わずかな周囲だけがぼうっと照らされ、その奥の暗さがいっそう濃くなった気がします。

 蝋燭を立てた皿を手に、階段を上ると、一段ずつギシッギシッとたわんで音を立てます。

 中二階に上がってみると、そこに柵のようなものが浮かび上がりました。いえ、柵というには太い角材が並んだ、おりのような囲いです。そしてその奥には、寝台がうすぼんやりと見えました。

 まさか、こんな場所に領主のお嬢様が?

 あわてて柵にしがみつくようにかけ寄り、声を掛けてみます。

「お嬢様ですか? そこにいらっしゃるのですか?」

 しばらく待っても返事はなく、蝋燭の明りが揺れる寝台がもぞりと動くこともありません。そして人の気配さえないようです。

 ここにいるのじゃないのかな? そう思って階段に戻ろうとした瞬間、寝台の上がかすかにゆらりと光ったとうに思えました。

 ぼんやりとしたほのかな光。光というよりも白い影。それがゆらゆらと揺れながら、ゆっくりと起き上がる。人の上半身のように。

 その輪郭は、曖昧あいまいに闇に溶け込んでいました。

 僕は、金縛りにあったみたいに息を止めて見つめるしか出来きません。


「……まだ、死んでない、のね……」


 聞き取れないくらいの小さな声が聞こえました。声というよりも、ため息のよう。

「お、お嬢様、ですか?」

 思わず問いかけた僕の声に、その薄く白い影はぴくりと静止して、ますます消え入りそうになります。それを引き止めるように、さらに言葉を続けます。

「あ、あの、はじめまして、アルと申します。今日からお嬢様のお世話を言い付かりました。どうぞよろしくお願いいたします」

 一歩下がって片膝を付き頭を垂れます。でも何の反応もありません。ちらりと目を上げてみると、檻の向こうにかすかな白い影が闇に透けているばかりでした。


 しんとした時間が続き、いたたまれなくなって、また言葉を重ねます。


「な、なにかお望みがありましたら、なんなりと申し付けください。ぼくに出来ることはあんまりないですけど、精いっぱい努めさせていただきますので……」


 また沈黙の時間が続き、しょうがなく引き下がろうかと思った時、やっとささやくような声が届きました。


「……ア、ル?」

「は、はい」

「……それ……あなた……なまえ?」

「はい、そうです」

「…………」


 とぎれとぎれ、間延びした、片言のようなしゃべり方。絞り出すような、かすれた小さな声。病で声を出すのも苦しいのかも知れない。


「あっ、水! そうだ、水をお持ちします!」


 返事も待たずに階段を下りて蔵を出ると、草が伸び放題の小道を母屋まで走りました。

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