46.腸が煮えくりかえる思い
「エルフェイなんて、珍しいでしょう!」
コイツは、何を言っているんだ。
「躍りは、あっという間にマスターしました」
彼女が見せた踊りがフラッシュバックする。
素敵な妖艶な踊りだったが、彼女は、どんな思いで踊っていたのだろう。
「笑顔は未だぎこちないですが、コレは賢いので、これから飼い慣らしていけますでしょう」
飼いならす……だと。
村長はベラベラと話を進める。どうやら、俺の顔色がすこぶる悪いことに気がついていないようだ。
「あ、ほら、『育てる楽しみ』というのもございますよ! ランジェ様のお望みのかたちに育てることが出来ます!」
ふざ、けるな。
葉を食いしばり、拳を強く握る。次『何か』されたときには、体が動いてしまうかもしれない。
「もちろんご要望がございましたら、『夜伽の仕方』も躾けることも……」
「……!!」
「お待ちください」
俺が声と手をあげる直前に、彼女が仲介に入ってくれた。
トモエさんだ。
なにげに、トッシュも立ち上がり俺の横に立ってくれていた。静かに肩に手を置かれ、しかし強く握ってくれてた。半分、無理矢理にでも押さえつけんばかりの強さだったが、逆にその痛さが、俺を冷静にさせてくれた。
「村長、もしかして、我々の作物の種の、購入費の代わりになどど考えておりませんよね」
一連の話を横で聞いていたトモエさんが、口を挟んだ。
「お……おお……ええ、と……」
すると、村長の挙動が不審になった。横についていた楽団リーダー……いや、奴隷商人も、顔をしかめた。
どうやら図星だったらしい。
人──今回はエルフェイか──を、お金代わりに、種の対価として払うつもりだったということか。それも、最初からそのつもりだったということ。
そもそも、エルフェイなんて珍しい人を『どうやって』『仕入れてきた』。
まともなルートなど、そもそも有るわけがない。
自分自身が半年前、奴隷として売られそうになった経験もあるのも重なり、それを思うと、さらに怒りがこみ上げる。
「村長、残念ながら当家ヴャリヤーズ領では、奴隷制度は廃止されてます」
トモエさんの口からヴャリヤーズの名前が出て、俺はハッとした。
そうだった、ヴャリヤーズ領は奴隷が廃止されているんだった。
一昔前までは一部合法だったらしいが、勇者の生まれ故郷に奴隷制度があること自体、ふさわしくない! と、親父の代で完全廃止に進んだとのこと。
親父、案外真面目なところあるじゃん。勇者オタクなだけかもしれないが。
「な、なんですと!! それでは……!」
「ええ、そもそも、奴隷を使った売買契約自体が不可能です。お引き取りを」
「くそっつ! 折角仕入れてきたのによ!」
金にならないと分かるな否や、商人と村長がエルフェイの踊り子を乱暴に扱い始めた。
「きゃあっ!!」
「くそ! くそ!」
鎖を引かれ、前のめりに転倒した奴隷を、商人が踏みつけたのだ。
「おぃ……!!」
(ランジェ様。ここは抑えて下さい)
今度はトッシュに止められた。肩に乗った手ががっちりと俺の行動を制した。
(トッシュ! 離せ!!)
(いけません。奴隷は所有者のモノ。所有者の使い方に、我々は口を挟めません)
彼は元雇われ傭兵として、色々な国を渡り歩いてきたのだという。その彼だからこそ文化の違いにも理解があるのか。
「くそっ!」
今度は商人が、腰に携えていた短鞭を振りかざし、踊り子に叩きつけた。乾いた音が大広間に響く。
「ですので、種子の価格は適正なお値段にて、取引いたします」
「それでは……いやしかし……」
「痛いっ! 痛いっ!」
「ちっ! 愛想笑いも出来ない、踊りと珍種ってだけの奴隷がよ!」
トモエさんも、所有者以外が奴隷に手を差し伸べることが出来ないことを理解しているのだろう。表情を曇らせることなく、村長との交渉を行ってくれていた。
一方、鞭で叩かれたことが相当の痛みだったのか、奴隷が声を荒げた。しかし商人は鞭を止めること無く、叩き続ける。
(我慢です、ランジェ様)
肩に置かれた手に、更に力が籠もったことがわかった。俺が飛び出して、奴隷を助けると思ったのだろう。
半分正解だ。我慢などできる訳がない。腸が煮えくりかえる思いだ。
しかし、トッシュ。君は大きなミスを犯した。押さえるべき場所はこの場合、肩ではなく、口だ。
「村長!」
「……! ランジェ様、いけません! ヴャリヤーズ領主として、奴隷廃止法を犯すわけにはいきません!」
村長とトモエさんの会話に、大きな声で割って入っていったが、更に大きな声でトモエさんが止めに来た。さすがトモエさん、俺が、何を言おうとしていたのか瞬時に理解したらしい。
けど、ゴメンなトモエさん。俺の腹積もりはもう、決まっていたんだ。
「金品の授受がなければよいのだろう? だったら、彼女と種で、物々交換だ……それに彼女は、当家のメイドとして雇う。奴隷を買ったんじゃない。あくまで『雇用』……っと。これでどうかな、トモエさん?」




