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14.想定外

「ゴブリンの群れだ! もう村の前まで来てる! あとは頼んだそ冒険者!」


 夜の見張りをしていた村人が、血相を変えて納屋に飛び込んできた。


「……早くね?」

 昨日の今日でいきなりの襲撃かい。

 まあ、対応できるようには準備はしていたけど、心の準備はまだだよね。


「いいねぇ! ザ・冒険者って感じ! いくぜクウ、ナツ!」

「う、うん!」

「は〜い、頑張りますぅ!」


 勝手に盛り上がり(いき)り立つファンダと、それに答えるクウとナツ。

 ……ナツさん? 貴方は俺の従者でしょうに。


「ほらほら、ランジェも! 気合が足らねぇぞ!」

「お、おう……」


 結局俺も、彼女の勢いに押される格好となった。



 ***



 納屋の中央に果物を配置し、それを炎の術で炙る。ついでに香りの強い香草も添えておこう。すると、甘い香りとスパイシーな匂いが混ざり、納屋の中に漂い始めた


「クウさん、お願いします」

「はい。……擽れ(Swolbe)疾風(Zeerba)……エアロブリーズっ」


 クウの両手から、風が生じた。ちょっと強めな扇風機くらいで、果物を炙る炎はギリギリ消えないレベルである。

 その風に乗って、匂いは納屋の外に流れていった。そのまま、ゴブリンが見つかったと報告を受けた茂みの方角に向かっていった。


「微調整、うまいですね」

 風の術は、加減が難しい。俺も風術は扱えるが、発せられる強風は、炎や果物を吹き飛ばしてしまい、強さを控えることが出来なかった。


 俺は、クウを持ち上げたつもりだった。風と炎を使えると聞いていたから、彼の得意な術だと思ったからだ。しかし、クウの回答は俺の意に反していた。


「……これが、ボクの最大出力です」

 彼は申し訳無さそうに、そして、恥ずかしそうにうつむきながら答えた。


「あっ、ごめん……」

 そして俺の口からとっさに出たのは、謝罪の言葉であった。


「魔法を覚えようと頑張ったんですけど、なかなか上手く出来なくて……でも、いつか扱えるようになると信じてます」

「なるほどね。……ん? じゃあ今まではどうやって……?」

「あ、基本はボクも、樫の杖でボコスカ殴ってます」


 左様でございますか。

 俺はこの時改めて、『人は見た目で判断してはいけない』ことを学んだ。


 ファンダが脳筋前衛で、クウが後衛と思い込んでいた。実際は彼も相当な脳筋キャラだ。


 これは相当、先が思いやられるパーティだな。



 ***



「こんなもんかな、あとは、作戦通りに!!」

「おう!」


 匂いは十分に漂っていっただろう。俺たちは納屋の両端へ散った。

 俺とナツは立て掛けた平板の影に。

 ファンダとクウは、残っていた干し草を被り、身を潜めた。


(……来た)


 甘く芳醇な匂いにつられ、俺の思惑通りにゴブリンたちがやってきた。

 あの廃墟で見た時のように、何体かは武器を握りしめていた。


(……? 多くね?)


 村人からは、5、6体と聞いていたはずだったが、今の時点で、納屋には10体、いや、其れ以上の数のゴブリンが入り込んできたのだ。


(匂いが他のも呼び寄せちゃったかな? ……けど、やることは一緒だ!)


 俺は、ゴブリンたちが果物に群がったタイミングを見計らって、昼寝花に命じた。


(さあ……開花宣言──咲き誇れ!)


 炙った果物の近くに植えられたそれは、ちょうどゴブリンたちの足元で花開いた。

 ポンッ! ポンッ! と、小気味良い破裂音と共に開花し、同時に、特有な色の花粉をゴブリンたちに浴びせたのだった。


(さあ、お休みの時間だ……あれ?)


 だが俺の意に反して、奴らは動きを止めなかった。確かに花は咲き、花粉が降りかかったのだが、ゴブリンは目が血走り、とても興奮した様子だ。


(寝ない……! くそ、どういうことだ?!)


 花粉の放出が収まった頃には果物は全て齧られていた。しかしゴブリンは眠ることなく、目を真っ赤に、口からよだれを滴たらしながら、辺りを見回していた。


「……これは危険です、ランジェ様」

 ナツが俺に耳打ちした。彼女の経験則が、現状に警鐘を鳴らしたのだろう。


「ああ。一旦退こう、ファンダたちに合図を……」

 俺みたいな素人目にも、あのゴブリンの集団は明らかに異常だった。

 そのことを、向かい側で身を隠すファンダたちに伝えようとした刹那。


「なーっはっはっはっ!」


 彼女の高笑いが納屋に響いた。


「とうっ!!」


 ガサリと、干し草の塊から飛びだすファンダ。

 近くの足場に飛び乗り、謎のポーズをとっていた。


「月夜に眠るゴブリン共……今宵、その眠りは永遠になる……」


 ばっ! ばっ! と、大きく立ち振舞い、決めポーズ。

 その度に、身体に纏わりついた藁が舞っていた。正直カッコ悪い。


「貴様らに引導を渡す我が名は、ファンダレン! 勇者ファンダとは……アタシのことだぁっ……て、あれ?」


 一通りの口上を終えたファンダは、事の重大さに気づいたようだ。

 多分彼女は、夢の中に誘われたゴブリンたちが目下に広がっているものと思っていたのだろう。


 それとは裏腹に。真っ赤に染まった狂気の瞳たちが、ファンダを一点に捉えていた。


「……えー。なるほど。つまりは……老い先短い人生でした……。

『我が御身 叶わぬ夢追い 露と消え 芳醇なる香 手向けにならん』……」


 あのバカ、狂ったゴブリンに囲まれていることに気づいて、人生諦めて辞世の句を(したた)め始めやがった! 


 意外にも教養が有ることにビックリだよ!! 


「このバカやろう! ゴブリン共! こっちだっ!!!」


 こちらも、わざと大声で叫びながら飛び出した。大きな音でゴブリンの気を引くためだ。ナツも俺の咄嗟の行動に合わせて、追従してくれた。


 杜撰な行動ではあったが、効果は十分だ。

 完全に府抜けたファンダに向いていたゴブリンの目線の多くを、こちらに向けさせることに成功した。


「ファンダ! クウ! 外に逃げるぞ! 火攻めだ!」


 作戦変更を彼女たちに伝えながら、俺たちは出口に向かった。


「はいっ! ──ほらファンダ! 気をしっかり!」

「ほへ?」


 呆けたファンダの手を、クウが思いっきり引っ張り、同じく出口に向かっていった。


 出口で奴らを迎え撃ち、納屋に火を放ち焼き殺す。

 ゴブリンが寝なかったのは想定外だったが、致し方無い。


 しかしその案は頓挫することになる。


「──?」


 出口に人がいたのだ。

 村人とは違う、パッと見、異質な人間だった。

 暗めの外套を纏ったソイツは、仮面を身に付けていたのだ。

 ……女か? その仮面からは、口元が露になっており、真っ赤な唇が印象に残った。


 そして、手には松明を握っていた。


(なん……だ?)


 現状を理解するのに、ワンテンポ遅れてしまった。既にソイツは、俺たちが用意していた藁に火を放っていたのだ。そして炎は、納屋の入り口を焼き始めていた。


「……! おい、なにを……!」

炎走るは(Nurerif)早々(Ecnad)舞踊(Ssarge)木は灰(Tuodenrub)に期せ(Saheerteht)……ブッシュフレイム」


 その仮面女は呪文を詠唱し、発動させた。すると火力が急激に増し、納屋の柱や壁に取り付き、一気に炎が走っていった。


 その炎はまるで、大蛇のごとく。


 瞬く間に納屋を包み込み、俺たちを閉じ込めたのだった。



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