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時告鳥

作者: もりかぜ

優男が目の前でお嬢様の愛を叫んでいる。

まだまだ回りは暗いというのに元気に叫んでいる。


毎朝の事なので、おらっちも、相方も面倒そうに見ていた。


此処は伯爵様のお屋敷。

の正門前だ。

おらっちは、伯爵様の兵士でここの門番をしている。

一介の門番であるおらっちには、どういう経緯でこうなったのかは知らない。

けれども、どこぞの侯爵家の夜会帰りから、

変な二人がお嬢様を口説こうと画策しているようだ。


時告鳥が鳴く。

優男は悔しそうに帰って行った。


どうやら、優男のターンは、日の出の少し前から、時告鳥が鳴くまでらしい。


「やーっと終わったなー。」

「おわったなー。」

「相変わらず、何の捻りもない愛の叫びだったな。」

「うんだなー。あれじゃー、千年の恋も冷めるべな。」

なんて、相方と話をするくらい毎晩だ。


「顔は良いのに、勿体ない。」

「顔は良くても、心に響かな、女子はなびかんよ」

「ほうかー・・・」

「ほうよ!」

アレに叩き起こされた口なのか、下級メイドの子も来て会話に参加する。


「じゃあ、脈なしか」

「ないな」

「ないねー」


ほうかー。

可哀想に


§


ここ、アークラント王国の女性は、高貴な方は勿論、村娘や町娘問わず

皆見目麗しいことで有名だ。


そのためか、他国から女目当てに攻め込んできたり、攫いにきたりと昔からトラブルが絶えないという。

それに怒り心頭なのが男親だ。

何故女親じゃないのか?

それは、娘を護ろうと女親が出てくると一緒に攫われてしまうからだ。

そんな訳で男親が2人?を護ることになる。

そうなると、どうしても過保護になる。


親の過保護が進めば、今度は婚期を逃すことになる。

なので、男性陣は、いかに男親の監視を掻い潜り

女親の支援を受け、女性を口説けるか・・が勝負になるのだった。


そんな訳で、変な二人の話に戻る。

うちは、最北端に位置し、結構広めの領地を持つ伯爵家、ミルクセックマック伯爵(グラッフ)

そこのお嬢様は、多分に漏れず・・・いやそれ以上に麗しい方だ。

まあ、門から出る馬車からチラリと見える程度しか見えてないけれども。


メイドさんたちの噂によれば

1人は、この国の侯爵の三男で

もう1人は、隣国の公爵の次男だそう。

滅多に出ない夜会で見染められて、どちらがお嬢様を手に入れるか

口説き勝負になったそうな。


とはいえ、

伯爵様がお嬢様の対象にと考えておられるなら

きっとあんな所では叫んでないのだろう。


そして結果は・・

まあ、推して知るべし

伯爵様もお嬢様も大変だ。


そんな訳でおらっちは今日も今日とて門の見張りだ。

正門を護るのはおらっちこと一番隊サイモンを筆頭に

相棒のウモン

2番隊のアモン、カイモン

3番隊のトウモン、キモン

あと、予備隊のクモン

の7名だ。

この7名が交代しながら24時間きっちりと門を護っている。

今週は一番隊が夜勤なので、これから3番隊と交代する予定だ。

夜もすっかり更けた頃に、屯所を出る。

もうすっかり真っ暗だ。月明りでうっすらと見える道を進んでいく。


屯所から正門までは、伯爵様達が住んでいる部屋の下を通る。

まあ、何時もカーテンが閉まっててミエナイんだけどな。


折角だからと見廻りがてら確認してると、

えっちらおっちらと近くの城壁を超えて来ようとしている人影があった。


支給されている弓と槍を改めて握りしめて、近くへと向かう。

・・・かげもん(不審者)か?かげもん(不審者)にしては身なりが綺麗そうだなぁ。


ヨクヨク見ると、ロープを垂らして降りようとしている。

しょうがないので弓を構えて、矢をつがえてロープを狙う。

まあ、落ちても死にゃあせんと思って

矢をひょういと射る。

いのもん()に比べれば動かん分狙いやすい。


「あいたた・・」

「動かんたん!どこもん?」

「っ!無礼者め!ダイフーク侯爵(フュルスト)3男と知っての狼藉か!

 ミルセーキ辺境伯(マルクグラーフ)令嬢との恋慕に邪魔をする気か!」

「ああん?ダイフック侯爵(フルスト)

 ああ。夕暮れから沈むまで担当のぼん(坊ちゃん)じゃねーか。

 ダメダヨ。伯爵様んち勝手に入ったら。

 大体な。ここはミルセックマック伯爵(グラッフ)だぁ。

 ミルセーッキ?とやらは此処じゃないべや。

 お嬢様狙いながらも他も相手しとんとは、

 いやはや。みたらしもん(浮気者)

「いや!違う!あ、こら、縛るな!っく。こらー!」

「はいはい。後は伯爵様に任せるべな。げんこったれ(動くな)

そういって、ぴゅぃーっと警笛を情けないで鳴らすと

数名のお偉いさんが来た。

その後、伯爵様もいらっしゃったんで

「伯爵様。城壁超えてきたかげもん(不審者)を捕えやした。

 侯爵(フルスト)言うてる。夕暮れ担当の時付鳥の一羽だす。

 たかもんさ(貴族様)捕えゆうで、罰は覚悟しとりやす。」

と頭垂れて伝えると

かげもん(不審者)を捕えるも、門護るもおぬしの仕事だ。

 ようやたいうても、かみなり喰わす(叱り飛ばす)事はない。

 |たかもんみあいてさ《貴族の相手は貴族でする》

 仕事に戻ってよい。」

そういって、伯爵様はぼん(坊ちゃん)を連れて去っていった。

お偉方も連れて。


おらっちはほっとして、改めて正門へと向かった。


§


あの後は、結構大変だった。


まず、お嬢様からお礼の手紙(?)を頂いた。

読めなかったので持ってきてくれた侍女さんに読んで貰った。

内容?

なんかすっごく難しくて形式ばってて難しかった。

そんなおらっちに侍女さんは、お礼のお手紙ですよって教えてくれた。


次に、伯爵様から騎士にならんかって言われた。


いうてもな、騎士になっても税金は払えんし

従者とかも分からん田舎もんなもんで御辞退願った。

代わりに、感謝状をお願いしたら

そんなんで良いの?って顔されたけど了承して頂いた。


兵士であるおらっち達は、命令書でも褒賞書でも

部隊名で書かれる。

おらっちの所属している部隊はラビスというこの土地特有の蝶の名だ。

ラビスっていう蝶は、中々シブトイ上に、しつこい。

幼虫も生き残るし蝶になっても死ににくいっちゅう嫌らしい虫なんだが

敵にとってのラビスになるべっちゅんで部隊名になった。


なんで、おらっちたちは、自分の名前とこのラビスって名前、伯爵様の名前くらいが読める程度なんだ。

命令書の内容とかは隊長である、パリセドさんに読んで貰えるからな。


そんな部隊名が書かれる場所に、自分の名前が書かれたら

さらに伯爵様の名前もあったら

そりゃあ、皆に自慢できるっちゅーもんだ。


実際、酒の場でこの感謝状見せたら、皆に羨ましがられた。

おらっちの名前が書かれた書類なんざ、

それも伯爵様が書いてくれた書類はこれ1枚だもんな。

それはもう、大事な大事な宝もんよ。


それだけでも十分だちゅうに

読み書きができん事を知った伯爵様は、

おらっち達に読み書きと算術を教えてくれることになった。

まあ、業務外の朝。数時間だけだが。

領主様の末子であらせられる、トマス様と一緒に学ぶだ。

トマス様は4歳だというに、もう読み書きを習ってるのだから

なんというか、貴族様は凄いなぁ・・・。


§


夕暮れから沈むまで担当のぼん(坊ちゃん)が捕まって5日くらい経過した今でも

朝焼け前から時告鳥が鳴くまで担当の優男は、

ライバルが居なくなったちゅうて元気に叫んでいる。


でもなぁ。なんちゅうか。

通り一辺倒な上に詰らない告白をしてるんだ。

他国の人だからか、どうかは知らないけど、心に響かないのだ。


とかいうても、おらっちは学がある訳でも、詩に才能がある訳でもないので

じゃあどうしたら?と言われても分からない。


お嬢様はというと、夕暮れから沈むまで担当が居なくなったからか、朝から夕方まで出かける事が多くなった。

門から出来る時に、馬車から軽く顔を出して、労ってくれる。

労わってくれりゅう事はおらっち達もちこういる(頑張れる)

ちこうれる(頑張れる)ようにしてくれりゅう方をあんな

無味無臭の告白してくるちゅー優男は

メイドさんも騎士さんもわしら門護るもんもありゃーなぁちゅうなる。


だからおらっち、時告鳥が鳴くちょい前にいうてやった。

「なあ、そちのたかもん(貴族様)

 惚れただの愛を受け取ってくれだの。

 |なにほうけんぬかってるん《呆けた事をぬかしているんだ》

 そんなもん。口説きに来てるんやし。わかちゅーて。」

いきなりだったからか、優男はほけーっとこっちみぃった。



「学も詩の能もないおらっちとて、口説く歌くらいは自前するっ。

 下手は下手なりに、心を思いを乗せんと伝わらん。

 『貴女の髪は時を止め、

  貴女の瞳は身を止め、

  貴女の微笑みは心を止める。

  貴女に時を捧げよう。かねるために

  貴女に身を捧げよう。護るために

  貴女に心を捧げよう。癒すために

  貴女は知らず、刻まれん。

  貴女は語らず、清まれん。

  貴女は動かず、動かれん。

  ただ、一房の思いがあれば、それに我が願いを紡ぎ、共の語りを。』

 」

それを言いえたら、時告鳥が鳴きようた。

優男は何か言いたそうにしておったが

なーんも言わずにさっちょった(帰っていった)


優男が見えんようになったら、ウモンがぷはっと笑いよって

「ほんに、下手な歌じゃな。下手じゃなぁ」

と抜かした。

「下手じゃというたじゃろ。」

「ほんにな。でも、歌が上手いだけんやつは女の心を掴むん難しいそうじゃ」

「ほーん。じゃったら下手でよかった」

「ほんにのう。」


§


んで、その日の朝。

お嬢様から手紙を頂いた。

それも本人から直接だ。

よーわからんうちに、よーわからんが

ぽっと赤らめたお嬢様は、そりゃーそりゃーめんこってめんこって


それから、優男はこなくなっちゅーこった。


おいらはどうなったかって?

そりゃ、きっと、時告鳥が導いてくりゃってくりゃって・・・・



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