ろくでもないのは前世のせい?
セックスの快楽にはまって抜け出せない男は、まだ救いようがある。俺は、自分のふけっているものが女なのかセックスなのか、はたまた逃亡なのかもわからない。こんな男に対応してくれる相談窓口なんて、この世のどこにもないだろう。
浮気が止まらない男の彼女の相談に乗るやつはいても、浮気が止まらない男の相談に乗ってくれるやつなどいないだろう。しかも、その男はセックスがさほど好きでもないのだ。
それでも女といるほうが気が楽なのは、俺のスペックでは男同士の序列にとても耐えられそうにないから。それに女は、すぐには解決策を求めない無駄話にも慣れっこだから、少々のことは現状維持のまま見過ごしてくれる。
そしてついに俺の本性が暴かれ、追及を受けた日には、色恋沙汰のこじれと見せかけて、関係を絶てばいい。その頃には俺も女に飽きているから、ちょうどいい。ただ今回ばかりは別れに伴う消耗がおっくうで、潮時を見誤ってしまったようだ。
「ねえ、理介の生きてる意味って、どこにあるの? 前世で何をしたら、そんなんなるのよ」
そんなこと、俺のほうこそ聞きたい。いや、聞きたくもない。聞く意味なんてないし。俺はありもしない前世とか来世とか、ひっくるめたくはないんだ。今世のことは今世限りでケリをつけたい。
「お前は本当に割り切れる単純な話が好きだよな。因果応報かなんか知らないけど、世界がそんなにご親切に、人間にわかりやすくできてるわけないだろ」
生きていると、つじつまが合わないことだらけだった。割り切れなくできているくせに、何でも割り切らなきゃならない世界。そこでの、割り切れないものの成仏のさせ方が俺にはわからなかった。
「森羅万象には意味があるのよ。理介が読み取れていないだけで。せっかく人間に生まれてきたんだから、起きてることの意味を考えながら生きなきゃ。人間に生まれた価値ないよ」
「人間人間って。お前さ、人間に生まれることが輪廻の最上級とでも思ってんの? 人間に生まれるようなやつは、前世でよっぽどやらかしたんだと俺は思うけど」
俺は生きている間も、死んで次に生まれるまでの間も問い続けるだろう。母さん、どうして俺を人間に生み落としたの? こんな苦しい世界に。こんな人生の上にってね。
「理介はきっと、心に該当する脳の全部が壊れちゃってるんだよ。だったら、やっぱり愛の力しかないよ」
性懲りもなく抱きつこうとする空咲飛を俺は突き飛ばした。
「だからさ、それだってんだよ。そいつが俺を追い詰めてんだよ。これ以上、近づくな。俺にかまうな。関わるな。俺、ほんとに粉々に崩壊しちゃうから。物理的にもう無理なんだってば。頼むから来ないでくれ。離れてくれ。逃げてくれよ」
「また目を背けるんだね。私が妊娠したかもって言ったときも、そうだった。二カ月連絡が取れなくなって、私、頭がおかしくなりそうで」
「ごめん。あのときは俺も気が動転してて。でも結局、妊娠してなかったんだから、もういいじゃないか」
「そういう問題じゃない。もうわかった。あんたのバイト先に乗り込んで、今までのこと全部話して、理介の魂を救うの手伝ってもらうから。なんだったら面接受けて、私もそこで働いてもいいし。私一人じゃ、もうお手上げだわ」
「やめてくれよ。俺の居場所に土足で押し入るのは」
※実際には相談先として、性依存症の自助グループなどがあります。