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死刑囚になった俺  作者: 夜道迷(よみちまよい)
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浮気なんかじゃない

 お前に百パーセントの心などくれてやってはいないんだ。お前の支配下にはないんだ。思い通りになどなっていないんだ。そう示すことでしか、俺は誰かと安心して一緒にはいられなかった。だからいつも、他の女の影をちらつかせないわけにはいかなかった。


 相手をあえて裏切り、失望させ続けなければならないわけだから、その見えないストレスと疲労感たるや半端じゃなかった。


 今つき合っている女たちの誰が欠けても、俺はバランスを失う。だから俺は二つの浮石に足を乗せ、股が裂けて落っこちないうちに、右の足をこっちの石へ、左の足をあっちの石へと乗せ替えて、二股でも三股でもかけ続けた。


 これはもはや、浮気なんていう浮かれたもんじゃない。感情の暴露から逃避するための終わりなき無間地獄。どんなに口汚く、底意地悪く(ののし)ってくる女たちも、音信不通にさえしてしまえば根負けして、時間がすべてをうやむやにしてくれた。


 SNSにブロックなんていう便利な機能がある以上、それはやってもいい行為なんだろう。使わない手はない。そんなやり過ごし方を可能にしてくれた通信発達の時代が、俺たちをつくった。


 逃げ回れば楽で得であることを学んだ俺たちは何度でも、その手を使った。苦手なことをほったらかしにした結果、その逃避回路は強化され、幼児並みの対人スキルだけが俺たちの手に残った。


 そして、スピリチュアル好きの女たちは、黙りこくって逃げる俺たちのことをなぜか都合よく、ファンタジックに解釈してくれる。


「彼はきっと私の魂の片割れのツインレイで、二人が統合するための試練であるサイレント期間に入ったのね」と。空咲飛(あさひ)も、その一人だ。


 スピリチュアルの世界では、どうやら人間関係で陥りがちなパターンに、いちいちもっともらしい名前がついているらしい。女たちは女たちで、そうやって現実を直視しないことで精神のバランスを保っているのだろう。俺みたいな人間が世にはびこる限り、この業界は安泰(あんたい)ってわけだ。


 幸いにも、どうやら政府はまだ気づいていないらしい。俺たちの存在に。すなわち、生涯未婚率が高い本当の理由に。未婚の男たちの実情も知らないで、出会いの斡旋(あっせん)と子育て支援の充実こそが少子化を食い止める最善策だと無邪気に信じている。


 仮に結婚なんてしたところで、俺の行動パターンは変わらないだろう。(あり)もウイルスも国境なんて軽々と越えていく。それと同じだ。当の本人が相変わらずのろくでなしである限り、愛の(ちか)いに効力などない。軽々と越えて、他の女に会いに行くだけだ。

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