表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死刑囚になった俺  作者: 夜道迷(よみちまよい)
25/30

永遠子との別れ、教誨師との出会い

 極楽よりは天国のほうが思い切り走れそう。そんなイメージだけで、仏教ではなく、キリスト教の教誨師(きょうかいし)を選んだ。


 どちらにも行けるはずはないのに、人を少しでも()きものにしてから殺そうとする、教誨師という不思議な制度を利用してみることにした。


 牧師から渡された聖書を読んではみたが、(つく)りっぱなしの創造主(そうぞうしゅ)は、おかしな方向へ進化してゆく俺たちを今はただ(だま)って(なが)めているだけに思えた。


「人って、ここまで落ちないと、こんな静かな時間をもたせてはもらえないんですね。拘置所(こうちしょ)で十年なんて過ごせるわけないと思ってましたけど、どうにかこうにか過ごせてしまいました。


 この(やかた)のどこかにも僕と同じように、そのときがいつ訪れるのかと息を殺して身構えている同朋(どうほう)がいるかと思うと、孤独(こどく)でもなくなりました」


 親父の禿()げ方で自分の頭の未来さえ(うらな)えない。血のつながらない義父ってやつはまったく使えない。この十年で少しばかり後ずさった生え際を()でながら、そう思った。


「何かを願うなんてずうずうしいことは、もうやめました。あなたの御心(みこころ)のままに。ただそう(いの)って決まったことを運命と呼ぶようにしたら、何も悩むことはなくなりました。そろそろじゃないかと思うんですよね」


「順番、ですか?」


 彼の体格こそが神の恵みに違いないと信じたくなるほど胸板の厚い、やけに日に焼けた牧師が言った。


「ええ。一人でいる時間が長すぎて、神経が()()まされちゃって、未来が見えるようになったとか、そんなんじゃないんです。


 ただ十年もいると、ほかの死刑囚の執行日(しっこうび)から、何かしらのパターンが読めるようになってしまうのかもしれません。


 それで妻は、僕の死期を察して離れていったんじゃないかと。最期(さいご)を見届けるのがつらくなるような、そんな女には見えなかったんですけどね」


「それで、おつらくなって、教誨師(きょうかいし)である私を呼んでくれたんですね」


「僕の中に内在化(ないざいか)した彼女がいつも僕に語りかけてくれるので、(さび)しくはありません。離れている気がしないんですよね。これが家族ってやつですかね」


 教誨師(きょうかいし)がいれば、独り言も、(かべ)に向かって言うよりはましかもしれない。それくらいの軽い気持ちで頼んだ、というのが正直なところだった。


「僕ね、こうも思うんですよ。彼女の人生は丸ごと何かの後遺症(こういしょう)で、僕に会いに来ること自体が何かに対する復讐(ふくしゅう)だったんじゃないかって」


「仮にそうだったとして、そんな人生は()ずべきものでしょうか?」


「とんでもない。おかしな話ですが、離婚届(りこんとどけ)を一方的に()きつけられたのに、彼女には、これまで与えてもらったことへの感謝しかないんですよ。(うら)む心なんてまったく。そんなの、滅相(めっそう)もないことですから」


 最後のほうは、自分に言い聞かせるように、俺は言った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ