遺族からの手紙
明日になれば、今日は無事に終わってるってことだろう。明後日になれば、明日は無事に終わってるってことだろう。俺はいつ終わるんだろうか?
命さえ自分のものじゃない俺たちは、この世で一番失うものがない。だから、国は外部との接触をこんなにも制限して、俺たち死刑囚の声を漏らすまいとしているんだ。神をも畏れず、この世で最も本当のことを言えるのが俺たちだから。
遺族に手紙もしたためた。失敗はたいてい、楽をしようと不精をした瞬間に起きる。俺の場合、支配による抑圧が限界に達する前に、二人とは別れておくべきだった。別れに伴う面倒を億劫がって怠ったばっかりに、二人もの命を奪ってしまった。
そのことに俺なりに真摯に向き合い、率直に詫びた手紙のつもりだった。
仮に、どんなにもっともらしい反省や謝罪の言葉を並べることができたとしても、文字にした途端、薄っぺらな嘘みたいになることもわかってはいた。
それでも、美咲の父親は返事をくれた。
「世間が関心をなくし、娘のことを語り合える相手が君しかいないことが情けないです。かなわないのはわかっているけど、こう書くしかないでしょう。娘を返してください。それ以外に言葉が見つかりません。君を生かしておくのは税金の無駄。君を生かすために食料として犠牲になる動物の命の無駄です」
個人では払いたくないもののために使われるのが税金の宿命とはいえ、たしかに、国が俺みたいな人間を養う目的がわからなかった。よりいっそう肩身の狭い思いをさせるためなのか? それとも、金を払うことを含めた人間らしい活動をすべて停止させるためなのか?
空咲飛の姉も返事をくれた。
「空に大輪の花を咲かせ、世界に飛び立ってほしいと両親が名づけた空咲飛が空に旅立ってしまいました。
あなたがどんな育ちをしてきたかなんて、私たちには関係なく、興味も関心もありません。本当のあなたなど見せてくれなくて結構です。一度死んで生まれ変わってから、あなたじゃなくなった証拠を見せに来てください。
妹と私たちの接点があなたなどと、うぬぼれないでくださいね。妹と向き合うのに、あなたの存在など何の必要もない。せめて、もうちょっとまともな男にうつつを抜かしてくれていたら。そう悔やむばかりの日々です。
一日も早く、妹と同じようになってほしい。妹と同じなんて言葉を使うのさえ、けがらわしい。死後は、妹と同じ世界にだけは行かないでください。私たちの望みは、それだけです」
人の命の重さが同じだなんて誰が言ったんだっけ? すべて幻想。すべて嘘。遺族にとって、重い身内の命を奪った俺の命なんて、ゴキブリよりも軽いだろう。
殺したことを謝るまともな手紙なんて、書ける人間がどこにいるだろうか? 見合う言葉などないと初めからわかっていながら、その言葉を探し続けるのは虚しい。あるいは、この終わりなき赦されなさこそが贖罪なのかもしれなかった。
※参考文献:『アフター・ザ・クライム-犯罪被害者遺族が語る「事件後」のリアル』(藤井誠二 著、講談社)などを読んでから書きました。