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死刑囚になった俺  作者: 夜道迷(よみちまよい)
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押しつけられた愛

 腐りかけの落ち葉から()ね返ってくる、思いがけない方向からの反動に足をあちこちもっていかれた。俺はうろたえ、戸惑い、たった今(つな)を解かれた飼い犬みたいに高らかに太ももを上げ、木漏(こも)れ日の中を()け巡った。


 周りに誰もいないことを確かめて、マスクを外す。まだらな西日の射す地面に身を横たえ、両手をばたつかせて落ち葉を巻き上げた。天然素材百パーセントのカモフラ柄をまとうと、心なしか強くなった気がした。土の味と(にお)いと湿り気を全身で吸い込む。


 白い花にありがちな水臭い匂いが、どこからともなく漂ってくる。先端の結ばれた(かや)の葉は、俺以外にも心の淋しい誰かが、この庭に立ち寄ったことを教えてくれる。


 とはいえ、流浪(るろう)の果てに見つけたこの別天地も、しょせんは借り物の庭。修道院のご厚意は期限付きで、閉門時間の夕方五時が来れば()め出されてしまう。


 残すところあとわずかな今日の日照に追い立てられるように、マヨネーズの空き容器をくわえたカラスが、真っ赤なキャップをどう開けようか思案に暮れていた。


 アパートに帰ると、空咲飛(あさひ)が奥から飛び出してきた。


「ねえ理介(りすけ)、今日はどこまで走ってたの? 今日はバイト入ってるって言ってなかったよね? にしては遅すぎない? 心配したんだよ。まさかまた、シングルマザーの看護師のとこじゃないよね?」


「今日は違うよ。だけど、たとえ行ってたとしても、お前には関係ない。どこで何しても構わないだろ? そこに愛はないんだから。愛こそが極上なんだろ?」


「そうよ」


「愛の無理強いで死にかけてる人間がいても?」


「それは、あんたが本当の愛を知らないからよ。まだ気づいてないの? あんたが欲求のはけ口だと思ってる女たちは、あんたのことだって便所程度にしか思ってないんだからね。


 そんなあんたに、こんなにも慈悲(じひ)深く注いでる私の愛情をいい加減受け取ったらどうなのよ。そろそろ、幸せになることを自分に許可しようよ」


 ピンクと白の薄ぼけたしま模様のパーカーと、そろいの短パンに包まれた肉塊が、俺にからみついてくる。使い古した吸水速乾タオルのような感触だ。毛羽立つ力を失った生地からはもう心地よい肌触りも、人を癒す力も、とっくに失われている。


 ただ漢字一音一音の読みを当てがわれただけで、そこに両親の教養も知性も感じられない名前の女は、そんなことにも気づかず甘えてくる。俺が世界のすべてなんていう女に、魅力などあるわけがなかった。なぜなら俺はからっぽだから。したがって、彼女を満たしているのは果てしない(くう)でしかなかった。


「そこまで人をこき下ろして、俺に執着してる意味がわかんないよ」


 俺には愛情を受け取る機能がついていない。この不具合は、おそらく成長過程の一過性のものなんかじゃない。たぶん死ぬまでこうなんだと思う。


 だいたい女は下半身に重きを置きすぎだ。俺の下半身が今日、どこをふらふらさまよっていようと、そこにたいした意味なんかない。いちいち気にするほどの問題ではないのだ。

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