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時魔術士の強くてニューゲーム ~過去に戻って世界最強からやり直す~(Web版)  作者: 坂木持丸
第2章 第2の魔王

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31話 転送機能


 第2の魔王――究極生命体アルティメルト。


 目の前に姿を現したその魔王を、俺は未来の記録で知っていた。


 “国喰いのスライム”、“うごめく大海”、“暴食の魔王”――。

 さまざまな呼ばれ方をしていたが、どれも誇張ではない。

 1周目において、この魔王は国をいくつも喰らい、ひたすら肥大化し続けた。


 この魔王の権能は――“万物合成(モンスタージュ)”


 触れたもの全てを溶かし、取り込み、自分のものとする力だ。

 物質も、霊体も、魔力も、魔術も、知識も、技も――。

 この魔王に触れられただけで溶かされ、喰らわれ、奪われる。

 ゆえに魔王アルティメルトは、“史上最悪”の魔王と呼ばれていた。


(……まさか、このタイミングにもう誕生しているとは思わなかったが)


 元魔術士を喰っている巨大スライムを観察する。

 ずぅぅん……ずぅぅん……と。

 その巨体がうねるたびに、迷宮の壁や天井がえぐれて瓦礫が降りそそぐ。

 しかし、俺が知っている魔王アルティメルトは、こ(・)ん(・)な(・)に(・)小(・)さ(・)く(・)なかった。


 もともと、魔術士たちの計画外で生まれた魔王だ。

 1周目では1週間後に出現するはずだったが……。

 俺の歴史への介入によって、まだ“未成熟”のうちに解放されてしまったのだろう。


(……やつに勝つための手はある)


 当然、ここに来る前から対策は考えてある。

 魔王アルティメルトを倒すための手札も用意してある。

 しかし――今(・)の(・)俺(・)では勝てない。


 それに今、俺の後ろには守らなければいけない人がいる。

 まずは、ラビリスを逃がすことが優先だ。


「ラビリス、やつが元魔術士《あいつ》を喰っているうちに逃げるぞ」


「……う、うん」


 魔王アルティメルトについては、未来の資料を確認してある。

 まだ生まれたばかりの魔王アルティメルトは、強い魔力に引き寄せられるだけの原始的な生命体のはずだ。


 元魔術士と迷宮核――。

 この場には、大きな魔力反応が2つもある。

 しばらくは時間を稼いでくれるだろう。


「クロム……」


「大丈夫だよ。ラビリスは俺が絶対に守るから」


 不安げに瞳を揺らすラビリスの手を引いて、俺は駆けだした。

 魔王アルティメルトを引き寄せないために、魔術は使えない。

 それでも襲ってくるスライムは、剣で斬り飛ばし、あるいは持ってきた魔石をおとりにして逃げる。


「く、クロム? 逃げるんでしょ? そっちは出口じゃ……」


「いや、こっちでいい」


 俺が目指す先にあるのは――迷宮の制御盤だった。

 卓上の操作パネルに飛びついて、かたかたかた……と素早くその上に指を走らせると。

 宙に投影された光の画面に、複雑な魔術文字が流れだした。


「よし、まだ魔力は生きてるな」


 とはいえ、迷宮の動力源となる迷宮核も、魔王アルティメルトに喰われ始めている。

 もう、あまり時間は残されていない。


「それ……使い方、わかるの?」


「……ああ、何度かさわったことはある」


「え……?」


 1周目では、俺が魔術士協会のトップだったのだ。

 先ほどの魔術士たちでもできることを、俺ができないわけがない。

 もっとも、迷宮によって機能や操作方法などは違ってくるが。


(……迷宮には必ず、魔物を配置するための転送機能があるはずだ)


 魔王アルティメルトのせいで迷宮が崩落を始めている。

 ラビリスを出口から逃せば、外に脱出するまでに生き埋めになってしまうだろう。

 しかし、迷宮の転送機能があれば、ラビリスを一気に迷宮の外まで飛ばすことができる。


「あった……!」


 と、迷宮の転送機能を見つけるが――。


「……っ!」


 さっそく使おうとすると、警告音とともにエラーメッセージが吐き出された。

 魔力波長による認証に引っかかったのだ。この辺りは魔術士たちがなにか細工をしていたらしい。

 強引にセキュリティを突破している時間はない。


「くそ……」


 迷宮外への転送機能が使われたタイミング――。

 それさえわかれば、その時点まで制御盤の時間を戻せばいい。


 だけど、そんなタイミングを、俺が都合よく知っているはずが――あった。

 俺ははっとして、迷宮の制御盤へと手のひらを当てる。



「――“時よ、戻れ”」



 迷宮の制御盤の時間を、“迷宮外への転送機能が使われた時点”へと戻す。

 その瞬間の時刻を、俺は知っていた。



 ――女神暦1200年、4月10日、18時00分。



 全てが始まった瞬間――。

 始祖竜と魔物の大群が、迷宮外へと転送されているはずだ。


 その考えは当たっていた。

 周囲にある割れた培養槽の底に、転移魔法陣が輝きだす。


「ラビリス、その魔法陣の上に立ってくれ! 迷宮の外に転移することができる!」


「本当に!?」


「ああ、俺を信じてくれ」


「……う、うん」


 ラビリスは状況がわからないながらも、俺のことを信用してくれたらしい。

 近くにある割れた培養槽の中へと、その身をすべり込ませた。

 俺もラビリスの後を追い――培養槽の前で、足を止める。


「クロムも早くこっちに……! 魔王がもう来てる……!」


 振り返ると、たしかに魔王アルティメルトがゆっくりと迫ってきていた。

 これだけ転送機能や魔術を使ったのだ。

 あの魔王が、魔力に反応しないわけがない。

 だけど――。


「…………」


「クロム?」


 俺はラビリスに微笑みかけると、培養槽へと手のひらを向けた。



「――“時よ、戻れ”」



 その一言で、床に飛び散っていたガラス片が浮かび上がった。


「え……?」


 ガラス片はくるくると透明な花びらのように舞いながら、パズルのピースがはまるように円筒形のガラス容器を形作っていく。

 培養槽が、“壊れる前の時点”へと戻っていく。

 ラビリス1人だけを培養槽の中に残して――。


「な……っ! なにしてるの、クロム! これじゃあ、クロムが入れな……」


「ごめん、ラビリス。俺はここに残るよ」


「…………え?」


「あの魔王は、俺がここで終わらせないといけないんだ」


 ここで魔王アルティメルトを倒さなければ。

 ラビリスも、エルも、アルマナの町も、みんなこの魔王に呑み込まれてしまう。


 この魔王を倒すには、一番小さくて弱い“生まれたて”と戦うしかない。

 そして、この魔王を倒せるのは――この時代には俺しかいない。


「……ごめんな、一緒に帰れなくて」


「じ、冗談よね? つ、つまらないわよ……?」


「…………」


「ほ、本気、じゃないわよね……? 嘘……嘘なんでしょ?」


「……ごめん」


「む……無茶よ! クロムがいくら強くても、あんなのが相手じゃ……! クロムが死んじゃうだけよ!」


 ラビリスが培養槽のガラスを、ばんばんと叩く。

 しかし、転移魔法陣の輝きが強まりだした。

 ラビリスが光に包まれていく。


「く、クロム、早くこっちに来て……! やだ……やだよっ! せっかくまた仲良くなれたのに……! もっと一緒にいたいのに! 1人にしないで、クロム……クロムお兄ちゃん――ッ!」


 ラビリスの目から、じわじわと涙があふれ出す。


「……あいかわらず、ラビリスは泣き虫だな」


 人に懐かないくせに、本当は寂しがり屋で。

 強がっているくせに、本当は優しくて泣き虫で。

 だからこそ――1周目では魔王になってしまった少女。


「……今度こそ、君との約束を守りたいんだ」


「え……?」


 幼い日、助けると約束をした。

 それなのに、1周目では泣いているラビリスを殺すことしかできなかった。

 そのことを、100年間ずっと後悔してきた。 

 だけど、“過去《いま》”からなら――きっとやり直せる。


「大丈夫だよ、ラビリス。俺は強くなったから」


 俺はラビリスと、ガラス越しに手を合わせる。


「たくさん頑張って、ラビリスがもう泣かなくていいぐらい強くなったよ。いつまでもラビリスと一緒にいられるし、この先ずっとみんなを守ることもできるよ。だから――」


 ラビリスが光に呑まれて消える直前――。

 俺はラビリスを安心させるように、優しく微笑んだ。



「だから、笑ってくれ――ラビリス」



 そして、ラビリスが……消えた。

 培養槽の中には、光の粒子の残滓だけが残っていた。


 ラビリスの声は、もう聞こえない。

 ガラス越しに合わせていた小さな手のひらは――もうない。

 迷宮の外への転移に成功したのだろう。


「…………さて」


 すぐ背後まで迫っている気配へと、俺はふり返った。

 そこにいたのは――迷宮核を取り込んだ巨大なスライムだ。

 その巨体が動くたびに、ずぅぅん……ずぅぅん……と、迷宮が崩落していく。


 “国喰いのスライム”、“うごめく大海”、“暴食の魔王”――。


 いくつもの国が呑まれ、1周目では封印することしかできなかった大災厄。

 その史上最悪の魔王と、俺はたった1人で対峙する。



「それじゃあ、始めようか――魔王アルティメルト」


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