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時魔術士の強くてニューゲーム ~過去に戻って世界最強からやり直す~(Web版)  作者: 坂木持丸
第2章 第2の魔王

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21話 魔術士たちの襲撃(ラビリス視点)

今回はラビリス視点です


 久しぶりに幼馴染3人で集まった日の夜。

 ラビリスは王都への帰り道を急いでいた。


 もう日はすっかり沈んでいて、辺りは暗い。

 淡くかすんだ春の月だけが、街道をおぼろげに照らしているだけだ。


(……今日は楽しい1日だったな)


 ラビリスは町での時間を思い返して、くす……と微笑む。

 久しぶりに3人で遊ぶことができた。

 ずっと疎遠になっていたクロムとも、一緒にいることができた。

 最近は暗い顔ばかりしていたクロムが、今日はたくさん笑ってくれた。


(ずっと、こんな日が続けばいいな……)


 久しぶりに3人で過ごす時間が、あまりにも楽しくて……。

 だから、ラビリスは昨日のクロムについて聞くことができなくなった。

 聞いてしまえば、なにかが壊れてしまう気がして。

 

(……きっと、気のせいよね)


 そう、自分に言い聞かせる。

 クロムはよくわからない魔術が使えるようになったけど、それでも優しくてお人好しのいつものクロムのままだった。


 なにも聞かなければ、なにも知らなければ……クロムはいつものクロムのままでいてくれる。

 そうすればきっと、いつまでもこんな楽しい時間が続いてくれる。

 ラビリスにとっては、それだけで充分だった。

 それなのに――。



「………………え?」



 突然、なんの前触れもなく、平和な日常が崩れ去った。


 ――ゆらり、と。


 いきなりラビリスの前に、複数の人影が立ちのぼる。

 まるで影絵のような集団だった。

 全員が同じような闇色のローブをまとい、同じような仮面で顔を隠し、同じような杖を手にしている。


(……ま、魔術士!? いつの間に……!?)


 ラビリスがはっとして周囲に目を走らせる。

 しかし、その頃には――右も、左も、後ろも、魔術士に囲まれていた。

 もう逃げ場はない。

 ほんの一瞬の間に、魔術士の集団に包囲されてしまった。



「――我らが主よ。昨日、戦場をうろついていたのは、この娘で間違いありません」



 魔術士の中の誰かが声を出す。

 不気味なほど個性のない声だ。ローブと仮面のせいで誰が声を発しているのかすらわからない。


「ふむ……“勇者”も小娘だとは聞いていたが、まさか?」「素質はありそうではあるな。上質な魔力をまとっている」「なに、当たりかどうかは解剖すればわかることだ」


 魔術士たちがラビリスを実験動物かなにかのように眺め回しながら、ぼそぼそ小声で会話をする。

 わけがわからない。ひたすらに気味が悪い。


「な……なんなの? あなたたち……」


 ラビリスが剣に手をかけながら、魔術士たちを睨みつける。

 しかし、その声はかすかに震えていた。

 どっどっどっ……と、ラビリスの心臓が激しく鼓動する。


(……この魔術士たち、全員――強い)


 ラビリスの直感がそう告げていた。


「いやなに、我々は怪しい者ではない。魔術士協会の者だ」


 魔術士の誰かが答える。

 たしかに、魔術士たちのローブには魔術士協会の紋章がつけられている。


 しかし、だからといって安心はできない。

 彼らが魔術士協会の人間だという保証はないし、もし本当に彼らが魔術士協会の人間なのだとしたら――それは“怪しい者”なんかよりも、よっぽどタチが悪い相手に捕まったということだ。


「さて、1つ聞きたいのだが……貴様は、魔物の大群を壊滅させた“英雄”とやらか?」


 魔術士の1人が尋ねてくる。

 それは思いがけない問いだった。


「……英雄?」


 ラビリスは眉をひそめながら、ふと昨日のことを思い返す。

 どんな戦いがあったのか想像すらできないような戦場。

 その中で、巨竜を消滅させていたクロムのような少年のことを……。


「……なんのことか、わからないわね」


 しばらく言葉を選んでから、ラビリスはようやくそれだけ答えた。

 まともに答えてはいけない気がした。

 なにか嫌な予感がするのだ。


「ふむ……まあよい。捕らえて解剖すればわかることだ」


 その声には感情がこもっていなかったが、明確な敵意がこもっていた。

 魔術士たちが杖をすっとかまえ――。



「……っ! ――“身体強化Ⅴ(ファイブ・ブースト)”!」



 戦闘となれば、ラビリスの判断は早い。

 魔術士たちに先んじて術式を構築し、全身から桜色の魔力の炎を吹き上がらせる。


(狙うは、一点突破――!)


 相手の実力がいくら高くても、1対1に持ち込めばラビリスが遅れを取ることはないだろう。

 包囲さえ抜けてしまえば、逃げられる。

 ラビリスの足の速さに敵う者は、そうそういないのだ。


(ムーンハート流・双剣術――“二兎追い”!)


 桜色に燃え上がる双剣を抜き放ちながら、ラビリスが地面を蹴る。

 そして、包囲の隙間をこじ開けるように高速の双撃を放ち――。



「…………“身体強化Ⅵ(シックス・ブースト)”」



 ずしん――ッ! と。

 目の前の魔術士から、重圧のような魔力が放たれた。

 その次の瞬間、気づけばラビリスは吹き飛ばされていた。


「く、ぅ……!?」


 地面に背中が叩きつけられ、その場に這いつくばる。

 ただの魔術士に――力で押し負けた。

 信じられない。


(今のって、6位階の魔術……!?)


 それは天才が修練を重ねて、ようやくたどり着ける位階だ。

 そこでようやく、ラビリスは魔術士たちがローブにつけている階級章に気づいた。


「…………う、そ……」


 ラビリスの顔が、絶望に歪む。

 自分を包囲している全員が、魔術士協会の一級魔術士だった。


(な、なんで……一級魔術士がこんなたくさんいるのよ)


 セントール大陸において、絶大な力を持っている魔術士協会。

 その中で一級魔術士に至れるものは、大陸屈指の天才や修羅のみだ。

 そんな絶対強者たちが、ラビリスを包囲していた。

 まるで、これから戦争でも始めようとしているかのように……。



「「「――“睡眠霧Ⅳ(フォース・スリープ)”」」」



 一級魔術士たちが一斉に杖を掲げて唱えた。

 ぐら……と、ラビリスの意識が急速に遠のきだす。

 体がすぐに言うことを聞かなくなる。


(ま、まずい…………く、クロ……ム……)


 糸が切れたように、ラビリスがその場に崩れ落ちた。

 その周りに、ぞろぞろと魔術士たちの影が這い寄ってくる。


「……ふむ、ハズレだな」「この様子だと“勇者”でも“英雄”でもなさそうだ」「やはり、アルマナの町をしらみ潰しに調べてみるか……」


 だんだん意識が水底に沈んでいくように、魔術士たちの声がぼやけて遠のいていく……。


「この娘はいかがいたしますか、我らが主よ」


「……良い器だ。“魔王候補”に入れておけ」


「御意」



「この娘ならば、あるいは――“魔王”へと至れるかもしれない」



 そして、ラビリスが最後に見たものは――。

 自分を見下ろしている魔術士のローブに光る、十二賢者の紋章だった。


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