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ここまでのナタリアは…という説明回です。
「取り敢えず食事はしてしまおう」と言うことで、少し空気が重たい中ではありましたが昼食を食べました。
サラ様は「ここまで酷い扱いだとは思わなかったわ。」「もっと早く手を打つべきだったわ。」などの独り言ともとれるような呟きをこぼしていました。
本来なら和やかであったはずの昼食を終えると日の注ぐ明るいリビングルームへと場所を移しました。
そこで食後のお茶を用意してもらってゆっくりとお話をすることとなりました。
大きな3人掛けのソファーに旦那様とサラ様、その向かいの1人掛けへ私が腰掛けます。
そして本来でしたら父から伝えられるべき全てのことを婚家の主から教えてもらうこととなったのです。
こちらのお屋敷はアシュバーン侯爵家と言い、国のほぼ中央にある王都から馬車で約5日の距離にあるそうです。
私の家のヒルトップ伯爵家も王都へは3日かかります。(以前そう聞いたことがあります。)
その我が家から女と荷物のゆっくりした旅でこちらまで4日かかりましたから、隣国との境に近い場所なのでしょう。
歴史を遡ると隣国との関係が悪い時期には国境を守る場所でもあったとのことで、要塞や城の様相を残しているとのことです。
王都から離れた広大な領地を高台から見下ろせるこの城が領主の住まいに適しているとの理由で代々の領主の住まいとなり、国王からは領地と国境を守るために小さな騎士団のような組織を特別に許されているそうです。
今朝見かけた騎士風の若い方たちがそうなのだろうと思いました。
現領主はアシュバーン侯爵 サイラス様で奥様はサラティナ様、王都に息子さんがいらっしゃるそうです。
「貴方のお母様のクリスティンと私は幼馴染で友人だったの。」
サラ様は私の顔を懐かしむような眼差しで見つめながらそうおっしゃいました。
サラ様ことサラティナ様は私の母クリスティンと共に隣国ミスタニア国より現王妃 アンナ・マレ様がお輿入れの際に、侍女としてサンドラム国へやってきたそうです。
サラティナ様は3年、母は5年。
王妃様の侍女を務めた後、それぞれの伴侶の元へと嫁し王宮を辞したそうです。
結婚後は私の父が母の外出をよく思わなかったのと互いの家の距離があったので、手紙で近況を知らせることしか出来なかったそうです。
「一度だけ小さなあなたを連れてここへ来てくれたことがあるのよ。」
サラティナ様は産後の体調が優れない時期があったそうで、それを心配した母が私を連れてこの地までお祝いとお見舞いに訪れていたそうなのです。
「その頃あなたは2歳になったくらいだったと思うわ。」
私は幼すぎてその記憶はありませんが、母をよく知る方の元に来ることができたのはとても嬉しいことです。
8年前の流行り病で亡くなった母の葬儀に参列してくださり、その後も気にかけてお手紙など下さったそうですが、それらが私の元に届くことはありませんでした。
その後すぐ後妻にミランダ様が嫁してきたので連絡は疎遠になってしまったそうです。
王都の夜会で父たちを見かけた際に「ナタリアは元気にしていてつつがなく暮らしている」と
言われてしまえば、それ以上私の話題に触れることもできずにいた…とおっしゃっていました。
サラティナ様は私が社交界へデビューすることを楽しみにしてくださっていたそうですが、姿を見ることがないため様々な伝手から私が不憫な生活を送っていることを知り、何とかあの家から私を引き離そうと策を講じていてくれたようです。
父にとって私は「金の卵を産むかもしれない鳥」であったので、より好条件の家へと選り好みしてなかなか手放すことをしなかったようです。
最終的に王妃様のお力をお借りして、アシュバーン侯爵家へ嫁がせることをさりげなく強引に了承させたようです。
王妃様は侍女としてこの国に同行し身の回りの世話を任せていた者の忘れ形見を、ご自分のお眼鏡にかなった家へと嫁がせたいと望まれている…その様な形を取ったのだそうです。
父にとって本来なら私の幸せより婚姻を望む家との交渉で資金援助などを目論んでいたのが、ほとんど命令のような形であり交渉の余地などなかったこの婚姻が不服であった為、私に説明することなどしなかったのだと思います。
「時間が無かったので婚姻という形をとってしまったけれどナタリアがどうしても息子を好まなければ、この家から養女として好きなところへ嫁いだらいいわ。あなたに先入観を与えてしまわないように息子のことは私も使用人たちも詳しく話さないことにしているの。」
この地に到着して2日目、漸くこの婚姻の意図が分かったところです。
次回より新生活