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すみれの花で花束を  作者: 音塚和音
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コンコン

執事が暗色の硬質なドアをノックし「ナタリア様をお連れ致しました。」と告げます。

程なくして「入れ。」と憮然とした父の返事があると、ドアを開けてくれた執事が「どうぞ。」と中へと促すのでそれに従い中に一歩入ると淑女の礼を取りました。


「お待たせ致しました。お父様におかれましては…」

「挨拶などいらん!」


父の机上に雑多に置かれた書類と手紙。そちらに目をやり私の方に顔を向けもせず、自ら呼んでおいて吐き捨てるように言う。そんな父に近寄ることもなくその場で背筋を伸ばし、淑女然としていることが私の細やかな抵抗でしょうか。


「お前の結婚が決まった。」


父は相変わらずこちらに顔を向けることなく私に伝えます。どことなくイライラしているように思えます。

私自身は何となくそのようなことではないかと感じてはいました。この父が私を呼び出すことなどほぼないから。18歳という年齢を迎え、そろそろこの家に益をもたらしそうな家を見繕ってそこに宛がおうと考えていることなど分かり切っていました。

妹のシェーンの他に子宝に恵まれなかったので彼女を家に残し婿を取らせるつもりなのでしょう。そのためにも厄介者の私を先に何処かへと嫁がせなければなりません。数年前から我が家により良い利益をもたらす家を吟味していたはずです。機嫌がよろしくないところを見ると19歳になる手前の今日まで粘ってはみたものの、父が満足する条件の家が見つからなかったのでしょう。


「ひと月後に迎えが来る。荷物をまとめて準備をしておけ。」


父は相変わらず私の方を見ることなくそう言います。私はどちらのどなたに嫁ぐのでしょうか?と一番問いたいことは飲み込み、この家を離れる際にはお願いしようと思っていたことを口にします。


「お父様にお願いがございます。嫁ぎ先にばあやと侍女のミーナを連れていくことをお許しください。」


乳母のメルナには家族が居るので連れてはいきません。私が嫁した後でこの屋敷で働き続けても、辞しても彼女なら心配はなさそうです。ばあやは高齢ですし母についてこの伯爵家へ来たので、近くには身寄りがありません。ミーナは身寄りのない女性使用人の連れ子でしたが、私の母と同じ流行り病で母親を喪い孤児となり、その後メルナとばあやの計らいで私の侍女として共に生活をしてきました。


「ああ。ばばあと孤児か。お前の好きなようにすればいい。」


心底どうでもいいように父は言うと、しっしっと手で追い払うような仕草をして私の退室を促しました。


「ありがとうございます。失礼いたしました。」私は簡単な挨拶をして父の書斎を後にしました。

結局父は、私のことを見ることはありませんでした。

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