第8話 花見……そして、運命の流れ星
ついにタグにあるマスコット(?)登場!
フルネームをググるかどうかは読者に任せます。
季節は何度も巡って、今年で小学3年生も終わろうとしている時期。
桜が咲き乱れてくれば、学生時代の終わりを迎えようとしている人も、新たな生活に心躍らされる人もいる。
そんな時にすることと言えば――1つしかないだろう?
「つまり! 花見だぁああああああああああああああ!! みんな! 今日は飲んで食べて、飲んで食べて、飲んで食べて、思いっきり騒ぐぞ!!」
「ワッオオオオオオオオオンッ!」
「お~! みんなでお花見、楽しいね」
「おー! 今日は記念日でもあるし、私も嬉しいぞー!」
「ふふ、仲のいい友達同士での花見もいいわ。ねぇ、明日奈?」
「それは同感だけど。アイツ、飲んで食べて騒ぐことしか頭にないじゃないの。もっと、こう、花見って言うからには桜も見るべきじゃ……」
「じゃあ、明日奈はお食事より桜を見るだけの方がいいの?」
「……飲んで食べて騒ぐ方が良さそうって思った自分が悔しい」
みんなテンションが上がっているなー。1番はボクだけど。
とってもいい花見日和。ボクこと柚木友理、柚木秋穂、香坂明日奈、小谷凛子、柊小夜の5人(+1匹)は満開の桜の下に集まって、花見を目的としたピクニックに来ていた。お弁当は各自の親御さんが用意し、気分だけでもといノンアルコールの飲み物も持ち込んでいる。
なぜ、花見を『ヴァルダン』のヒロインたちと一緒にすることになったのか。それには理由が2つある。
1つ目、単純にみんなでワイワイ花見をしたかったから。
それ以上でもなければ、それ以下でもない。楽しければそれでいいのだ!
で、2つ目の理由が最も大きい。
ボクも嬉しいが、凛子が犬と一緒にはしゃぐぐらい嬉しがっている理由。
「ついに全員の異能が発現したぞー!!」
「ワフフフフフフーンッ!」
そう、ここにいる5人が『Heartギア』による異能に目覚めたのだ。
お姉ちゃんが異能を発現したことを呼び水にしたように、次々と異能を使えるようになっていった。
そして先日、凛子が異能を発現させたことで友達関係のボクら全員が『Heartギア』による異能を扱える者として国に登録されたわけだ。
まあ国に登録と言っても『Heartギア』によって発現した異能の名称、発現日、その他備考を役所に届け出るだけなんだけど。
基本として異能は県に1つだけある特殊な高校を卒業することで、堂々と使える権利が与えられる。それまでは「無闇矢鱈と使ったらいけませんよ。犯罪に使ったら即逮捕ですよ」と注意されるぐらいだ。幼いうちに異能を発現する子もいるから、最初から厳しく取り締まるのが難しいのは分かるんだけど、『Heartギア』関連の法律がガバガバなことに不安を隠せない。
『Heartギア』があることで世界が良い方向に変わっていった歴史も確かにあるけど、犯罪者に『Heartギア』使用者がちらほらと出ていることも事実だ。
ゲームでも気に掛けている子が所属している組織が、そういう『Heartギア』を使う者を一員としているし。
政府の対応が試される話題と言えるだろう。
閑話休題。
そんな難しいことは知らないと、凛子がフィーバー状態だったためにボクが提案したのがこの花見――を理由にした飲み食いだ。
場所は側に大きな公園もある河川敷で、流れる川の音を聞きながら花見に興じる親子や若者がちらほら見える。
ボクらみたいに子供だけのグループは、片手で数える程度しかいない。
周囲を適当に歩きながら、ふと腕に装着された『Heartギア』を見ると口元がニヤつきだす。達成感もあって、ついつい笑ってしまう。
「ニヒヒ……」
「なーにをニヤニヤしてんの?」
「おう明日奈。いやー『Heartギア』の色が変わっていると、ついにここまで来たんだなーって実感してさー」
「確かにね。前世に異能なんて無かったから、試したいことが多いもの」
ボクの『Heartギア』は異能を発現してからオレンジに黄色のラインが、明日奈の『Heartギア』は紫に水色のラインが入った配色に変化した。
これってイメージカラーに変わるってことなのかね?
「そ・れ・に~、柚木友理強化計画も大成功した! これで勝てる!」
「らしいわね。詳しく教えてもらえていないけど」
「ちょーっと訳があってね。自分でも困惑することがあったんだよ」
裏パスワードを唱え続け、邪教みたいな儀式をした甲斐はあった。
そのかわり……予想外にやれることが多すぎて、用検証だけど。
「まあ、いいわ。異能について教えていないのはアタシも同じだし」
「……は? 何を言っているんだ。香坂明日奈の異能は『物質作成』だろ? アニメを知っている明日奈が知らないはずがない」
「何を原因としているかはハッキリしないけど、いろいろ試してみたらアタシの異能も変化したのよ。上位互換としてね」
「マジで!? それって……」
ゲームの有料サービスでも、確かに香坂明日奈の強化はあった。
『物質作成』の上位互換が思った通りのものなら……
「ユウちゃ~ん! 明日奈ちゃ~ん! そろそろお弁当食べようよ~! みんなお腹すかして待ってるよ~!」
おっと、我が姉様からお声が。
そういえばボクも腹が減ってきた。
「……ま、異能に関してはお互い様ってことで」
「……そうだな。みんなの所に戻るか」
凛子が“待て”状態の犬みたいなポーズで涎垂らしているし。
「あ、言い忘れてた。発現した異能のおかげで新しいヒロインに会えたぞ」
「マジで!? どこの誰!? 誰なのか教えなさいよ!」
「それは――数年後のお楽しみだー!」
「こら! 待ちなさい! 逃げるなー!」
お姉ちゃんの元へダッシュ&到着!
「おぉー! どれも美味しそうだな-!」
「みんなで交換しながら食べるのもいいかもしれないわ。ほら、明日奈も眉間に皺を寄せてないでこっちに来て食べましょう」
「分かったわよ。こうなったら、とことん食べてやるんだから!」
「そうだ! そのおにぎりとサンドイッチは私も食べたいぞ!」
「ワンワン!」
「ほらほら、ユウちゃんたち。そんな焦らないで」
お姉ちゃんは焦らないでと言っているけど、凛子の食べるペースが早いから、モタモタしてたらボクの分が無くなっちゃいそうなんだよ!
そこからバカ騒ぎしながら食事をしていると、明日奈が小突いてきた。
さっきからチョンチョンと何だよ鬱陶しい。
「どうしたんだ食事中に?」
「ねぇ、誰もツッコまないしアタシも聞くタイミングを逃していたんだけど……さっきから当たり前のようにいる子犬は一体……?」
「ワゥン?」
明日奈がボクに言った言葉が聞こえたのか、「何? オレの話してんの?」と言わんばかりの表情で件の犬が近づいてくる。
ふむ、コイツに関しても報告するのを忘れていたな。
「紹介しよう。我が家で飼うことになった犬、マルコだ」
「ワン!」
「ちなみに、オスである」
「ヒャイ~ン……」
「そこまで聞いてないから。てか、いつまで余計なもの見せてんのよ」
手っ取り早くオスかメスか判断する材料は“息子”の存在だろ。
「遊びに行った帰りに某保険のCMのごとく潤んだ目で縋り付かれ、家族を泣き落としで納得させて飼うことが決定した――という設定だ」
「はぁ? 設定ってどういうことよ? 訳あり?」
特大の訳ありだな。ていうか、明日奈が鋭い。
マルコは雑種の犬ということになっている。
似た犬種も無い黒系の小型犬で、尻尾の毛並みが体と違うこと、背中に白色の模様が2つあるのが特徴だ。
「愛称は“ちびマルコ”で、本名は“マルコシアス”だ」
「愛称がギリギリ過ぎないかしら? そして本名が無駄にカッコイイ――って、あら? “マルコシアス”? どこかで聞いたことがあるような……」
「おっと、この話題はここまでだ。なー、マルコ?」
「アッオーーーン!」
マルコは「そうだ、そうだ!」と吠える。
「さっきからこの子、アタシたちの言葉を理解してないかしら」
「マルコは下手な人間よりも知能が高い、犬っぽい何かだもんなー。お手! おかわり! おすわり! ちんちん見せるのイヤです!」
「ワン! アン! ワフッ! ……ヒャイ~ン」
うむ、素晴らしい芸だな!
「最後だけ微妙に違うし、後ろ足でバランス取ったまま前足で恥ずかしそうにアソコ隠すって、絶対に犬じゃないでしょ! 利口すぎるっての! しかも、友理まで『犬っぽい何か』って……犬じゃないの認めたし!」
「明日奈、アナタ疲れてるのよ」
「そのネタもう2回目よ!」
今日も明日奈のツッコミはキレが良いな。
「でもさ、難しい話抜きにマルコって可愛らしいだろ? 家でも人気者になったし。明日奈も可愛がってやりなよ」
「うっ、確かに小さくてカワイイけど……」
「お手でもさせてみろって。肉球の感触に癒やされるがいいさ」
マルコをジッと見つめながら明日奈は手を差し出し、
「マルコ~お手っ♪」
何だかんだで期待した弾んだ声で言えば、
「……ワフッ」
――ペシッ!
前足で伸ばした手を払われた。しかも、かなり雑に。
どうやら明日奈はマルコに嫌われたらしい。
「この犬っぽい何かがぁああああああああああああああああっ!!」
「ワッフッフフ~ン♪」
直後、お怒り心頭な明日奈vs「ヘヘン! やーい、捕まえてみろー!」なマルコの追いかけっこが勃発したのであった。
「明日奈ったら、子犬を相手にあんな怒って……」
「アハハ! 楽しそうだなー、私も混ぜろー!」
「明日奈ちゃ~ん、マルコ~、周りの人に迷惑掛けたら“メッ!”よ~」
「いやー平和だなー、うん」
その後、凛子が追いかけっこに参戦したり、疲れて倒れ込んだ明日奈の頭に乗っかったマルコが勝利の遠吠えをしたりして、花見は無事に終わった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
花見を終えた日の夜。
ボクは1人、山の空けた場所に来ていた。
普段から人が来ることは少ない山とはいえ、ちゃんと後処理をしないといけない位、ボクの周りは荒れ果てていた。
マジメに直すので山の持ち主は許してほしい。
「ふぅ、今の体じゃこの力の最大威力はまだ厳しいな……」
ボクは目の前にできたクレーターを見ながら1人ぼやく。
異能に目覚めてからというもの、時間を見つけては検証する毎日だ。
それだけボクの異能は……やれることが多すぎた。ゲームでは出てこなかったものまであるせいで、1つ1つの確認が面倒で仕方がない。
原作の異能の器用貧乏による問題点を解消しようとして、別の意味でまた器用貧乏になりそうになるとはこれ如何に?
「そろそろ戻らないと、睡眠時間が無くなっちゃうよ。ふぁ~あ……」
寝る時間になってからコッソリ部屋から抜け出し、目覚めた異能を使って山まで来れるようになったのは良かった。ボクの異能は良くも悪くも目立つから、様々な異能を試すことができる施設の利用が難しいのだ。
ただし、子供にとって貴重な睡眠時間がどんどん削られる。
「今日の花見、楽しかったなー」
帰る支度をしながら、昼間の花見で『ヴァルダン』のヒロインたちと終始笑い合っていた光景が脳裏を過ぎる。
前世ではできなかったバカ騒ぎが、こんなに楽しいとは思わなかった。
「あの月の下で夜桜するのも、大人になったらいいかもしれ――あ、ダメだ。その頃には他にもメンバーが増えているだろうし、みんな酒を飲んで余計に騒ぎが大きくなる未来しか考えられないや」
金色に輝く月と、銀色に輝く月。
2つの月に照らされての夜桜、前世で1度だけしたものとはまた別の風情があるだろうにと、ちょっとだけ残念になる。
と、2つの月を見ていたら変化が。
「ん? 銀月の方、何か光ってる?」
まるで何かが落ちてくるような光が……はっ!?
「もしかして流れ星か!?」
本物ならボクが願うことはただ1つ!
目を瞑り、祈りのポーズで願いを素早く言う。
「ヒロインのみんなを主人公から護れますように、ヒロインのみんなを主人公から護れますように、ヒロインのみんなを主人公から護れますように!」
どうだ! 落ちきるまでに3回は言えたか!
確認のために目を開けたボクの、その目に映ったのは、
「……あれ? あの流れ星、こっちに向かってきてない?」
落ちる方向を変えて迫ってくる流れ星――否、隕石の姿が!!
しかも、どんどん速くなってボクに迫ってくる!?
「いやいやいや! おかしいおかしいおかしいって! どんな天文学的な確率だよっていうかさっきから逃げてるのに追いかけてないかアレってよく見たら隕石ですらねぇじゃないか何なの何なの何だって言うんだ来んな来んな――こっち来んなぁあああああああああああああああああああああ!!」
ボクの願いは空しく夜空に響くだけだった。
謎の流れ星は勢いを殺さないまま…………ボクに直撃した。
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◇
……後に、ボクは語る。
あの“裏パスワード”が全ての引き金だったなんて思わなかったと。
この時の流れ星との出会いが『ヴァルダン』に――この世界に、隠された真実と向き合うことになる物語の始まりだったと。
そして時間は高校入学の数日前まで進むのであった。
ちょっと後半、「なろう」だからできる表現に初挑戦。
次回から一気に時間が飛びます。