SS 柚木友理・非公認ファンクラブ(後編)
想像以上に長くなったので今日投稿。
お待たせしました。
時刻は放課後16時。
全ての準備は整った。
「ではこれよりぃ! 我々、非公認ファンクラブ調査団は行動を開始するぅ! 各自は無線にて情報共有を優先するように!!」
教室内にボクの声が響く。
中にいるのは仲間内だけなので当たり前だが。
「おー! 何か楽しそうー!」
「そうね。楽しそうね。本当の目的の件がなければ……」
第1チーム、凛子&小夜ペア。
対照的なテンションの2人だがきちんと動いてくれる……はず!
「フッ、とっとと終わらせよう。夕暮れ時は本来、我にとってもっとも動く時間。闇夜の刻となる前の、熾烈な争いすら起こりえる時間帯なのだから」
「クロバ・ルイ……格好良く言っているとこ申し訳ないのだけど、ようは日が暮れた頃になると、スーパーの値引きシールに吸い寄せられた主婦と商品の取り合いがあるから早く帰りたいってことでしょ。生徒会長からの正式な依頼っていう体で手伝うことになったから仕方なくいるだけで」
第2チーム、瑠維&レイカペア
結成数日にして、凸凹コンビの認識になり始めた2人。
「ユウちゃんを応援する資格があるのか……お姉ちゃんが見定めます!」
「ワタクシを抜きにファンクラブなど……会長の座を手に入れねば!」
第3チーム、秋穂&マヤペア。
やる気はある……あるけど……どうも方向性がおかしい。
「マルコ、さっき話したとおりです。いいですね?」
「ワンッ!」
第4チーム、忍&マルコペア。
ここに来るまでで、事前に打ち合わせをしたらしい。
尚、アルカは例のごとくお休みである。ちょいふてくされた感じの声で、夕飯に唐揚げを要求された。別にいいけどさぁ。
「友理のファンクラブかぁ。応援するべきか迷っちゃうなー」
「見つけてから考えればいいさ。害があるなら生徒会長が適切な処罰をしてくれるだろうし。……その前に友理の怒りが向けられそうだけど」
第5チーム、美江&めぐみペア
めぐみはともかく美江さんや、迷わずに“応援しない”を選択してよ。
「くっくっく……最強の布陣ではないか!」
「忍ちゃんのところ以外を見てそう判断したんなら、アンタの目は節穴ね。まぁアタシも、今回ばかりは好奇心が勝った訳だけど……」
第6チーム。ボク&明日奈ペア。
僅かな痕跡でも、今日中に探し尽くしてくれるわ!!
あ、香坂拓也には帰ってもらいました。別にいてもいいんだけど……どうも嫌な予感がしたので追い払った。こういう時は自分の勘を信じます。
「では諸君! 何としてでも『柚木友理・非公認ファンクラブ』を見つけ出して処罰してやろうぞ! 悪魔崇拝者共に天罰を!」
「……友理さぁ、表向きの理由は非公認ファンクラブの数と内容を調べることでしょうが。せっかく八千代さんから許可もらったんだから、最低限は取り繕いなさいよ。後半に関してはメチャクチャだし」
それぐらい焦燥感があるんだよ明日奈!
「それでは、各自行動開始!!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
行動を開始してから半刻が経過。
手がかり――まるで無し!
「どこだ~どこで活動してやがる~~~?」
「せめてその邪悪な気配を消しなさい。隠密行動も大事だって話したアンタがそれしないでどうすんの? さっきだって気配を敏感に感じ取ったらしい小鳥が即座に逃げて、逆にカラスが寄って来たじゃないの……」
「学園が広すぎて中々見つからないのが悪いんだよ!」
部屋数も多いから痕跡探すだけで時間が掛かるんだ。
「ところで……」
「何?」
「ツッコむべきか迷っていたんだけど……アンタ、何で扇子と棍棒をそれぞれ片手に装備してんの? 雰囲気のこともあって、下手にまだ学園に残ってる生徒に見つかったら学園七不思議にランクインしてもおかしくないわよ?」
「『恐怖! 扇子と棍棒を持って徘徊する女!』みたいな?」
「そんな感じ。で、そのアイテムを持つ心は?」
「もしかしたら僅かな可能性として『柚木友理ファンクラブ』など存在せず、『柚木友理と扇子と棍棒』という集まりの可能性も――」
「ねーわよ。どんな集まりだっての。活動内容は何なの? アンタ、実は自分で考えているよりもファンクラブの存在に動揺してるでしょ?」
「当たり前だろ!」
現実的に考えてみろ!
アイドル活動してる訳でもないのに、自分のことを推してる集まりがあるんだぞ? そんな集まりが自分の知らないところで活動しているなんて普通に嫌だ! 公認じゃないなら尚更だ!
「対象はアンタなんだし、アタシの予想じゃ学園入学初日にやった模擬戦を見て、憧れでアンタのファンになった説の方が高いと思うけど……。もしも本当にそうだったら大目にみなさいよ」
「……大目にみるよ。本当にそうだったら、ね」
憧れで集まった結果なら諦めるよ。
正直言って、あの模擬戦と一月程度の学園生活だけで集まりができるとは思えないけど。『ヴァルダン』系の大きなイベントもまだなんだぞ?
ボクが動揺しているのは別の理由が原因だ。
「あー、やっぱり八千代さんの言っていたことが気になる?」
「まあね……」
『柚木友理・非公認ファンクラブ』が存在している可能性があると聞いてから、ボクは八千代さんに知っているかぎりの情報の提示をお願いした。
結果、“可能性がある”と曖昧なだけあってあくまでも生徒がそれらしい話を聞いたと、ボクを遠くから見つめる生徒がいたと、こんなのばかりだったけど……1つ、聞き逃せないことがあった。
「そのファンクラブと思わしき集まりができたのが、2年前からの可能性があるってどういうことだよ? ボクまだ中学生だぞ?」
「それね。本当だったら時期的におかしいわ」
ある意味、凛子たち仲間内が調べるのに協力してくれたのはそれが大きい。最初は明日奈みたいに例の模擬戦で~って意見もあった。だけど、2年前から存在している可能性が出てからみんなのやる気が変わった。
「アンタが『何年も前からボクをストーキングしてる奴が布教した結果できた邪教だったらどうすんの!?』って涙目で訴えたのが決め手ね」
「ネタでも冗談でもなく、ガチだったら普通に怖いです」
「ごもっとも」
その可能性に気付いた瞬間、全身に鳥肌ができたよ。
世のストーカーに悩まされる人々の気持ちの一端を理解したわ。
――と、
『ジジジ……友理さん、聞こえますか? どうぞ』
「! 聞こえるぞ忍。どうぞ」
別行動中の忍から無線が!
『例のファンクラブの者と思われる人たちが集まっている場所を突き止めました。どうぞ』
「でかした忍!!」
ついに尻尾を掴んだか!
「それで、場所は? どうぞ」
『はい。場所は――』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「お持ちしてました」
「ワンッ!」
「待っててくれてありがとう忍、マルコ」
「うっわー……こうして側で見ると大きいわねー」
連絡を受けてから数分後。
ボクと明日奈は忍が突き止めた場所――時計塔前に来ていた。
この学園の時計塔は、その大きさから敷地内でも少々外れた位置にあり(中央に建てる案もあったけど、晴れの日にできる影の大きさ・万一崩壊した際の被害などの理由で却下に)、近くには倉庫ぐらいしか無いから滅多に人も来ない。隠れて何かするには丁度良い場所だったみたいだ。
「この中にいるの?」
「みたいです。時計塔の中央あたりに資料などを保管するための部屋があるそうで、そこを借りているようですね」
「へぇ~良く調べたわね、この短時間に」
「! ぐ、偶然、話しているのが聞こえてきまして……」
? 何だ、忍の様子が……?
「忍? 何をそんなに緊張してるんだ?」
「あー、いえ、何でもないです。何でも」
「アウ~アン!」
「あ、そっか。そういうことね」
それなりに長い付き合いだからわかるけど、どうも今の忍は緊張しているというか、挙動不審だった。
違和感を覚えてもう少し聞こうと思ったけど、マルコの「主人~忍の不安になるのも仕方ねえだろ? ちょいと考えれば分かるじゃん」との言葉で気付いた。
そうだ。もしかしたら中にいるのは純粋な憧れで集まった集団ではなく、ストーカーとその予備軍みたいな連中なのかも知れないんだ。下手したらロリ枠の忍に下品な視線を送る奴だっているかもしれない! 緊張して当然じゃないか!
「安心しろ忍。きちんとOHANASIしてくるから」
「“お話”て、アンタのそれは物理が伴う可能性があるんじゃ」
「だから他のみんなは呼ばないんだよ」
「やっぱり“OHANASI”の方じゃない……」
「だ、大丈夫です。一緒に付いて行きます!」
ぎこちなくも笑って見せる忍。
守りたいぜこの笑顔……!
「よし、行こう」
気持ちを切り替え、3人と1匹で時計塔の中に入る。
中は全体的に薄暗かった。小さな明かりがある程度だ。
エレベーターもあるけど一階と最上階しか繋がっていないらしいので、目的地の時計塔中央部まで地道に階段を上ることに。
無言で階段を上っていくことしばし。
ついに目的地に到着した。
「……ここか」
扉は閉まっているけど鍵が掛かるタイプではないようだ。
このまま開けても問題ない。
後ろにいる明日奈、忍、マルコに合図を送り――ドアノブに手を掛けた。
――バンッ!
「失礼する!!」
「「――っ!?」」
「うわっ、ビックリし――」
「え? へ?」
「「「ゆ、柚木友理さん!?」」」
ドアを開けた先の資料室は意外にも明るく、広かった。
そこにいた学園の生徒も意外と数がいる。
3年生と思わしき男女2人は完全に固まっている。
2年生らしき人たち4人はそれぞれ仰天していた。
1年生――同学年の奴らは結構多い。え~っと、全部で9人か。いや多いな。こっちはボクの名前を呼んで目が飛び出そうなくらい驚いている。てか、記憶に間違いなければコイツらボクのクラス以外全部のクラスに2、3人ずついたぞ! マヤを含めたらフルコンプじゃんかクソったれ!
しっかし、む~ん……
女子も数名混ざっている時点で分かっていたけど、コイツらの目や表情を見るに驚きながらも嬉しさの感情があるな。
これは憧れって意味でのファンクラブ決定か?
じゃあ大目にみることになるのか?
ふ、複雑だ……
とりあえず最低限の確認だけでもするか。
そう思って口を開き掛けた時、後ろで様子見をしていた忍が意を決したような顔でボクの前に出た。
「忍? ここはボクにまかせ――」
「「「「会長!!」」」」」
……
…………ん?
「波木忍名誉永代会長!! どうして柚木友理さんと一緒に!?」
………………んんんんん????????
え? え? ……はい?
んと、つまり、その……どういうことだってばよ?
ちらと視線を向ければ明日奈もボクと同じらしく、頭のうえに大量の?マークを浮かべたような表情になっていた。
そんな思考が現実に追いつけないでいるボクらに、忍が衝撃の事実を告げる。
「えっと、すみません。私が全ての黒幕(?)です……」
ど、ど、ど、
「「どういうことおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!?」」
ボクと明日奈、2人揃っての魂からの叫びだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
落ち着いてから聞かされたこと。
それは完全に見落としていた衝撃の事実だった。
「じゃ、じゃあ! キミたちって、忍と同じ施設にいた子供たちなの!?」
そうだ。考えれば当たり前のことだった。
完全に頭から抜け落ちているとかアホかボクは!?
「はい! ずっと、ずっとお待ちしていました!」
「数年前、アナタに助けていただいた無力な子供です」
「ネズミーマスクさんにまた会いたいと願った子供です」
「「「オレたちの大恩人です!!」」」
向こうは学年に関係なく、感極まっている様子。中には必死に涙を堪えている奴もいる。女子の1人は涙腺が完全に崩壊しているし……
「あー、そうよ。そうよね。何っでアタシったら友理と同じで見落としてたのかしら? 忍ちゃんがいた施設は違法に人体実験していた場所で、その実験は異能に関することで、ともすれば当時の友理が助けた子供たちは異能使いで、成長すれば法律によって全員この学園に入学するじゃないの。忍ちゃんを基準に考えていたけど、その忍ちゃんは最年少で、当然年上の子供もいるわけで、その子たちは忍ちゃんより先に学園に入学してるのよね。アタシらの先輩や同級生として……」
唯一事情を知っている明日奈がボクの言いたいことをブツブツと代弁してくれた。「すぐに気付きなさいよアタシ」と四つん這いになりながら。
「あー……忍会長、説明プリーズ」
「あ、はい。保護施設で暮らしていたみんなは突然私が1人暮らしするということに当然のごとく驚き、心配からこれでもかと質問攻めに遭いまして……」
元々同じ境遇の子供たちで、仲間意識も当たり前のように強い。
そんな子たちからしたら最年少組で、姉のように慕ってた人物を亡くした忍は本当の妹のように可愛がりたくなる存在であり、急に施設の大人たちも説得しての一人暮らし云々はまさに寝耳に水で、どういうことなの!?と上へ下への大騒ぎに――とのことらしい。
ちな、忍の説明にボクのファンクラブ(仮)のメンバーが補足する形で説明をプラスしてきたので、忍は顔を赤くしている。
……何このカワイイ生き物。
「まあその、最初は友理さんからも必要以上のことは秘密にしておいて欲しいとのことだったので、数回は持ちこたえたのですが……」
「あー、余りにも騒ぎが大きくなって、多少なり秘密を打ち明けないとどうにもならなくなった感じ?」
「ごめんなさい」
「いや、そこは気付かなかったボクも悪いから」
当時のこと――もう会うこともないだろうと諦めていた忍が数年越しに会いに来たことで、驚きと嬉しさがミックスして相当テンパってたっけ? 隣のアパートに住む話が流れで出た時も『よっしゃ! 合法的にヒロインがお隣さんになるぜ!!』と、深く考えずGoサイン出してたような……
そりゃ施設仲間から心配されるわ。
「問題は施設仲間の1人――私の1つ上の子がとても勘が良い人でして、『もしかして、ネズミーマスクさんが関わっているの?』との問いに誤魔化しきれず動揺してしまいまして」
さらに続く忍の説明を要約するとこんな感じ。
・施設仲間「何!? 自分たちの大恩人が関わってるのか!?」と収拾が付かない程の騒ぎとなり、忍は観念。最低限だけ情報を開示。
↓
・忍の2つ年上の女の子が『ネズミーマスク』の正体と分かったので、何らかの形で恩を返したいなぁ……
↓
・同じ異能使いで同じ県に住んでいるなら、同じ学園で学生生活することになるよな? しかも重大な使命(?)があって忙しい生活が待ってるってことは、入学するまで2年の空きがある忍の変わりに表立って、または裏だって手伝いすることのできる人材が必要な時も出てくるんじゃ……
↓
・じゃあそういうクラブ作ろうよ!!
↓
・今の3年生「よし、2人でも学園の情報収集は1年あれば十分だ!」
↓
・今の2年生「私たちが来たらクラブの骨組みを作りましょう!」
↓
・同級生「オレたちが入学したら本格始動だ!」
↓
・施設仲間「というわけで、忍ちゃんが会長に決定!」
↓
・忍「何でこんなことにぃいいいいいいいいいっ!?」
――以上、ファンクラブ(仮)の創設秘話でした。
「忍ちゃんも大変だったのね……!」
「分かってくれますか明日奈さん……!」
説明を終わった頃になって疲れ切った表情になった忍の頭を、明日奈がナデナデしている。おいバカ。そこはボクのポジションだぞ。
「え~っと、つまりファンクラブだと思っていたキミたちの正体って……」
「正式名称『柚木友理さんを、影ながら、お手伝いしよう』クラブ。略して『YKOクラブ』です! 普段はバレないように『ユコクラブ』で通しています」
「別人のファンクラブになってね!?」
中途半端にバレたら「“ユコちゃん”って誰?」と別の問題が出てきそう。
「というわけで、忍が“隠しきれないので丁度良いし早期に存在を明るみにしちゃいましょう”と思ったなら問題ありません。是非困ったことがあればオレたちに相談して下さい! それぞれの分野や部活動に役割を分けているので、すぐに行動できますよ?」
「「「「「よろしくお願いしまーす!!」」」」」
「楽しそうだなキミら……」
さすがに「クラブ解散!」とは言えなかった。
全員、目が使命を帯びたギラつきしてるんだもん! 断れるか!
こうして、ボクのファンクラブ()を巡る問題は無事(?)に解決した。
手伝ってくれた凛子たちには「予想外に無害なクラブだったんで大目にみることにした」と報告。詳細を聞きたそうにしていたけど、ボクや忍の何とも言えない遠い目を見ていろいろ察してくれたのか、それ以上の追求はなかった。
みんな良い子だなぁホント。
お姉ちゃんとマヤだけは最後まで諦めきれずにいたけど。
そうして疲れ切ったボクは忍に残りの事後処理を任せて一足早く家へと帰る。――あ、帰りに唐揚げ用の鶏肉買わなきゃ。
「友理さんには必要以上に疲れさせてしまいましたね……ところで、今回の議題の件はどうなりました?」
「はい会長! 柚木友理さんに告白しようとしていた2年男子生徒の件ですが、『相応しくない』と全員一致で結論が出たので、こちらで絶対に近づかせないように処理をしたいと思います」
「おや? 件の先輩さんは品行方正で、とりあえず告白するだけならあとは友理さんの判断に任せないかとの話ではありませんでした?」
「調べたところ、非公認クラブ『擬人化動物愛好会』の創設者であることが判明しまして……」
「良くやってくれました」
これにて『エロゲ世界』第2章のSSは出し切りました(めっちゃ時間掛かったな)。
次回からは『アルビノ少女』の続きを執筆いたします。プロット確認せな……
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