SS 八千代の平穏
なぜ毎回、想定よりも文章が長くなるのか……
【side.八千代】
慌ただしい日々が過ぎ、無事にレイカちゃんを我が学園に転入させることが叶った日――その放課後。
生徒会室をちょっとだけ暗くなった日の光が照らしてる。
光はちょうど私の後ろから差しているので、生徒会長としての威厳が増したような気がしたりそうでなかったり。
そんな私が座る生徒会の執務机。それを挟んで友理ちゃん、明日奈ちゃん、瑠維ちゃん、そしてレイカちゃんと勢揃いしています。
「それではそれでは~皆さん揃いましたので、約束通り! 今日から1週間ほど友理ちゃんたちには生徒会のお手伝いをしてもらいまーす!」
「「ちょっと待って」」
んー?
明日奈ちゃんとレイカちゃんから同時にストップが入りましたね?
「どうかしました?」
「あ~……たぶんレイカちゃんと同じ質問になると思うんだけ――ですけど、当初の約束では友理と瑠維ちゃんだけが生徒会の手伝いをする約束でしたよね。何でアタシやレイカちゃんもそれに駆り出されるので?」
「私も、コウサカ・アスナと同意見なんだけど……」
明日奈ちゃんは「嫌な予感がする」と呟きながらこちらの様子を伺い、レイカちゃんは真顔で私の目を見てきます。まるで真意を問いただしそうとするかのように、「学園で1番偉い生徒がウソとかつかないわよね?」とでも釘を刺すように。
そう、私は何の間違いかこの学園の生徒会長!
引き継ぎをして卒業された先輩たちが「不安だ……」とこぼしたとしても、生徒全員の模範となるべき生徒会の頂点!
心は痛みますが……
真実を話しましょう。
「……レイカちゃんを合法的にこの学園へ転入させるにあたって、私と友理ちゃんはこの2週間近く土日休み返上で関係各所へ働きかけました。それこそ、休みの日に片付けようと予定していたアレやコレが遅れてしまうぐらい動き回りました」
「は、はぁ……」
「そして、生徒会長としての業務に支障が出て想定よりも手伝って貰うことが多くなった場合――明日奈ちゃんにも強制的に手伝ってもらうと、友理ちゃんはハッキリ断言してくれたのです!!」
「何を勝手に人の名前使っているのーーー!?」
「ぐえ゛っ゛!?」
おぉ、恐い。
明日奈ちゃんが友理ちゃんの首を絞めています。
あくまでおふざけの延長戦のような首絞めですが、生徒会長としては見過ごすわけにはいかないほど、友理ちゃんの首が揺すられています。
まぁ、自業自得なので見て見ぬ振りですが。
秋穂を加えた他の生徒会役員共々、別の仕事を振り分けて正解ですね。
あのシスコンは信頼していますが、こと妹である友理ちゃんに関わることとなると途端にポンコツに早変わりしますから……
首絞め案件など見たら、また面倒になること確実です。
えぇ、いい加減私も学習しました。柚木家は姉妹揃うと面倒くさいと。
「どういうことか40文字以内に答えろバカ」
「イエッサーマム! 明日奈はボクの協力者なんだし、少しぐらい手伝ってくれてもいいじゃんさと軽く考えました!」
「軽く考えるな! しかも41文字じゃないの!」
「裁定が厳しい!?」
ギャースギャースとうるさくしていますが、これこそ学園で送るべき青春の在り方なのだと思います。勉強も大事ですが、こういう友人との何の縛りも無いバカ騒ぎはお金では変えない特別なものですからね。
私がウンウンと頷いていると、今度はレイカちゃんが。
「私がユズキ・ユウリたちと手伝いをする理由は何かしら?」
「その件ですか……」
これも、真実を言うのは心が痛みますが――
「具体的なお手伝いしてもらいたい仕事量を伝えたところ、瑠維ちゃんが『1人でも多ければ早く終わるのだろう? ならば! 我がするのだから、我が世話をするレイカちゃんも共に手伝いをするのが絆を深める一歩となると思えないだろうか生徒会長!!』と言うので……生徒会長権限で承認しました」
「全然これっぽっちも思えないわよ!?」
「ぐえ゛っ゛!?」
あぁ! 額に青筋を浮かべたレイカちゃんが、瑠維ちゃんの胸倉を掴みました! 非常にデジャブです。具体的には数十センチ離れた場所で未だに明日奈ちゃんが友理ちゃんに突っ掛かっている構図そっくりです!
「あ・な・た・ね~……! 人を巻き込むにしても事前に説明ぐらいするべきじゃないの!? まだまだこの学園の空気に慣れてないのよ私は!」
「フッ、我は友理との付き合いで学んだのだ。こういうのは無理に手を引いてでも駆り出すのが、将来本人のためn――」
「は?」
「だってお手伝いの量が想像してたよりも多いから、人数増やして早く切り上げたかったんだよ~! スーパーの特売りが無くなっちゃうの~!」
あー、そういえば瑠維ちゃんってご家族のために夕飯の買い物とか積極的にしていると聞いた覚えが……
「“トクウリ”が何かは知らないけど、だったら最初から言いなさいよ……! それと、サイオンジ・ヤチヨ生徒会長!」
「うん? 何かしらレイカちゃん?」
「その『レイカちゃん』呼びのこともそうだけど……アナタ、仮にも組織の長なら何でもかんでも許可するべきではないんじゃない?」
なるほど。一見すればぐうの音も出ない正論でしょう。
ですが、
「ご安心下さいレイカちゃん。私、これでも昔から人がギリギリ許容できそうなラインを見極めるのが得意なんです。ですから、今回の悪ふざけ――コホンッ! 友理ちゃん、瑠維ちゃん両名からの要請も見極めた上で許可しているのです!」
「悪ふざけ!? 今、悪ふざけって言わなかった!? どの道、胸を張って威張るようなことじゃないでしょう!」
「残念ながら今後1年は私が法で、私が裁判官です。脳内裁判の結果、被告人の西園寺八千代ちゃんは無罪判決となりました」
「どんな穴だらけの裁判なの!?」
あらあら、こうして見るとたった1日で随分明るくなりましたね。
先日の人生に達観したような暗い瞳がウソみたいです。
今だって「本当にこの生徒会長、下克上してやるべきかしら……」なんて小声で言っていますし、友理ちゃんが断った生徒会の推薦枠をレイカちゃんに使おうかしら? うーん、でも難しいかもしれませんね。レイカちゃんの側に瑠維ちゃんか、友理ちゃんがいて初めておもしろくなりそうですし、1人だけ入れても寂しいだけになるかも?
今この子に必要なのは、やはり同年代の友達でしょうし……レイカちゃん本人にやる気が無い内は保留ですね。
「ではでは~、場も暖まってきた事ですし、そろそろ4人にはお手伝いに入ってもらいましょう♪ 今日は備品の移動ですね。こちらの紙に書いてある物を生徒会室から各教室へ、もしくは各教室から生徒会室へ運んでくださいね」
「「「「はーい」」」」
始まる前から非常に疲れた様子の4人が返事をし、各自動き出したのを確認し終えた私は自分の仕事に取りかかります。
基本はハンコを押すだけの作業ですが、ちゃんと内容を確認しなければたまに変なものが混じる時もありますし、責任重大なのです。
「変なものといえば……」
そういえば小学生のいつ頃だったか、『ライオンマスク』名義で私宛に魔法少女モノのグッズが毎年プレゼントされるようになったことがありましたね? 結局ライオンマスクさんなる人物がどこの誰で、どうして神社の娘である私に魔法少女モノを送って寄越したのかは最後まで謎だったけど。
まぁ、当時の私にはそんなこと関係なく目新しい玩具だったこともあってよく遊びましたが。えぇ、両親は苦笑いでしたよ。それまで見なかった朝の魔法少女アニメを見始めましたし、実を言うと……今でも空いた時間に見ています。最近のは子供向けというより大人向けのものも多いのでよりどりみどりですね。時を掛ける系は良作でした。まさか主人公が変身するのが最終回だけとは……
(中学生になった辺りでは大量にグッズが送られてきて、扱いきれずに学園祭のバザーに出した年もありましたねー)
何であの年だけ多かったかは今でも不明です。
神社にある大事な社の1つが半壊して両親が慌ただしく動いていたのが印象的な年でしたが……
「他に特別なことなんてありましたっけ?」
茜色に染まってきた空を見上げて呟いた私の独り言。それ答える人は生徒会室にいません。友理ちゃんの肩が一瞬上がったような気もしますが、ただの偶然でしょう。真相は永遠に闇の中でしょうね。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【~数年前~】
満月の夜。
その少女は内心でウキウキしながらも、コソコソと行動していた。
「大事な秘密の社か~、うふふのふ♪ まさかずっとボロっちいと思っていた社にそんな秘密があったなんて……お父さんは『入っちゃダメ』って言っていたけど、神主であるお父さん自身どうして入っちゃダメかまでは分からないって話だし、これは私が調べてみるしかないな~♪」
彼女の名は西園寺八千代。
今年から中学校に通い始めた、この神社の1人娘である。
中学生になったのを期に、神主である父親から今まで知らなかった自分の暮らしている神社にまつわることを聞かされた八千代だったが……
「! 見えてきた。夜だと雰囲気があるなー」
如何せん。彼女は好奇心旺盛な性格だった。
中学校という小学校時代とは別の環境に――少し大げさに言えば一歩大人に近づいているような気もして調子に乗りやすくなっていた。
父親から聞いた社の1つが神社で最も古くから存在し、今では“入ってはいけない”ということ以外話が伝わっていないものに興味を示した。
ぶっちゃけると、「中が見たい!」とそれだけの話だ。
「右よーし、左よーし。付近に私以外誰もいませーん。ではでは~秘密の社にこのくすねてきた鍵を使って侵入してみましょうー!」
無知な彼女は知らなかった。
この行動が、己の人生の最大の失敗となる結果に繋がることを。
――ドォオオオオオオオオオオオオンッ!!
「きゃあっ!?」
そして彼女は知らなかった!
そんな運命に唾を掛けて蹴飛ばすような存在が自分よりも先に行動したことで、悲劇が事前に回避されたなど!!
「ビックリしたー。何今の音? 雷? 雨も降ってないのにどうs――へ?」
周囲に轟いた音に驚いていた八千代が再び件の社に目を向ければ、そこには屋根にあたる部分が雷の直撃でも喰らったかのように黒焦げ、上の方からボロボロと崩れていく様が……
「え? は? え、ええええええええええええ!? た、大変!? お父さぁああああああああああああん! お社が大変んんんんん!!」
目が飛び出るのではないかというほど八千代は、このことを神主である父親に知らさなければと急いで元来た道を全速力で戻る。
かくして、本来であれば西園寺家を襲うはずだった悲劇は無くなり、変わりに社へ入ろうとしていたことがバレた八千代が父親からこってり絞られる程度で済むこととなった。もちろん、八千代たちは一体どんな悲劇と隣り合わせだったのかを知ることはない。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
八千代が社に近づいたのとほぼ同時刻。
1人の幼さが残る少女は、その社の地下に降り立っていた。
そこにあるのは異様な空間。
頑丈な紐とそこに括り付けられたお札が空間の至る所を埋め尽くし、中央には地面に刺さった木の杭がある。
まるで何かを封印するかのように。
杭にはいくつもの紐が結ばれており、かつては独特の存在感を醸し出していたのだろうが……悲しいかな、永すぎる年月によってボロボロの有様であった。
「これ、紐にお札? それに木でできた……何?」
『その紐とお札に触っちゃダメ。危ないよ』
「う、うん。えっと、この木(?)を引っこ抜けばいいの?」
『うん。それがボクを苦しめるんだ。お願い助けて!』
暗い地下であるはずのそこは、僅かに光っている場所があるおかげで足下に不安がないぐらいには暗闇でも見ることができた。
その場所から聞こえてくる声は2つ。
1つは、声が震えている幼い少女のもの。
もう1つは、男の子か女の子かも分からない、ただただ幼い子供だと分かる声の持ち主のもの。ただし、こちらは姿が見えない。
唯一姿を確認できる少女は中央に刺さった木の杭に手を添え、引っ張る。
杭はいとも簡単に抜ける――そう、抜けてしまった。
そして、
『やった……やったぞおおおおおおおおおおおお!!』
杭のあった場所から溢れ出る“妖気”と呼ばれるもの。
大量に噴出したソレが次第に形を取っていく。
ソレは異形。かつて妖怪と呼ばれた存在。
永い間、封印され続けた存在が――今、解き放たれた。
『フハハハ! よくぞw――』
「『第34柱フルフル』! 消し飛べ轟雷!!」
『r――ギヤアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!?』
少女がしたアッパーカットのような動作。
それと同じような動きで下から上へ向かって放たれた天まで届くかのごとき巨大な雷が、復活したばかりの妖怪を跡形も無く消し飛ばした。
妖怪が復活してから死亡するまで――僅か5秒。
噛ませ犬以下の雑な退場の仕方だった。
「いやー、『第72柱アンドロマリウス』の条件に当たったのもあって想像以上にあっけなく倒すことができたなー! ボクの演技力も中々のものみたいだったし、妖怪もすっかり騙されてやんの! これで八千代ルートは崩壊だ!! ――あ、もしもしアルカ? 八千代さん、もとい八千代ちゃん様子どう? うん。うん。ビックリして父親を呼びに行ったと。分かった。じゃあ見つかる前に退散するわ」
~おまけ~
友理(´・ω・)「――というわけで、妖怪は無事に退治されましたとさ」
明日奈(;´・ω・)「想像の数倍、雑な退場ね妖怪……」
友理(-ω-)「う~む、しかし魔法少女八千代の誕生に至らなかったのは本当に残念だった。『ライオンマスク』としてプレゼントしてみたのに……まぁ、上手くいけばいいなぐらいだったから、失敗してもいいんだけどさ」
明日奈( ゜д゜)?「世界一下らない計画ね。……ところでさ、何でアンタはそんなに八千代さんを魔法少女化させたかったのよ?」
友理(´・ω・)「ほら、本人の異能も合わせてさ? 『私と契約して魔法少女になっt――』」
明日奈(;゜Д゜)「言わせるか! え!? それ言わせたいから!? それだけのために行動を!? アンタ、アホじゃないの!?」
友理(´・ω・)「あとはちょい年代が古いけど、神社の娘ってことで元祖赤い美少女戦士の『火星に変わってs――』」
明日奈(#゜Д゜)「言わせるかぁっ!!」




