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SS 瑠維のターニングポイント(前編)


「レイカちゃんめぇ……」


 ズカズカと、如何にも不機嫌です!といった態度で歩く。


「全く! 何が情緒不安定だ! 我の性格が変わるのは宇宙よりさらに壮大な混沌《カオス》における奇跡であると言うに!」


 そう。今の私は地獄の猟犬《ヘル・ハウンド》黒羽!

 滅多なことじゃ、本当の自分は表に出さない。

 だからカッコイイし、クールだし、神秘に満ちてるんだ!


 なのにレイカちゃんったら、言うに事欠いて“情緒不安定なの?”って!?

 中二病は情緒不安定になる病気じゃないのにぃ……!

 もっと言葉で表すのが難しい気高さのある生き方だってだけなのにぃ。


 私が毎朝どれだけの苦労をしていると思ってるんだろう?

 朝起きて顔を洗ったら、洗面所の鏡に向かって「私は地獄の猟犬《ヘル・ハウンド》黒羽……そう誰よりもカッコイイ自分を貫く者! 我の名は、地獄の猟犬《ヘル・ハウンド》黒羽である!!」って鏡の中の自分に言い続けているのに。


 アレをすると、スムーズに中二病モードになれるんだよ。

 ただ、友理は「何とか崩壊が起こるから鏡に向かっての過剰な自己暗示だけはらめぇ!!」と懇願してくる。

 さらに愛しの弟くんは「お姉ちゃん……ボクが悪かったから、外に出る日ぐらいは普通にしてよ。ご近所どころか町全体で有名になってるんだよ」と今にも泣きそうな顔になる始末。お母さんとお父さんも似た感じなんだよね。


 ……しばらく前に友理と家族が話し合ってるのを聞いたけど、「瑠維のお友達として何とかしてください! アナタに1番懐いているんです!」と言う両親に対して「むしろ家族の愛で何とかしてくださいよ! ボクが離れていた数ヶ月で何があったんですか!?」とお互いに私のことを押しつけ合っているようにも見えた。

 解せぬぅ……


 最終的には友理が地獄の猟犬《ヘル・ハウンド》黒羽として生まれ変わった私に色々と聞いてきたけど、1年過ぎた頃になって「もうどうにでもなっちまえ! 堕ちるところまで堕ちれば、一周まわって安全だろ!」などとヤケクソ気味になりつつ眼帯・カラコン・マントの3点セットを誕生日にプレゼントしてくれたっけ。


「ふふふ、あの時は嬉しかったなぁ……ハッ!? い、いかん! 地獄の猟犬《ヘル・ハウンド》はここぞという場面でしか素を見せてはならないのだ! 学園に入ってからたるんでいるぞ我ぇ!!」


 本当のこと言っちゃうと、友理やそのお友達ともお話しできるようになって、これからの生活が楽しみなのが悪いんだもん。

 友理が紹介してくれただけあって、みんな良い子なんだよ。

 中二病モードの私は格好良さの次元が違いすぎるのか中々人が寄って来ないんだけど、友理たちはそれぞれの考え方で納得して付き合ってくれているんだもん。これだけで、気をつけていないと嬉しくて泣いちゃいそうなんだよぉ……



 と、噂をすれば何とやらでご本人登場。




「瑠維ぃいいいいいいいいいいいいい!」




「む? おぉ、我が友である友理ではないか。どうした一体?」


 本当にどうしたんだろ?全速力でこっちに向かってくる。

 あーもう! スカートがめくれそうじゃない! 友理って、そういう女の子の苦労部分が薄いんだよねぇ。特に恥じらい方面とかで。今だって後ろから追い掛けてる明日奈が「風が強い日は気をつけろって何年も注意してんのに、そんな日に全力疾走するな!!」と注意している。


 うん。明日奈すごく大変そう。

 友理って運動神経良いから、中学生の頃から陸上部とかに誘われていたらしくって……平均より走るの速いんだよ。

 で、そんな友理が風のある日に全力で走ると――


「……友理。女の子がスカートで走る時は周りの目に気をつけなきゃだよ? 健康的な太ももとかが、ね? 男子の目に毒だって」


「そんなことはどうでもいい! 中身が見えなきゃ問題ない!」


 目の前まで来た友理に、思わず素で注意してみるけど……案の定かぁ。

 ここ、普通に学園の人が行き交っている場所だから、さっきから偶然居合わせた男子の目が泳ぎまくっているのに……

 どうして気付かないかなぁ?


「はあ、はあ、この、バカに、女の子と、ハアァ、しての恥じらいなんて……母親のお腹の、中に、置いて来たんでしょう……?」


 遅れて明日奈も到着。

 こっちは息がきれて苦しそう。


「ふぅ……あれ? そういえば瑠維ちゃん1人? レイカちゃんは?」


「あ、そういやどこ行った……?」


「レイカちゃんなら、昼休みの残り時間は1人で過ごしたいとのことだ。先程まで昼食を取りながら会話をしていたのだがな……その際の我との話で思うことが多々あったらしく、少しで良いので気持ちの整理を付けたいと言っていた」


 お昼御飯を食べながらしたレイカちゃんとの話は、私の気持ちを素直に伝えただけのものだったけど、本人としては悪くなかったんじゃないかな?

 憑きものが落ちたような顔だったし。


「……悪くない結果だったってことでいい?」


「あぁ。そこは安心するがいい」


「そっか。……さすが瑠維だな」


「! フフフ、もっと褒めるがいい」


 やった! 友理に褒めてもらえた!

 友達に頼りにされるのって、やっぱり嬉しいな。


「それで? 改めて聞くが、どうしたというんだ?」


「あー、その、ロザリオのことなんだけどさ……」


「ロザリオの?」


 ロザリオ――というのは十中八九、私がお婆ちゃんから中学に上がる前に貰った宝物で、みんなを巻き込んだ先日の騒動にも関係する、今も私の首に掛かっている(制服の内側にあるから普段は見えない)ロザリオのことだろう。


「そういえば、今朝はレイカちゃんの方に集中していたから詳しくは知らんが、後ろの方でロザリオがどうこう言っていたような……?」


 言っていた――というより叫んでいたみたいだけど。

 ついでに拓也くんの呻き声も聞えたなぁ。


「ロザリオの件に関しては解決したと聞いたのだが……もしや、またも外国の勢力が狙っているという話ではなかろうな? もしそうなら、本格的にコレを手放すことも視野に入れるぞ? いくら大切だからと言って、それが不幸を招きし物《パンドラ》であるならば我には不要だ。……何なら、この場でへし折るか?」


 私の持っているロザリオは現代の技術でも制作が困難な、不思議な力を秘めた天然のアーティファクトらしいことを友理から聞かされている。

 大昔に紛失したロザリオが1度例のマフィアの手に渡って、そこから巡り巡ってお婆ちゃんの手に渡ったと……



 ――よくよく考えると変な話だよね?

 何で外国にあった物がお婆ちゃんの持ち物になったんだろ?

 友理は「瑠維の婆ちゃんに聞いてくれよ。マジで」と言って、そのお婆ちゃんに電話で聞いてみたら「あぁ? アンだって? 耳が遠くて聞こえないねぇ」ってはぐらかされた(絶対にウソ。ロザリオの話題になるまでハキハキ喋っていた。親戚全員、お婆ちゃんは100歳まで生きると確信している)。

 何となく、一生教えてもらえない気がするよ。



 ――とまあ、私の持っているロザリオがそんな曰く付きの物になる。


 ロザリオは大切だけど、それのせいで家族や友達に迷惑を掛けるんじゃ何の意味も無い。先日の一件に関してだって、すごく友理に甘える形になって申し訳がなかったんだもん。レイカちゃんのことを抜きにして考えれば、あんな危ないことは一生に一度で十分。

 同じことの繰り返しになるなら迷わず――とまではいかないかもだけど、葛藤してお婆ちゃんとかに謝りつつ公的機関に渡すか破壊するぐらいの覚悟はしている。


 そんな私の覚悟が顔に出ていたのか、友理が慌てる。


「違う違う! そうじゃないって! いや、本当はそうなんだけど、落ち着いて考えたら不味いと思ったわけでゴニョゴニョ……」


「?」


 友理にしては珍しく歯切れが悪いなぁ。


 そんな友理の代わりに明日奈が質問してきた。


「えっとさ? 瑠維ちゃんが今の状態――へ、地獄の猟犬《ヘル・ハウンド》黒羽になった切っ掛けって、いつの何が原因か知りたくて……」


「我が格好良くなった時のこと?」


 あれは確か……


「中学に上がる少し前だったか……自身の将来《フューチャー・ビジョン》について夜空とロザリオを見上げながら考えていたら寝てしまったらしくてな。その時見た夢がやけにリアルで……その中に、今の我と同じ姿があったn――」


「「オーマイゴッド!!」」


「わっ!?」


 友理と明日奈が揃って膝をついた!

 え? どうしたの一体?


「だ、大丈夫か?」


「問題しかない。でぇじょうぶだ」


「すでに矛盾しまくっているぞ……!」


 はぁ。何があったのか分からないけど、


(こういうおかしなところは、全然変わってないなぁ)


 そう初めて会った時から、変わっていない――













 ――あなた、誰?



 ――え~っと、通りすがりの不審者?




 執筆していたら予想以上に長くなったので、区切りの良い所で前後編に分けました。


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― 新着の感想 ―
[一言] >「……友理。女の子がスカートで走る時は周りの目に気をつけなきゃだよ? 健康的な太ももとかが、ね? 男子の目に毒だって」  常にハーフパンツかスパッツか。  そんなのを穿かせる習慣をつけさ…
[一言] 通りすがりの不審者てw
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