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第37話 憤怒の友理

 続きは明日。


・2023/01/29

 小夜&八千代の会話を追加


【side.友理】


 サツジン、ダメ、ゼッタイ……


 作戦の第一段階成功の連絡を入れ、友人たちの勝利と無事を心から祈り、改めて目の前の男を見た際に出た感想がそれだった。

 落ち着けぼく、殺意を抑えろ……!


「あー、こりゃ一本どころか二、三本取られたか?」


 目の前の男――マクシムは「困ったぜ」と軽い調子で頭を掻く。

 いつの間にか付け直したサングラスのせいで、奴の目が見れないのが残念だ。目を見れば本当に動揺しているのか分かるのに……


「しかし、レイカ=氷道にオレたちの標的である黒羽瑠維本人をぶつけてきたか。普通だったらバカの所業だが……何考えてんだ嬢ちゃん?」


「……ボクが考えているのは、いつだって友達の幸せさ」


「その大事なお友達を巻き込んでの作戦かよ」


「オマエの言う“バカ”ばかりだからな」


「そういう友情モノのバカが1番迷惑なんだよ。オレたちにとって」


「その類いのバカに何本も取られた感想はどうよ?」


「言ってくれるねぇ」


 マクシムは皮肉で返されたのが予想外なのかニヒルな笑みが崩れかけていた。正体不明の女ボクじゃなかったら殴りかかってきそうだ。


「だが、まだ甘いな。保険ってのは複数掛けとくもんで――」


「レイカ=氷道とは別の人質確保の部隊なら問題ないぞ?」


 僅かに残っていた奴の余裕の笑みすら消え、無表情になった。

 そりゃ仲間にすら知らせていない別働隊のことまで知っているとは思わんわな。


 だがしかし、ここにいるのは『ヴァルダン』ヒロインたちのために10年近くに渡って青春の一部を犠牲に暗躍し続けた猛者――もといバカだ。異能フル活動の24時間体制で、どれだけ嫌でも盗聴用下級使い魔越しにいい年したオッサンの生活を盗み見る。そんな苦行の道だって進んでやるさ! 二度とごめんだけどな! 特にトイレ事情とか地獄ぞ!?


 でも、それに見合った成果は得られたんだ。


「ちゃーんと、仲間が対処してくれているよ」


 それも今夜に限って無敵の狙撃手になった娘が。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「小夜ちゃーん。今度は11時の方向に270メートルのとこだよー」


「確認したわ――っと、命中。ターゲットは沈黙……残りは?」


「確認できないですね。はぁ、それにしても小夜ちゃんに狙撃銃・・・を渡すなんて。鬼に金棒どころの騒ぎじゃないですよ? 百発百中の異能を持つ人に渡して良いものじゃありません。ゴム弾を使用しているとはいえ、どこでこんなものを……」


「何でも明日奈に一部のマナーがなっていない公安がちょっかいを掛けて、それの慰謝料代わりにふんだくったって言ってました。もしもの時、私に使ってもらうことも視野に入れて」


「あの子は何と戦ってるんです???」


「練習はしたし、反動も……友理印のお薬で体が強化されて問題なしですよ」


「1日しか保たないとはいえ、この『悪意探知機』のアーティファクトも相当なモノなのに……明日奈ちゃんだけじゃなく、友理ちゃんも悪い意味で価値が高すぎます。心労で倒れたら恨んでやりますよ!」


「あら? 心労になるぐらい心配するのは確定なんですか?」


「生徒会長ですから♪」




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「……自分が情けなくなる。何本取られりゃ気が済むんだ……!」


 マクシムから殺気が溢れる。

 それと同時、ボクの常時発動型の異能に反応が出た。他の異能も動員させて、戦闘態勢を取る。



 ………………ふーん、やっぱりそうくるか。



「嬢ちゃん、何者だよ? オレたちのことを事前に調べてるってだけでも要注意人物確定だが……正体を現してから、長い期間を裏の世界で生きてきたオレですら肌がピリピリする程の殺気を出してんじゃねえか」


「そりゃあ、八つ裂きにしたいぐらい憎んでますから♪」


 カウント3、2、1……


「笑顔なのに殺気が増したぞ、おい」


「だって――」



 話をぶった切って『第18柱バティン』の短距離転移を使う。



 それと同時だ。さっきまでボクのいた場所へいくつもの鋭い銀色の液体・・・・・が襲いかかったのは。



 何が怖いかって、その液体は最初に死角から頭と心臓を狙うように伸びて、時間差で避けれる場所へ別の液体が殺到するんだ。

 第六感的なもので初撃を避けても、避けた場所に絶妙な時間差で襲い掛かるソレを回避できる奴がどれ程いるか。凛子でもギリギリだろ。


 そんな不意の攻撃を転移先であるマクシムの背後・・・・・・・から一瞬で確認したら、背中に隠し持っていた非殺傷武器『不殺の刃』を振るう。

 この『不殺の刃』、例によって明日奈作のアーティファクトで、どれだけ暴力の嵐を相手に与えようがHPを1だけ残す異能が付与されている。つまり、憎い相手にストレス発散を好きなだけできる優れものだ!

 というわけで、死なない程度に死ねぇ!!


「――!!?」


 が、そこは腐ってもプロか。

 サングラス越しでも分かるぐらい動揺しながらも、もはや条件反射レベルで袖口から銀色の液体を出してボクの刀を弾いた。



――ガキィィィイイインッッ!



 ……分かっていたけど、液体と刀がぶつかった時の音じゃないぞ?


 袖口から出た途端に液体は鞭状になってボクの攻撃を防いだ。

 でも、完全に防いだわけでもない。


「~~~! ホントに何者なんだよおい!?」


 ボクの刀は防がれつつも、マクシムのサングラスを破壊してのけた。

 咄嗟に距離を取る――てか、ボクから少しでも離れようとするマクシム。動揺が隠せなくなった悪人の面をようやく拝めたよ。


「……事前に知ってなかったら恐いな、その『液体金属リキッドメタル操作・マスター』って異能。ボクが相手で良かった」



 『液体金属リキッドメタル操作・マスター』。

 ようは液体金属を生み出して自在に操る異能なんだけど、応用力が高くて厄介。

 通常では小瓶に入れて持ち運びもできる普通の液体なのに、瞬間的に金属と同じ強度へ変化できる。しかも、液体状態では直接触れていなくても目視可能な範囲内なら変幻自在に操ることができ、今のように周囲に展開してからの強襲なんてマネもできる。

 事前に創っておいた液体金属を柔らかい素材の中へ入れておいて、ボクが立ち止まる気配を感じてすぐ見えにくい場所へ放り込んだんだろうな。音をほとんど立てずに仕込みを終え、話している間に素材を突き破った液体金属を配置した、と。


(そりゃ、ボスの右腕的な立場になれるわな)


 能力も強いけど、使用者本人に才能がある。

 仕込みに気付かせないなんて、場数も相当踏んでいるな。


「オレの異能のことまで調べ上げたのかよ。しかも使えるのが幻術だけじゃないってか。どうやって今の攻撃を……」


「誰が教えるかよバーーーカ!」


 実際、そんな大したことじゃない。

 『第22柱イポス』の限定未来視でどんな攻撃が来るか事前に知ったり、『第45柱ヴィネ』の異能を感知する力で液体金属のある場所を常に把握したり、『第51柱バラム』の攻撃ルート可視化で未来視した場面の補正をしたりしただけだ。


 ……こうしてまとめると大したことあったか。


 まあ初撃をメチャクチャ警戒して短距離転移も合わせて4つも異能を使ったから、異能の息継ぎや精神的な疲労もあって、転移後はアーティファクトに頼るしかなかった。


 だから、仕留め損なったわけだけど……


「オマエの動揺した顔が見られただけでお釣りがくるか」


「随分な言いようだなぁ……!」


 マクシムが歯を食いしばったような憎しみの籠もった目で睨む。

 そうそれ! オマエのその顔が見たかったんだよ!


「そこまで嬢ちゃんに嫌われる理由が分からねえなぁ……」


「えー? だって――」


 そこでボクは、コイツを嫌う最大の理由を突きつける。









「――レイカ=氷道の両親を殺したの、オマエだろ?」









 ほんの数秒。周囲の音が消えたような気さえした。


「な、んで、そのことを」


「今から約9年前のこと。日本人の母とロシア人の父の間に生まれたあの子は、慎ましくも幸せに暮らしていた。だがある日突然、何者かに誘拐される。犯人から要求は身代金。必死に掻き集めれば払えない額ではなかった。指定金額を用意した夫婦はそれを持って犯人と交渉するも、近隣住民から不審者の通報を受けた警察が何も知らずに来てしまう。それを目撃した犯人は隠し待っていた銃で夫婦を殺害。その後、自殺。しばらくして、警察犬によって拘束された少女を発見・保護する。……これが、表向きロシア警察に残されていた記録だ」


「……」


「だが実際は早くから異能を発現させ、才能もあった少女の取り込みを目的とした計画。使い捨ての頭の悪いバカを焚き付けて誘拐をさせ、取引現場で夫婦を殺害、件のバカも自殺に見せかけて殺害した。通報を受けて来た警察の人間も金を握らせたグル。そして両親を失い、引き取り手も無かった焦心の少女に甘言を使って組織へ引き入れた。……それがオマエだ」


 胸クソが悪い話だ。反吐が出るほど鬼畜の所業だ。

 人の命を、幼子の人生を、何だと思ってやがる……!


「……日本みたいな平和な国に住んでいる『Heartギア』に選ばれた奴は、嬢ちゃんぐらいの年までほとんど“縛り”は無いだろ? それは『Heartギア』の登場と同時期に教育制度が見直され、より道徳を重視した授業が取り入れられたからだ。要は『Heartギア』を持っている奴で犯罪者になるもんがほとんどいない。持ってるだけで一種のステータスになるし、食っていけるから。他の国だとこうも上手くはいかねえぞ? 選ばれた時から徹底して犯罪者にならないよう教育される」


「だから、レイカ=氷道を組織に取り込んだのか」


「かなり苦労したんだぜ。奇跡的にそれができる環境が整っていたからな。オレみたいに自分から組織の門を叩く異能者は少ねえ。『Heartギア』の使い手がいるかどうかで組織の地位にも繋がる。なら外堀を無理矢理埋めて、組織に入らせるって考えも出てくるさ。あの女はその記念すべき第1号ってわけだ」


 血管が切れそうになる程の怒りを自分の中から感じる。

 こんなにキレたのは、数年前の忍を助けた時以来だ。


「なあ、その情報はどこから――」


「もういい黙れ。オマエは死なない程度に……殺す」


「良い提案だ。オレも嬢ちゃんを殺さねえといけねえんだ。さっきの奇襲は不発に終わったが、真正面からの戦闘もいける口なんだぜ?」


「……1分後でも同じ口がきけたら褒めてやるよ」


「は?」


 ボクは、こんなクソ野郎だからこそ使える切り札を切った。




「『第72柱アンドロマリウス』!!」




 その後、勝敗が付くまで1分も掛からなかった。





 ソロモン最後の悪魔は条件付きですが本当に強いので小出し。

 ほ、本編では初披露だから!(SSはノーカンとする)


~おまけ1~


 刀型非殺傷武器『不殺の刃』

 友理が明日奈に創って貰った刃の無い刀型アーティファクト。

 名前は前世で社会現象を起こした作品から。前世の友理も明日奈も、映画館へ行って興行収入の上乗せに貢献しました。尚、残念ながら水や炎のエフェクトは出ません。

 友理がポ〇モンの「みねうち」みたいな効果を望んだので明日奈が創ってあげたところ、「よし! これで殺さずにストレス発散ができる!」と笑っていたのを見てしまい、「とんでもない奴にとんでもないモノをやってしまった……」と後悔するハメに。




~おまけ2~


・第22柱イポス:限定的未来視

・第45柱ヴィネ:異能感知

・第51柱バラム:攻撃ルート可視化

・第72柱アンドロマリウス: ? ? ?

     |――(発動条件)相手が絶対悪であること


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― 新着の感想 ―
[一言] HP1残る武器でも刀の攻撃なら、1くらい出血で死ぬのでは? 暴行致死♪
[一言] いったいどんな能力なのか
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