第33話 明日奈強化計画
おまたせしました。
皆さんも、予防接種の症状が出てから普段食べ慣れてないものを食べるのは控えましょう。
特に馬肉。作者みたいにグロッキーになります……!!
2022/12/31
・全体の半分程を修正、追加、削除。あとがきの追加。
さて、どうやって借りを返せばいいかなと考え始めたところで、目的地である屋上へ着いたボクたち。
昼休みは一部の生徒が昼食を取ったりして賑わう屋上は、この時間帯だと寂しく感じるほど人がいない。そんな中で待っていてくれたのは、
「皆さん、おそろいのようですね」
「ん。待ってた」
「ワン!」
忍、アルカ、マルコのトリオだった。
「悪いな忍。八千代さんやお姉ちゃんが生徒会での仕事とかある関係で、毎回半端な時間待たせることになっちゃって」
「お気になさらないでください! 友理さんを待つためなら凄腕スナイパーのごとく、何日でもその場に居座る覚悟はあります!!」
「うん。そんな鬼畜な命令、よっぽどのことでも出さないから心配しなくて良いよ? もっと自分を大事にしよう?」
スナイパー云々ってあれだろ? 何日も飲まず食わず、お花摘み事情も無視してターゲットが来るまで待つって話だろ。
そんなこと忍にやらせたら、本当に誰かに殺されかねない。
友人ズどころか今世の両親にも顔向けできんわ。
「あの子……忍ちゃんだっけ? いい加減ツッコミたいからするけど、もう当たり前のように学園に不法侵入しているよね?」
「聞いたとおりなら入学式の時からだっけ。生徒会長さん的にいいんです?」
良識人代表のめぐみと美江が八千代さんに問う。
この2人は元々人格形成に影響が出るような過去もイベントも無いから、『ヴァルダン』のヒロインたちの中でも特に常識的なんだよな。頭が硬いわけじゃないから時と場合によっては非常識な行いだって辞さないけど、時々ゲームの会話で主人公や他のヒロインのした行いについて客観的な意見を述べるシーンは多かった。
2人の疑問は当然のものだ。
見て見ぬ振りはするけど、気になるものは気になる。
だが残念。問われたのはあの八千代さんだ。
「カワイイので許します!」
思ってたとおりの答えが返ってきた。
めぐみと美江も「ですよね~」と脱力している。
他のみんなも苦笑いだ。
この雰囲気は本当に好きだけど、何のために集まったか忘れちゃいけない。
「時間も押しているし、そろそろ準備するぞー」
「「「「「はーい!」」」」」
うむ。今日もノリが良いな。
では確認! メンバーよし! お弁当よし! では行きましょう!
「『第38柱ハルファス』! 集団長距離転移!!」
2日前から行き始めた目的地。そこは……!
「いざ鎌倉へ!」
「場所も使い方も違うでしょ!」
バシンッ!と、明日奈からのハリセンツッコミが炸裂した。
1度言ってみたかったんだよ……
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『明日奈強化計画』。
それ自体は前々から考えていた。
明日奈の異能『異能物質作成』は本人が思っている以上に希有な異能であり、同時にトラブルの原因にもなりかねない力だからだ。
強いアーティファクトを作ろうと思えば体力や精神力が持ってかれ、短い時間しか維持できない。半永久的なアーティファクトを作ろうと思えば、1度で済まない量の体力・精神力を要求されたうえで時間が掛かり、日常生活にも影響するのでおいそれ作れない。強力なものなら尚更。
これらの理由から明日奈は自身の異能を過小評価している節がある。
とんでもない。
問題となる部分を解決できれば、明日奈は“金の卵”へとなることができる存在だ。その有用性はボクの『悪魔従えし魔導王』をも超える。
個人の戦闘力が欲しいなら、いくらでも優良物件はいる。いるに超したことはないけど、絶対に必要な人材じゃない――それがボクの価値だ。
けど、明日奈は違う。
半永久に残るアーティファクトを作れる力なんて他に替えがいない。文字通りどこも喉から手が出るほど欲しい人材だ。
当の本人は未だ知らないままだが、中学の頃に明日奈を狙っていた変な奴らをボクは懲らしめている。
本気で焦ったよ。
『第9柱パイモン』の力で、『ヴァルダン』の舞台となる学園で使えそうな五感共有型使い魔を召喚して操作していたんだ。ネコだったり、カエルだったり、モグラだったりと。本番前の練習も兼ねてボクや凛子の通ってた中学だけでなく、明日奈や小夜が通ってた中学校でも。
そしたら偶然、教師の1人が明日奈を隠し撮りしてる現場を目撃。
ふぁ!? まさかの変態教師か!? ――と思いきや、小声でブツブツ怪しげなことを言っているたので、嫌な予感もありマーキング。詳しく調べてみました。
犯罪者ではないけど、合法とも言えない組織の一員だったよ。
具体的には国のためなら手を汚すことだってするタイプの人。
教師は表の顔だったらしい。いや、何かあった時のために教師の肩書きを持っている人は数人いるみたいで、たまたまその内の1人が明日奈の通っている中学校にいた模様。どっちかって言うと割合的に本業の方が副業か? どうだっていいけど。
それで、国の手先さんの考えが“希少な異能を持つ少女の周辺を警戒する”だとか“将来的に欲しいからスカウトを検討する”とかだったら良かったんだけど……外堀をドンドン埋めて自分たちの所へ来るよう誘導する計画でした。
お偉いさんはよほど明日奈が欲しいらしい。
ふざけんな、と。
将来就く仕事の選択肢として用意するだけなら、明日奈の人生だから本人の意思を尊重するが、逃げ道を塞いでいくようなやり方を中学生相手にやるとは何事だ! それがオマエらのやり方か!! と、怒髪天を衝く思いだった。
明日奈は――彼女は、この世界で唯一の転生者仲間だ。
その存在は『ヴァルダン』のヒロイン、香坂明日奈の姿をしていることも相まってとても大きいものとなっている。
そんな子に手を出す輩をボクが許すわけない。
何より、あと数年で原作開始なの、余計な手を出され、ボクの計画が破綻したらどうするんだと怒った。激おこぷんぷん丸状態だ。
――なので、
「全力で暗躍して手を引かせました」
「数年越しに聞かされて素直にお礼が言えない……!」
はい。こちら某所にある海岸付近。
2日前、集団長距離転移で最初に降り立った場所は近くに廃墟などがあることから近づく人はいないだろうと高をくくり、実際は肝試しに訪れた奴らがいたせいで速攻バレかけたけど、同じ失敗を踏む友理さんではない!
県を跨いだ別の海岸に転移したうえで、『第71柱ダンタリオン』の力――幻術によってボクらの姿は隠されているのだ!
「ぶっちゃけ最初からそうしなさいよ、と言いたいわ」
「それを言ってはいけない」
明日奈からのごもっともな意見にそっぽを向く。
場所のこととかスケジュール調整とか、やること多いからそれ以外の些細なことは忘れちゃうんだよ。
「アンタってさぁ、前々から思っていたけど変に重要なことはタイミングをズラして報告するでしょ。何? 素直に褒められるのが恥ずかしいの?」
「べ、べべべべべ別に恥ずかしい訳じゃないんだからね!」
「一昔前のツンデレか。キャラじゃないでしょうに。……で実際は?」
「………………好き勝手やった結果だし、あくまでも自分のためだし、それで人から素直に褒められるのは……何か、こう、モニョっとする」
「一昔前のツンデレか。瑠維ちゃんみたくやらかしたこと以上に『ヴァルダン』のヒロインたちを救っているんだから、もっとそこはいつもみたいに堂々とすればいいじゃない。アタシを狙ってた組織? 個人? をどうにかするのに“暗躍しました”で済まないことあったでしょ?」
「確かにそうだけど……でも、そこまで難しいものじゃなかったぞ? 大体がアルカや忍のおかげだし、ボクが普段以上に体を張ったのなんて、暗躍の時間を作るためにガチの滝修行(真冬)して意図的に風邪を引いて学校を休んでたぐらいだし」
「中学の冬、アンタが死にかけそうなレベルで風邪を引いた謎が明らかに」
いやー、真冬の滝を舐めてたわ。
みんなの前じゃ半分演技で死にかけてたけど、残り半分は素だったからなー。お姉ちゃんに看病してもらったからプラマイはゼロだけど。
ちょっと話が脱線してきたので思考を切り替え、額に汗を浮かばせながらも両手を仄かに光らせる明日奈へ語りかける。
「話は変わるけど……どう? アーティファクトの様子は」
「想像以上ね。昨日、一昨日のと合わせて考えても効率が良い。これならマフィアとの戦いに間に合うわ」
現在、明日奈は対マフィア用のアーティファクトを創造している。
もちろん普通に創ってもらっているわけじゃない。
第三者がボクらの状態を見れば首を傾げただろうな。
何せ、ボクは右手を明日奈の肩に置き、残った左手を――
「随分吸い取ってるけど、まだいけるかワニ助?」
「ガァアアア……」
「むしろ暇すぎる? ハハ、ごもっともだ」
召喚したワニ助の体に置いているのだから。
――『第32柱アスモデウス』
それがこの『明日奈強化計画』に必要不可欠なピース。
能力はエナジードレイン。
ボクが触れている対象から、エネルギーをどんどん吸収する力だ。
本来は敵からエネルギーを吸収し疲弊させ、逆にボクを回復させる力だったんだけど……ある時、気付いた。
ボクを中継点にすることで、第三者にエネルギーを供給できることに。
そしてボクは知っていた。『第19柱サレオス』の力で呼び出されたワニ助の体力・気力がアホみたいな量あることに。
明日奈のアーティファクト作成に必要なものが揃えることに。
それらが繋がった瞬間、頭の上にある豆電球がピカッと輝いた!
「そう、『明日奈強化計画』とは別名『ボクを電源コード代わりしてワニ助と明日奈を繋げましょう計画』でもあったんだ!」
「発想は良かったけど練習はすべきだったわね。アンタが盛大に血を吐いて秋穂さんが反乱狂になって大変だったのよ」
「その節は誠に申し訳なく。今は失敗しないのでご安心を」
計画の初日にミスったよ。
ワニ助から吸収する膨大なエネルギーを明日奈へ送り、そのエネルギーを元にアーティファクトを創造してもらう。
その計画は成功を収めたんだ。
……成功に気が緩んだボクの体内でエネルギーが暴発するまで。
そこからは……もうご想像の通りって感じで。
みんなには多大な心配を掛けちゃいました。
(みんながんばっているのに、これ以上心配させるわけにはいかないよな)
少し離れた場所ではマフィアとの決戦に向けて特訓が行われている。
今も、香坂拓也が凛子の手で宙に放り投げられていた。
「ガー……」
「あぁ。ここまで巻き込んだんだ。絶対にあの子を助けような」
「いや、さっきから『ガー』としか言ってないじゃない。何で意思疎通ができてるのよ?」
「そりゃあ『第8柱バルパトス』の動物言語理解でマルコやワニ助を含め、動物の言ってることが理解できるから」
「ここでまた衝撃の事実が。だからマルコと話せてたの……」
今日の修行時間もあと少しで終わりだ。
決戦の日はどんどん近づいている。
「いざ鎌倉」って調べたらちゃんとした言葉だったんですね。
何かのネタだと思っていましたよ。
~おまけ1~
・第8柱バルパトス:動物言語理解
・第32柱アスモデウス:エナジードレイン
・第71柱ダンタリオン:幻術
~おまけ2~
友理(´・ω・)「そういえば風邪を引いた時すごい動揺してたけど、明日奈ってばボクのこと心配してくれたの?」
明日奈(´・ω・)「当然じゃないの」
友理(*´∀`)「いやー、面と言われるとやっぱ照れ――」
明日奈(― ―;)「バカは風邪引かないって言われてんのに、風邪引くんだもの」
友理(#゜Д゜)「誰がバカだと!?」
明日奈(´・ω・)「アンタ」
友理(;゜Д゜)「3文字で論破された、だと……!」




