第32話 DO☆GE☆ZA
インフルの予防接種忘れてた。
2022/12/20
サブタイ・本文・あとがき、全てを書き直し。
そんなこんなで、クラスメイトたちからの冷ややかな視線を切り抜けて放課後。ボクは今回の件に関わる共犯者たちと共に屋上へ向かっていた。
まぁ共犯者っていうか、いつものメンバーなんだけどね。
ただし、昨日までとは空気が違っている。
「くお~~~、まだ痛ぇ~!」
「えっと、その、ゴメン」
珍しく、本当に珍しく、ボクは香坂拓也に対して悪い気分となっていた。
紅葉のような跡の残る頬を押える香坂拓也。
自分じゃ見えないけど眉が下がるほど申し訳ない表情のボク。
たまたま通りかかった人が2度見するレベルで珍しい光景だろう。
ただでさえ共犯者――というか協力者になって貰っている分、今回ばかりは強く出れないのだ。さすがのボクも反省している。
一体何があったかと言えば……
「その、柚木さんが謝ることじゃないよ。今日のことは100%オレが悪いんだし。むしろこの程度で済んで奇跡というか……」
「だけどさぁ、たまたま階段を踏み外してボクの胸を揉んだ程度で本気の平手打ちなんてするつもりなかったんだよ」
そう。あれは午後の移動教室へ向かう途中のこと。
階段を下りる最中の香坂拓也が足を踏み外し、前にいた美江の背中に抱きつきそうになるという珍事が発生しかけた。原作のイベントにも無かった出来事だったんで対処がギリギリになってしまったが、美江の隣にいたボクは咄嗟に庇ったのだ。
このままでは美江が男子に後ろから抱きつかれる→初めて男子に抱きしめられた→怒りつつも相手を意識してドキドキ!?な展開になる可能性アリと、限界突破で光の速度になったボクの脳は答えを導き出した。だから庇った。
――が、
直後に感じたのは己の胸への違和感。
体感抜群のボクの体はブレることなく、香坂拓也の体を受け止めていた――咄嗟に出したのだろう右手が胸を鷲掴みにする形で。
ボクの意識はそこから一瞬だけ途絶える。
後に明日奈は語った。
瞬間、世界から音が消えたと。
後に凛子は語った。
このあと起こることを予想して体が震えたと。
後にめぐみは語った。
周囲のクラスメイトたちが徐々に口をあんぐりさせたと。
後にマヤは語った。
羨ましいし、恨めしいと。
後に瑠維は語った。
血の気が引くと、人の顔ってここまで白くなるのかと。
後に小夜は語った。
100点満点のビンタだったと。
何も語らなかったのは庇われて何が起きたのか見えなかった美江だけだ。
とんでもない破裂音と共に意識が戻ったボクが見たのは、見事な土下座で頭を下げる香坂拓也だった。それも右頬に紅葉マークを付けた。
「ボクはオマエのこと好きじゃないけど、ビンタはさすがにやりすぎだ。自分でも何でこんなことをしちゃったのか記憶が無い……」
本当に不思議だ。
胸を触られたって何とも思わなかったはずなのに。
どうして手が出てしまったのだろう?
「政治家みたいな言い方だな。……ところで、もし、オレが別の子の胸を揉んでたら……柚木さんはどうした?」
「グーで殴ったあと土下座させる」
「やっぱりか!?」
香坂拓也にとっては、どの選択肢を選ぼうが土下座は確定だったわけだ。
「ねえ明日奈? 前からちょっと怪しかったけど、友理って女の子としての羞恥心が他とズレてないかな? 結果として助かったけど」
「母親のお腹の中に置いてきたんでしょ。比喩でも何でもなく」
「いや明日奈よ、いくら母の愛籠(マザー・クレイドル)が友理の生まれる前に育った場所と言っても感情を置いていけるわけでは……何だその目は! 明日奈、なぜ悟りを開いたかの眼差しで我を見るのだ!?」
後ろで美江、明日奈、瑠維が何か議論してた。
失礼な話だ。ボクにだって羞恥心はある。学校の先生を「母さん」って呼んでしまった時はカリスマガードに移行した程だ。
「拓也くんはご愁傷様ですね。運が悪かったと割り切ってもらうほかありません。……秋穂やマヤちゃんがこれ以上彼に何かするようならと今日は私も同行しましたが、思ったよりも大人しいですね?」
「ユウちゃんはね? ちゃんと線引きができる子なんだよ? それなのに思わずその線引きを超えて落ち込んでいるなら、私の仕事はユウちゃんをぎゅ~って抱きしめてあげることだから」
「本来であればわたくしの異能の餌食にして差し上げるのですが……あそこまで綺麗な紅葉マークを見ますとねぇ? 死体にムチを打つのは趣味ではありません」
ついでに八千代さん、お姉ちゃん、マヤの会話も聞こえてきた。
原作のマヤだったら嬉々として香坂拓也を爆死(死んでません)させただろうに。本当良い子に育ったなー。
「模擬戦で死体にムチ打つ行為をした奴が何か頷いている件」
オマエの兄貴は犠牲になったのだ。
ボクは悪くない!
「だけど本当に見事な土下座だったわ」
「ゆゆっちみたいだったね!」
「勢いというか姿勢というか、いつだか友理が言っていた“土下座は芸術”って言葉を思い出すくらい完璧だったよ」
さらに小夜、凛子、めぐみが土下座品評会をしていた。
ところでめぐみさん、ボクそんなこと言ったっけ?
(ボクもあんな感じで土下座したのかな?)
ちょっと凛子が漏らしていたが、実を言うと明日奈に言質を取った翌日、ボクはココにいるメンバーに人生最大級の土下座をしている。
てか、だからこそみんなで瑠維の問題をどうにかしようと動いている。
「ホント、みんな友達想いで最高なヒロインたちだぜ」
と、近づいてきた明日奈が耳元で一言。
「感動演出してるとこ悪いけど、さっきまでアンタが考えてたことを当てたうえで言うわ。兄貴もヒロインも――みんなで瑠維ちゃんの問題に対処しなくちゃいけなくなったの友理のミスが原因でしょうが」
「こんなやり取り前にもあったよね? 何で明日奈はボクの心が読めるのさ?」
瑠維ルート攻略にあたり、日程調整におけるロシアのマフィアが程よく弱体化する工作は上手くいった。アルカとともに3年近く前からシミュレーションを行い、都度修正し続け、ボクの望み通りの時期に瑠維を狙うことが分かった際はお互いハイタッチをして喜びを分かち合ったものだ。
あとはボク、明日奈、忍、アルカ、マルコ、そして当事者であり重要な役目を頼みたい瑠維と八千代さんというメンバーで事に当たる予定であった。
そのあとのマフィア壊滅まで予定を組んでいた。
――なのに、
「取引潰しまくったことで逆に余った人員が、日本に大集合って……!」
「海の向こうのお巡りさんが優秀すぎたのもあるのかもねー」
思わず手で顔を覆う。
予定じゃこんなはずじゃなかったんだ!
アルカのハッキングは本当にすごい。
単純にパソコンやスマホにアクセスできるだけではなく、オフラインの機器にまで秘密裏に繋げてカメラやマイク機能で映像と音声を入手することが可能だから。まともなハッキング対策なんてアルカには通用しない。
そうやって得た情報を元に、時期と人数の調整のために人命に関わらないものに限ってだけど、敢えて取引を見逃したりもすることで微調整していたんだ。やり過ぎても良くないからって。
だというのに、いつの間にかロシア警察に若きエースが爆誕!!
そいつの異能が探知系だったのが運の尽き。
よりにもよって敢えて見逃してた取引の情報を掴んで、頼れる警察仲間たちと一緒に取引を潰さんと奇襲を仕掛けたわけだ。
監視カメラの映像を見せてもらって口あんぐりだね。
完全に動きが映画の世界だったもん。アルカに「これ映画だよね?」ってマジトーンで聞いちゃうぐらい現実離れしていたもん。
何食ったらリアルマトリックスで銃弾避けた姿勢のまま撃ち返して倒せるの? その身体能力、キミの異能と関係ないよね? と、半ば現実逃避した。
警察系の情報は完全にノーマークだった。
気付いた時には手遅れだった。
明日奈の協力を取り付けた日の夜、最終確認にとアルカに再度情報を見直してもらって初めて事態に気付いたんだ。もうその時には日本へ送る人員の増加が決まっていた。具体的には『Heartギア』保持者2人と予定の数倍の構成員さん方が。
気分はドラえ〇んに助けを求めるメガネの少年。
物理的に人が足りず、しかし、あの子を救い出すためには公的機関を頼るわけにもいかず、悩みに悩んで……昼休み、みんなに土下座した。
――人数が足りないんで助けてください、と。
表向きの理由として、瑠維を狙っているマフィアの情報をアルカの力でたまたま入手していた。変に強い人材を送られても困るから、向こうの警察に掴んだ情報を渡して弱体化を図ったけど、警察が優秀すぎてこっちに火が回ることになっちゃった。どうしても助けたい子がいるんで、公的機関には頼りたくない、と。
わざとこの時期にマフィアが来るよう調整したことだけ完全に伏せて、ほとんどのことをゲロッた。
当然、何で黙っていたのかと怒られたけど……
「すぐに『で、私たちは何したらいいの?』って言ってくるの格好良すぎない? 細かい説明はまだだったのに」
「そりゃあ、全力でアタシらが大事に想っているヒロインだもの。兄貴だってそう。主人公がここで弱腰になるなんて無いわよ」
本当そうだよねー。
全部終わったらみんなに借りを返さなきゃな。
~あとがき~
友理(´・ω・)「小夜がやけに褒めてたけど、そんなにボクのビンタすごかった の?」
明日奈(´・ω・)「そうねぇ……年末恒例の落語家さんへビンタする、 フィールド・オブ・バタフライさんがアンタの背後にご降臨してたわ」
友理(;´・ω・)「八千代さんの神社でお祓いできるかな?」
ちょろっと出てたロシアの若きエースさん、思いついたことがあるのでもしかしたら出番があるかも?




